とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

ソーシャルメディアを使った悪性腫瘍研究

2020-03-14 19:16:02 | 癌・腫瘍
稀少癌を対象にして、患者を研究者とソーシャルメディアを使って結び付け、研究のパートナーとなってもらう患者参画研究が進んでいます。米国およびカナダの血管肉腫を対象にしたAngiosarcoma Project(https://ascproject.org/)では18カ月で338人の患者が登録され、whole exome sequencingからKDR, TP53, PIK3CA. PIK3CA-activating mutationsなどが見つかりました。遺伝子変異量(TMB: Tumor Mutation Burden)の高い、様々な治療に抵抗性であった2症例については、オフラベルで抗PD-1抗体が使用され、著効を示したそうです。
Nat Med. 2020 Feb;26(2):181-187. doi: 10.1038/s41591-019-0749-z. Epub 2020 Feb 10.
The Angiosarcoma Project: enabling genomic and clinical discoveries in a rare cancer through patient-partnered research.

アメリカにおける遺伝子治療の現状

2020-03-14 19:14:09 | その他
日本では昨年初めての遺伝子治療薬コラテジェンが承認され話題になりましたが(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/16896/)、遺伝子治療薬の開発についてはわが国は米国に大きく後れをとっています。この論文によると、2017年以降FDAが承認した遺伝子治療薬は4剤、2019年8月末の時点でClinicalTrials.govに登録されている遺伝子治療の治験は341でした。内訳は130 (38%)がin vivo therapies、107 (31%)が遺伝的異常の修復、221 (65%)が癌治療で、funding sourceは35 (10%) がNIH、135 (40%) が企業、85 (25%)が病院、86 (25%) が大学でした。数もさることながら、病院や大学がスポンサーになっている治験が数多く走っているという事実にも彼我の差を感じます。
JAMA. 2020 Mar 3;323(9):890-891. doi: 10.1001/jama.2019.22214.
Sponsorship and Funding for Gene Therapy Trials in the United States.

Why Test for Proportional Hazards?

2020-03-14 11:43:31 | その他
Cox proportional hazard modelはRCTにおける生存解析のスタンダードとされていますが、基本的にhazard ratio(HR)が常に一定であることを前提にしています。しかし実際には①はじめは有害事象発生率に有意差はないが、徐々に減少する例(スタチン治療群の心血管イベント JAMA. 1998;279(20):1615-1622)、②はじめはHRは高いがしばらくしてから改善していく例(大腸癌のスクリーニング群 JAMA. 2014;312(6):606-615)、③はじめはHRが高いが、その後低くなっていく例(WHIにおけるエストロゲン+プロゲステロン群の心血管イベントJAMA. 2002;288(3): 321-333)などがあり、HRが一定であることは通常ありません。特に③のような例ではリスクの高いヒトは早期にイベントを起こして脱落していくので、最後まで残った参加者は心血管イベントに抵抗性のヒトが多い可能性があります。したがって著者らはHRを示すときには、例えばRMST (restricted mean survival time) などから算出した効果も同時に示すべきであるとしています。 
Why Test for Proportional Hazards?
JAMA. Published online March 13, 2020. doi:10.1001/jama.2020.1267


小児SARS-CoV-2感染患者では糞便からのウイルス排出が長期持続する

2020-03-14 09:27:41 | 新型コロナウイルス(疫学他)
新型コロナウイルスは小児には感染しにくいと当初考えられていましたが、Nature Medicineに小児感染例10例について詳細なデータが広州医科大学から報告されました。
感染者との濃厚接触者を中心に745人の小児と3,174名の成人の鼻咽腔swabをRT-PCRでscreeningし、それぞれ10名(1.3%)、111名(3.5%)が陽性であり、成人が有意に高率(2.7倍, p=0.002)で陽性でした。小児例については6人が男児で4人が女児、年齢は生後2カ月から15歳。7名は熱発しましたが、入院時に39度を超える児はいませんでした。他の症状としては咳嗽、咽頭痛、鼻閉や鼻漏、下痢などでした(1名は全くの無症状)。胸部XPでは肺炎の所見は認められませんでしたが、CTでは5名に主として肺野外側に感染の所見(isolated or multiple patchy ground-glass opacities)が見られました。検査結果は1名に白血球減少などを認めた以外は正常。サイトカインの検査ではIL-17FとIL-22が7名で上昇、IL-6が5名で上昇。全員にRecombinant Human Interferon alpha 2b spray(日本にもあるのでしょうか?)で治療。
さてこの論文の見どころは鼻腔咽頭および直腸からサンプルを採取して経時的にウイルス検査を行った点です。詳細に記載します。
・Patient 4は無症状だったが、多数回陽性
・Patient 6は鼻咽腔サンプルで陽性だった時には無症状だったが、その後鼻閉・鼻漏出現
・その他の8名は発症すぐに陽性
・8名は直腸サンプル(rectal swab)でもウイルス陽性であり、便からのウイルス排出が考えられました。鼻腔咽頭で陰性になった後も直腸サンプルの陽性所見は持続しました。
・24時間ごとの鼻咽腔および直腸サンプル検査で2回連続陰性になったために退院になった4名(Patient 2, 4, 7, 10)のうち2名(Patient 2, 10)は退院後直腸サンプルで再び陽性になりました。
・Patient 2は退院13日後に直腸サンプル陽性になりましたが、興味深いことにCOVID-19になり、回復・退院した母親も同じ日に直腸サンプル陽性になりました。
・Patient 10は退院6日後に直腸サンプル陽性になり、再入院となりましたが、鼻腔咽頭サンプルは陰性のままでした。
・Patient 1, 3, 5, 6, 8, 9については直腸サンプル陽性が続いているため入院継続となっています(症状は軽快しているそうです)。
以上のことから、(特に小児では)消化管からのウイルス排出は呼吸器よりも長期間持続し、糞口感染を生じる可能性があると考えられます。ただし糞便中のウイルスが複製可能(replication-competent)かどうかはわからないようです。
Characteristics of pediatric SARS-CoV-2 infection and potential evidence for persistent fecal viral shedding
Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0817-4