goo blog サービス終了のお知らせ 

とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

デノスマブ中断後のゾレドロン酸投与タイミングの違いは骨密度低下に影響しない

2020-06-30 11:35:07 | 骨代謝・骨粗鬆症
MedScapeでも紹介されていましたので、読んだ方も多いかと思います。デノスマブ(Dmab)投与中断後に急速な骨代謝マーカー上昇および骨密度低下が生じ、多発椎体骨折を生じる患者がいることが知られており、中断後にはビスホスホネート投与が推奨されていますが、その有効性について最近いくつかのグループから報告がなされています(Reid 2017; Lehman 2017; Horne 2018; Everts-Graber 2020; Anastasilakis 2019)が、骨密度維持効果や投与のタイミングなどについて、必ずしも一定した見解は示せていません。この論文は、59名のDmab中断患者を中断6カ月後(6M group)、9カ月後(9M group)、骨代謝マーカー上昇時(OBS group)にゾレドロン酸(ZOL)投与群にランダムに割り付け、投与後12カ月までの骨密度の変化などを検討したものです。
(結果)ZOL投与から6カ月後の腰椎骨密度の減少は、6M, 9M, OBS groupそれぞれで2.1 ± 0.9% (mean ± SEM), 4.3 ± 1.1%, 3.0 ± 1.1%、12カ月後は4.8 ± 0.7%, 4.1 ± 1.1%, 4.7 ± 1.2% であり、各群とも有意に減少しており、群間の有意差はありませんでした。ZOL投与後6カ月目の大腿骨頚部の骨密度低下は6M groupで有意に少なかったものの(1.3% vs 4.2% vs 2.7%)、12カ月後には群間差はなくなりました(3.0% vs 4.5% vs 4.6%)。骨代謝マーカーについては6 M groupでp-cross-linked C-terminal telopeptide (p‐CTX)が投与1カ月後に低下した以外はいずれのグループも骨形成・骨吸収マーカーともに急速な上昇が見られました。骨折は4例に見られ、それぞれ上腕骨骨折(高エネルギー外傷, 6M group, ZOL投与9カ月後)、肋骨骨折(低エネルギー外傷, OBS group ZOL投与10カ月後)、臨床L1骨折(低エネルギー骨折, 9M group, ZOL投与9カ月時)、臨床 L1骨折(低エネルギー骨折, 9M group, ZOL投与9カ月時)でした。以上の結果から、Dmab中断後のZOL投与では十分な骨密度低下抑制作用は期待できないと結論しています。
Anne Sophie Sølling et al., Treatment with zoledronate subsequent to denosumab in osteoporosis: a randomized trial. J Bone Miner Res. 2020 May 27. doi: 10.1002/jbmr.4098.





デノスマブの転倒抑制効果ーa pooled analysis-

2020-06-06 16:13:46 | 骨代謝・骨粗鬆症
ヒト型抗RANKL抗体であるデノスマブは、RANKLと結合してRANKとの結合を競合的に阻害することで骨吸収を抑制し、脆弱性骨折を防止する骨粗鬆症治療薬です。Pivotal studyであるFREEDOM試験では大腿骨近位部骨折を3年間の投与で40%減少させることが報告されています。その効果は主として骨密度増加によるものであるとされていますが、①顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー患者に投与したところ、わずか24時間で握力増加と歩行能力改善が見られた(Lefkowitz SS et al., Am J Case Rep. 2012;13:66-8)②閉経後女性にデノスマブを3年間投与したところ、握力の増加が見られた(Bonnet N et al., J Clin Invest. 2019 May 23;129(8):3214-3223)などの報告もあり、筋に対する直接的な効果があるのではと考えられています。
この論文は5つのプラセボ対照試験のpooled analysisを行い、デノスマブの転倒に対する効果を検討してものです。対象となった研究は骨粗鬆症に対する3つの臨床試験と癌治療関連骨減少症(cancer treatment-induced bone loss, CTIBL) に対する2つの臨床試験です。プールされた症例は10,036例、男性が16.9%です。平均年齢は72歳で半数弱が既存骨折ありでした。6682例が75歳未満、3354例が75歳以上でした。デノスマブ群、プラセボ群の背景に差はなく、全症例の25水酸化ビタミンD3値の中間値は21 ng/mLでした。フォローアップ期間はデノスマブ36.0カ月、プラセボ35.9カ月です。
1度以上の転倒を報告したのはデノスマブ群4.6% vs プラセボ群5.8%(hazard ratio, HR=0.79, 95% CI 0.66-0.93)でデノスマブによる転倒防止効果は21%でした。5つの試験すべてでデノスマブ群で転倒は少なく、傾向は一定でした。Pooled HRはベースラインの年齢、大腿骨近位部骨密度、非椎体骨折の既往歴、地域をそろえても同様でした。デノスマブの効果は年齢と交互作用があり、75歳未満の方が有効性は高く、HRは75歳未満で0.65(95% CI 0.52-0.82)だったのに対し、75歳以上では1.01(95% CI 0.78-1.31)でした。性別との交互作用はありませんでした。
以上の結果からデノスマブが高齢者の転倒を抑制する可能性が示されましたが、この論文に対してはアルファ誤差=0.05(両側)、ベータ誤差=0.20(乗数80%)、相対的リスク低減の予測値20%を想定して推定したところ、登録された参加者数(n = 10,036)が必要な情報量(n = 16,644)を超えていないという批判もあり(Wu X-D et al., J Bone Miner Res. 2020 Jun 3. doi: 10.1002/jbmr.4051)、今後前向きの試験が必要と考えられます。
Chotiyarnwong P et al., J Bone Miner Res. 2020 Jan 30. doi: 10.1002/jbmr.3972. "A Pooled Analysis of Fall Incidence From Placebo-Controlled Trials of Denosumab"


骨代謝の中枢神経制御におけるPGE2の関与

2020-06-05 10:14:42 | 骨代謝・骨粗鬆症
Johns Hopkins UniversityのXu Caoは現在最もactiveに研究成果を報告している骨代謝研究者の一人ですが、今回は中枢神経による骨代謝制御についての詳細な研究成果をJournal of Clinical Investigationに報告しました。彼らはこれまでに感覚神経(sensory nerve)が骨芽細胞の「シグナル」を感知して交感神経系シグナル(sympathetic tone)による骨形成抑制作用をブロックすることで骨恒常性を維持することを報告していますが(Chen H et al., Nat Commun. 2019;10(1):181)、今回の論文ではこの骨芽細胞「シグナル」がprostaglandin E2(PGE2)である可能性を示しました。
感覚神経で神経性成長因子の受容体TrkAを欠損させたマウス(Advillin-Cre; TrkAfl/fl)は生後3カ月くらいで海綿骨の低下が見られますが、このとき骨芽細胞の減少と脂肪細胞の増加が見られます。このような変化は間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)から骨形成細胞への分化抑制、脂肪細胞への分化亢進が原因でした。同様の現象は感覚神経でPGE2受容体EP4を欠損させたマウスでも見られました。COX2遺伝子の骨芽細胞特異的KOマウスにおいて同様のphenotypeが見られることからPGE2のソースは骨芽細胞であると考えられました。このような変化はβブロッカーであるpropranololやβ2 adrenoceptor antagonistであるICI118551によって回復したことから、sympathetic toneの亢進が原因であると考えられました。次に彼らはcapsaicinによるsensory denervationモデルを用いてleptin受容体(LepR)陽性のMSCがこれらの変化に関与していることを示しました。一方EP4をLepR陽性細胞や骨芽細胞で欠損させても骨組織に変化は見られなかったことから、PGE2の標的はMSCや骨芽細胞ではなく、感覚神経であることが分かりました。最後に骨折モデルを用いて、感覚神経特異的EP4欠損マウスでは骨折後の骨形成が抑制されており、これは15-PGDHを抑制して間接的にPGE2の蓄積を誘導するSW033291で回復することが示されました。
以上から骨芽細胞の産生するPGE2→感覚神経のEP4を活性化→中枢神経を介して交感神経を抑制→LepR陽性MSCから骨芽細胞分化↑脂肪細胞分化↓というpathwayによって神経による骨恒常性維持機構が働いていることが示されました。神経系によって骨代謝が制御されていることは、例えば複合性局所疼痛症候群(CRPS)で骨萎縮が生じることからも明らかであり、この研究はそのメカニズムを示したという点で重要なものです。
Hu B et al., J Clin Invest. 2020 May 26;131554. doi: 10.1172/JCI131554. Sensory Nerves Regulate Mesenchymal Stromal Cell Lineage Commitment by Tuning Sympathetic Tones 

持久運動における筋代謝制御にIL-13が関与する

2020-05-05 16:08:54 | 骨代謝・骨粗鬆症
運動には多くの利点があり、中でも種々の慢性疾患に対しては良好な治療的効果を示すことが知られています。変形性膝関節症では運動療法を凌駕する薬物はほとんどないほどです。筋収縮による代謝活動の増加は多くの組織やシグナル経路を変化させてエネルギーおよび酸素の需要に対応します。例えば持続的な運動によってエネルギーが必要になった場合には、必要なエネルギー供給は解糖系→クエン酸経路(TCAサイクル)すなわち糖→脂肪酸をエネルギー源にする経路へのスイッチの切り替えによって達成されます。しかしこのようなスイッチの切り替えがどのようなメカニズムで生じているのかは十分にわかっていません。この論文で著者らは持久運動がマウス筋肉中の主たるインターロイキン13(IL-13)供給細胞である2型自然リンパ球(ILC2)の増殖を介してIL-13の血中レベルを上昇させることを明らかにしました。IL-13欠損マウスは持久運動能が低下していますが、これはIL-13が持久運動に伴う筋におけるミトコンドリアネットワークや脂肪酸酸化に関与する遺伝子発現誘導に関与しているためであることがわかりました。IL-13は受容体IL-13Rα1を介して骨格筋に作用し、Stat3を活性化し、核内受容体およびミトコンドリア制御因子であるERRα, ERRγを介して運動による代謝プログラム制御に関与していました。また筋におけるIL-13レベルを増加させることで持久運動に類似した代謝経路が活性化され、糖代謝も改善することが明らかになりました。
これらの結果から、IL-13およびその産生を高めるILC2細胞は運動による代謝改善の重要なプレイヤーであると考えられます。今後ドーピング検査にIL-13測定も必要になるかもしれません。

局所の炎症細胞による異所性骨化の制御

2020-04-07 15:31:26 | 骨代謝・骨粗鬆症
進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressive, FOP)という疾患があります。主として筋内に異所性骨化が生じ、最終的にはほとんど動くことができなくなるという重篤な疾患で、日本でも難病に指定されています。原因遺伝子はALK2と呼ばれる骨形成因子受容体で、ALK2の活性型変異が患者では存在することが報告されています。変異型ALK2は通常では活性化されないアクチビンAによって活性化され、異所性の骨形成に関与すると考えらえています。この疾患の特徴として、生まれた直後から異所性骨化があるわけではなく、学童期から徐々に骨化が進んでいくのですが、骨化が出現するトリガーになるのが外傷です。例えばなんでもない打撲などがきっかけとなって筋内に著明な骨化が生じたりします。骨化が生じる際にはflare-upと呼ばれる炎症を伴う前兆が生じることが多く、炎症が異所性骨化に何らかの影響を与えているのではないかと考えられています。
さてこの論文で著者らは筋内に存在する血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor, PDGF)受容体α陽性の線維脂肪前駆細胞(fibro-adipogenic progenitor, FAP)に着目し、この細胞の異所性骨化への関与を検討しました。まずPDGFRα+細胞を特異的に検出するtamoxifen誘導型lineage-tracing マウス(PDGFRαCT2/td.Tomatoマウス)を作成しました。このマウスを用いてBMP2誘導の筋内異所性骨化においてPDGFRα+細胞が骨形成において主たる役割を担っていることを明らかにしました。この細胞は並体結合(parabiosis)では移植されないことから、骨髄由来の細胞ではなく、組織に存在する細胞であることが示されました。著者らは以前にケモカイン受容体であるC-C chemokine receptor type 2(CCR2)を欠損したマウスでは、急性筋損傷による局所への単球/マクロファージの遊走が抑制されていると同時に、局所に存在するFAPの排除が遅延し、筋再生が低下していることを報告しています(Lemos et al., Nature Medicine. 2015 Jun 8;21(7):786–94)。興味深いことにCCR2 KOマウスでは急性筋損傷にともなってBMPがない状態でも異所性骨化を示しました。また損傷部位におけるFAPのRNA-seqから、骨化や石灰化、軟骨分化関連の遺伝子発現がCCR2 KOマウスでは長期間持続していることが明らかになりました。CCR2 KOマウスでは好中球など他の炎症細胞には変化がないため、この結果から炎症にともなう局所の単球/マクロファージ遊走とそれらの細胞によるFAPの排除が金組織の修復に重要であり、この過程が正常に働かないことが異所性骨化の原因の一つと考えられます。FOP患者において局所の単球/マクロファージ集積、FAPの排除に異常があるかどうかについては、FOPの症状緩和にもつながる今後の課題としています。
最後にPDGFRα陽性細胞の筋再生における役割については健康長寿医療センターの上住聡芳先生も大変先駆的な仕事をされていることを付け加えさせていただきます(https://www.tmghig.jp/research/team/rounenbyotai/kinroukasaiseiigaku/ )。
Murine tissue‐resident PDGFRα+ fibro‐adipogenic progenitors spontaneously acquire osteogenic phenotype in an altered inflammatory environment
Christine Eisner et al.
https://doi.org/10.1002/jbmr.4020