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とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

喫煙はカドミウム曝露増加を介して骨密度低下・骨折リスクを増加させる

2020-03-24 16:08:18 | 骨代謝・骨粗鬆症
喫煙は様々な疾患のリスク因子となっていますが、骨粗鬆症も例外ではなく、喫煙者は骨折リスクが高いことが知られています。喫煙がどのような機序で骨折を増加させるのかについては不明な点も多く、例えば酸素濃度が下がることで転倒しやすくなるのではないか、などとも推測されていたのですが、本研究で著者らは喫煙がカドミウムへの曝露を増加させることで骨密度低下、骨折のリスクを高めるという非常にユニークな結果を示しています。
日本人にとってカドミウムはイタイイタイ病の原因として悪名が高いですが、低濃度のカドミウムへの曝露であっても骨粗鬆症および骨折のリスクを上昇させることが最近報告され、注目されています(Akesson et al., Environ Health Perspect. 2014;122(5):431-8; Sommar et al., Calcif Tissue Int. 2014;94(2):183-90; James et al., Int J Public Health. 2013;58(5):737-45; Engstrom et al., Bone. 2012;50(6):1372-8)。この研究では男性骨粗鬆症研究で有名なMrOS studyのスウェーデン人コホート(Wallin et al., J Bone Miner Res. 2016;31(4):732-41) において、高齢男性886人(never smoker 353人、former smoker 463人、current smoker 70人)を対象として、尿中カドミウム値と、骨密度や骨折との関連を検討しました。
平均の尿中カドミウム濃度は0.25 μg/g creatinineでした。喫煙とtotal body, total hip, trochanter BMDは負の相関を有していました。またカドミウム曝露が間接的に全身骨密度に与える影響は43%と算出されました。また喫煙は骨折(all fracture, major osteoporosis fracture)のリスクを高め、カドミウム曝露の骨折に与える間接的な影響は非椎体骨折、大腿骨近位部骨折で最も高く、少なくとも50%以上存在することが分かりました。
以上の結果から、喫煙の骨粗鬆症リスク増加にはカドミウム曝露増加が関与している可能性が示唆されました。骨粗鬆症以外にも様々な疾患で喫煙がリスク因子になっていますので、今後これらの疾患とカドミウムとの関係は興味深いテーマになりそうです。
Smoking‐induced risk of osteoporosis is partly mediated by cadmium from tobacco smoke: The MrOS Sweden Study
J Bone Miner Res. 2020 Mar 19. doi: 10.1002/jbmr.4014. [Epub ahead of print]


ARCH試験の東アジア患者での解析

2020-03-21 14:27:46 | 骨代謝・骨粗鬆症
Romosozumabとalendronateの臨床効果を比較したARCH studyでは、1年目romosozumabu→2年目alendronate(Romo群)は2年間alendronate群(ALN群)と比較して骨密度増加に優れ、脆弱性骨折の減少が見られましたが、重篤な心血管有害事象がRomo群で多かったという結果でした。このためromosozumabの承認は遅れ、またわが国でも「骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること」という警告が出されています。今回の論文は東アジア(香港、韓国、台湾)からのARCH study参加者のサブ解析です。2年目の新規椎体骨折はRomo群で60%少なく (P = 0.11)、臨床骨折は44% (P = 0.15)少ないという結果でした。骨密度はRomo群の方が有意に増加していました。重篤な心血管有害事象については12カ月の時点でRomo群1.6% vs ALN群1.4%と差はありませんでした。N数が少ない(Romo群146、ALN群129)ので確実なことは言えませんが、少なくともアジア人では著しい心血管イベント増加は無いといってよさそうです。 
Osteoporos Int. 2020 Apr;31(4):677-685. doi: 10.1007/s00198-020-05324-0. Epub 2020 Feb 11.
Romosozumab or alendronate for fracture prevention in East Asian patients: a subanalysis of the phase III, randomized ARCH study.
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00198-020-05324-0

エナメル細胞に対するフッ化物の作用

2020-03-14 19:29:15 | 骨代謝・骨粗鬆症
フッ化物(fluoride)は歯や骨などの石灰化組織に沈着し、適切量の摂取はう蝕予防効果があることが知られています。フッ化物が添加さている歯磨き粉もたくさん売られていますし、海外では水道水にフッ化物が添加されている国も多くあります。しかし過剰量のフッ化物摂取はdental fluorosis(斑状歯など)やskeletal fluorosisを惹起します。この論文ではフッ素(NaF)刺激がエナメル細胞において、特異的な細胞内カルシウムシグナルを生じることを明らかにしています。またこれによってミトコンドリア機能にも影響を与えます。この結果はエナメル細胞においてはフッ素の特異的な受容メカニズムが存在する可能性を示唆するものです。ただしこの研究で使用しているNaFの濃度はmM単位と非常に高濃度のものですし、NaFが蛋白抽出時にphosphatase inhibitorとして使用されていることを考えると、この濃度で投与すれば色々な反応を生じるのは当然な気もします。
Sci Signal. 2020 Feb 18;13(619). pii: eaay0086. doi: 10.1126/scisignal.aay0086.
Fluoride exposure alters Ca2+ signaling and mitochondrial function in enamel cells.

破骨細胞のオリジンに関する新知見

2020-03-13 18:43:53 | 骨代謝・骨粗鬆症
CSF-1の機能に欠損があるop/opマウスでは生直後には破骨細胞が存在せず、歯牙萠出異常を伴う大理石骨病を呈するのですが、徐々に破骨細胞が出現し、正常な骨組織に置き換わっていきます。このことは長らく謎でありましたが、この論文で著者らは発生時の骨吸収や歯牙萠出に必要な破骨細胞はembryonic erythro-myeloid progenitor (EMP) lineage of resident macrophagesに由来することを明らかにしました。一方生後の骨組織においてはhaematopoietic progenitorに由来する破骨細胞が重要であり、破骨細胞の安定供給に寄与することを示しました。破骨細胞オタクにとっては感涙ものの論文であります。 
Nature. 2019 Apr;568(7753):541-545. doi: 10.1038/s41586-019-1105-7. Epub 2019 Apr 10.
Developmental origin, functional maintenance and genetic rescue of osteoclasts.

軟骨無形症に対するCNPの有効性

2020-03-13 18:30:07 | 骨代謝・骨粗鬆症
軟骨無形成症患者に対すC-type natriuretic peptide(vosoritide)週1回投与の安全性および有効性を検証したphase III trialの結果です。データを見ると身長の伸びが悪いグループに対して有効性が高いように見えます。またbody proportionについては、upper-bodyおよびlower-body segmentsは比例的に伸長していたが、upper-to-lower body segment ratioには有意な変化は見られなかったとのことです。Serious adverse eventsについては特に問題視すべきものはなさそうとのことで、臨床で用いられる日も近そうです。 
N Engl J Med. 2019 Jul 4;381(1):25-35. doi: 10.1056/NEJMoa1813446. Epub 2019 Jun 18.
C-Type Natriuretic Peptide Analogue Therapy in Children with Achondroplasia.