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とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

低カルボキシル化オステオカルシンの割合が転倒による入院と関連する

2020-12-04 09:59:19 | 骨代謝・骨粗鬆症
オステオカルシン(OC)は骨芽細胞が産生する骨基質タンパクであり、骨代謝マーカーとしては骨形成を反映するマーカーとして用いられ、年齢とともに高骨代謝回転になった場合には血中濃度が上昇します。OCはビタミンK依存性にγ-カルボキシル(Gla)化され、これによって骨組織に対するaffinityが高まることが知られています。Gla化が低下している低カルボキシル化OC(ucOC)はビタミンKの不足状態を表すと考えられていますが、年齢とともに全OC(tOC)に対する割合が増加することが報告されており、特にDelmasらがucOC高値が大腿骨近位部骨折のリスクになることを報告して以来注目されるようになりました(Szulc et al., J Clin Invest. 1993 Apr;91(4):1769-74)。日本ではビタミンKを豊富に含む納豆の消費と骨粗鬆症との関連が報告され(Horiuchi et al., J Bone Miner Metab. 2004;22(3):236-40)、ビタミンK2(メナテトレノン)が骨粗鬆症治療薬として承認されているという点でユニークで、ビタミンKの充足率を表す指標としてucOCは使用され、ビタミンK2処方の目安にもなっています。さてこの論文の著者らはucOC/tOC比が高齢男性で上昇することを最近報告していますが(Smith et al., Bone 2020 Jan;130:115085)、本論文ではオーストラリア・ニュージーランド高齢女性1261名の15年にわたる調査から、ucOC/tOC比高値が転倒に関連した入院リスクを高めることを示しました。4分位で最も比が高いグループは、背景因子を調整しても転倒関連入院リスクに関連していました(hazard ratio [HR] = 1.31, 95% confidence interval [CI] 1.09–1.57, p = .004)。相関はさほど高いものではないので、何らかの交絡因子が存在する可能性もありますが、転倒リスクが高いpopulationを抽出し、介入する上で重要な知見と考えられます。


ビスホスホネートによる非定型大腿骨骨折発生のリスク因子の解析

2020-08-21 23:00:07 | 骨代謝・骨粗鬆症
1990年代の半ばにアレンドロン酸の第3相臨床試験であるFIT(Fracture Intervention Trial)において薬物による骨粗鬆症患者の骨折予防が可能であることがRCTで示されたことは骨代謝分野では画期的な出来事でした(Liberman et al., N Engl J Med. 1995 Nov 30;333(22):1437-43; Black et al., Lancet. 1996 Dec 7;348(9041):1535-41)。これ以降アレンドロン酸やリセドロン酸などのビスホスホネート製剤(BP)は骨粗鬆症治療のgold standardであり続けています。骨組織へのaffinityが高く、副作用が少ないという優れた特性を有するビスホスホネート製剤ですが、これまでに主たる問題点として挙げられているのが顎骨壊死と非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture, AFF)です。骨粗鬆症患者に多い大腿骨近位部骨折とは異なる部位の骨折(大腿骨転子下骨折、大腿骨骨幹部骨折)はAFFと呼ばれ、ビスホスホネート治療患者で生じることは、症例報告レベルで2007年ころから報告されるようになりました(Goh et al., J Bone Joint Surg Br. 2007 Mar;89(3):349-53など)。アメリカ骨代謝学会(ASBMR)ではtask forceが立ち上げられ、その実態が検討された結果、BPの長期使用によってAFFは増加するものの、その頻度は大腿骨近位部骨折と比較して極めて低いこともわかってきました(Shane et al., J Bone Miner Res. 2010 Nov;25(11):2267-94; Shane et al., J Bone Miner Res. 2014 Jan;29(1):1-23)。ということで現在はrisk-benefitを考えればBP使用をためらうべきではないという考えが一般的です。
今回Blackらは大規模な前向きコホート研究によって、AFF発生とBP使用との関係やリスク因子を縦断的に解析し、risk-benefit profileなどを詳細に報告しています。
(方法および結果)Kaiser Permanente Southern California health care systemに加入している50歳以上の女性患者を対象とし、2007年1月1日から2017年11月30日までの骨折発生を前向きに検討しました。AFFはInternational Classification of Diseases (ICD) diagnosis codesを用いて抽出し、高エネルギー外傷によるものは除外しました。コホート全体は1,097,530人の患者からなり、観察期間のいずれかの時点でBPを使用したのは196,129人(17.9%)でした。
BP使用者の中で277件のAFF(1.74/10,000人・年)、9102件の大腿骨近位部骨折(58.90/10,000人・年)が発生しました。65歳から74歳、75歳から84歳の患者(2.24および2.35/10,000人・年) は50歳から64歳、85歳以上の患者(0.83および0.99/10,000人・年)よりもAFF発生が高率でした。一方大腿骨近位部骨折の発生は年齢とともに増加しました。アジア人では白人と比較してAFFは多く(5.95 vs 1.09/10,000人・年)、大腿骨近位部骨折は少ない(20.41 vs 81.18/10,000人・年)ことがわかりました。
BP使用期間とAFF発生との間には正の相関があり、3カ月未満では0.07/10,000人・年であったのに対し、8年以上の患者で13.10/10,000人・年でした。背景因子を調整しないhazard ratio(HR)は3カ月未満の使用に対して3年から5年で33.76(95% confidence interval [CI], 12.07 to 94.48)、8年以上で179.51(95% CI, 64.64 to 498.52)でした。背景因子を調整しても有意な差があり、3年から5年で8.86(95% CI, 2.79 to 28.20)、8年以上で43.51(95% CI, 13.70 to 138.15)でした。なおBP非使用患者におけるAFF発生は0.10/10,000人・年でした。
BP中止によってAFFの発生は減少し、使用中あるいは中止後3カ月以下の患者で4.50/10,000人・年だったのに対して3カ月から15カ月中止患者で1.81/10,000人・年、15カ月超中止患者では約0.50/10,000人・年でした。
多変量解析の結果、有意なAFFリスク因子としては、白人に対するアジア人(HR 4.84)、身長低下(5 cmの低下についてHR 1.28)、体重増加(5 kgの増加についてHR 1.15)、年齢(65歳から74歳に対して85歳超でHR 2.76)、glucocorticoidの使用(1年以上の使用で不使用患者に対してHR 2.28)が同定されました。骨密度とAFFリスクとの関係は有意ではありませんでした。
Risk-benefit analysisの結果、特に白人では全ての観察期間においてBP使用の骨折予防効果はAFF発生リスクを大きく上回るものでした。アジア人でもBPの有用性は示されましたが、AFF発生が多いことからbenefitは少し低いものでした。白人では3年間・1万人のBP使用によってAFFが2件発生したのに対し、予防できた大腿骨近位部骨折は149件、臨床骨折は541件、10年ではそれぞれ38件、591件、1363件でした。一方アジア人では10年間・1万人のBP使用によって発生するAFFは236件、予防できた大腿骨近位部骨折は360件、臨床骨折は831件でした。
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本前向き研究によってAFFの絶対数は予防できる骨折数と比較すると極めて少ないことが改めて確認されました。一方で以前の報告で関連ありとされていた高齢、既存骨折、低骨密度との関係は示されませんでした。これは高齢者の活動度が低いことなどとも関連があるのかもしれません。アジア人にAFFが多いことは以前の研究によっても示されており(Dell et al., J Bone Miner Res 2012; 27: 2544-50)、今回の研究においても背景因子を調整しても有意であり、日本人としては気になるところです。その理由としては服薬アドヒアランスの高さに加えて、大腿骨の外弯が強いなどの解剖学的な差異が関与している可能性があります(Hyodo et al., J Bone Miner Metab 2017; 35: 209-14; Cho et al., Arch Osteoporos 2018; 13: 53; Saita et al., Bone. 2014 Sep;66:105-10)。今回の縦断研究によってAFFとBPとの関係が明瞭になりました。長期間のBP使用はベネフィットが勝るとはいえ、アジア人の場合には少し注意する必要がありそうです。 


II型糖尿病患者では骨代謝マーカーと骨折リスクは関連しない

2020-08-06 19:12:39 | 骨代謝・骨粗鬆症
骨吸収・骨形成マーカーなどの骨代謝マーカー(BTM)の高値が骨折リスクの独立したリスク因子であることはDelmasらのEPIDOS studyを始めとして多くの研究から明らかになっています(Garnero et al., J Bone Miner Res. 1996 Oct;11(10):1531-8. doi: 10.1002/jbmr.5650111021など)。II型糖尿病(T2DM)患者では骨密度が高値であっても骨折リスクが高いことも良く知られています。この論文で著者らはT2DM患者においてはBTMが臨床骨折のリスクと無関係であることを地域在住高齢者コホートの研究から明らかにしました。一方同じコホートの非T2DM参加者においてはBTM高値は骨折リスクと相関していました。これはT2DM患者においてはインスリン反応性が低下しているため、骨代謝回転が低値な人が多いことに起因するのかもしれません。
Napoli et al., J Bone Miner Res. Bone turnover markers do not predict fracture risk in type 2 diabetes. 2020 Jul 27. doi: 10.1002/jbmr.4140.

カテプシンK阻害薬Odanacatibは骨形成を阻害することなく骨吸収を抑制する

2020-07-19 18:45:58 | 骨代謝・骨粗鬆症
カテプシンKは破骨細胞に高発現するシステインプロテアーゼとして当時明海大学におられた久米川正好先生、手塚健一先生らによってはじめて同定されました(Tezuka et al., J Biol Chem. 1994 Jan 14;269(2):1106-9)。Odanacatib(ODN)はカテプシンK特異的な阻害作用を有する骨粗鬆症治療薬として開発が進み、大規模なphase III studyであるLong‐term Odanacatib Fracture Trial(LOFT; NCT00529373)において脆弱性骨折予防効果が示されましたが、脳梗塞の有害事象が有意に増加した(1·7% [136/8043] vs 1·3% [104/8028], HR 1·32, 1·02-1·70; p=0·034)ということで開発が断念されたという悲しい経緯があります(McClung et al., Lancet Diabetes Endocrinol. 2019 Dec;7(12):899-911)。これは本当に残念なことで、ODNが市場に出ていれば、少なくとも日本ではNo.1骨粗鬆症治療薬になっていたのは疑いないと思います。最新号のJBMRにLOFT試験に参加した患者の骨生検標本の詳細な解析についての論文が掲載されました。 全部で386例(baseline: ODN n = 17, placebo n = 23, month 24: ODN n = 112, placebo n = 104, month 36: ODN n = 42, placebo n = 41, month 60: ODN n = 27, placebo n = 20)という膨大な数の生検標本を解析した結果、ODNは骨吸収抑制薬でありながら、骨形成を抑制せず、中でも外骨膜における骨モデリングは年とともに増加していくという極めて興味深い結果が確認されました。これは破骨細胞の分化には影響せず、活性化のみを抑制し、破骨細胞数はむしろ増加するというODNの特徴的な作用によるものと考えられます。
Fig. 2の活性を失った破骨細胞が骨表面にならぶ組織写真とか、Fig. 4のきれいなdouble labelの蛍光写真とか、本当にゾクゾクものですよ。このような結果を見るにつけ、どこかの会社が頑張って日本だけででも販売してくれないものか・・と切に望んでるのですが(検討してくれた会社は何社かあったのですが、いずれも断念という結論でした(´·ω·`)ショボーン)。。


デノスマブのモデリング依存性骨形成促進作用

2020-07-19 11:19:00 | 骨代謝・骨粗鬆症
Denosumabは破骨細胞分化・活性化を抑制することで骨密度を上昇させ、脆弱性骨折を減少させますが、リモデリングに伴う骨形成(remodeling-based bone formation, RBBF)も強力に抑制することが知られています。しかしビスホスホネートとは異なり、大腿骨近位部の骨密度が持続して上昇することから、RBBF以外のメカニズムで骨密度増加を生じているのではないかと考えられています。以前Ominskyらはサルを用いた検討から、モデリングによる骨形成(modeling-based bone formation, MBBF)がその機序ではないかと報告しました(J Bone Miner Res. 2015 Jul;30(7):1280-9)。今回のDempster先生らの報告はこれをヒトサンプルで示したものです。予定人工股関節全置換術をうけた患者で、デノスマブを2回以上投与された患者(Dmab群)の大腿骨頚部におけるRBBF, MBBFを組織学的に検討しました。コントロール(CTL群)としては手術前3カ月以内にステロイドや骨粗鬆症治療薬投与を受けた患者、1年以内にビスホスホネート投与を受けた患者は除外しています。
MBBFが見られた患者の割合はCTL群およびDmab群でcancellous 81.8% vs 100%、Endocorical 81.8% vs 100%、Periosteal 100% vs 100%でした。骨形態計測ではMBBFはDmab群でcancellous 9.4倍、endocorticalで2.0倍に増加しており、RBBFが5.0倍、5.3倍減少していたのと対照的でした。MBBFはメカニカルストレスによる骨径の増加と関連していると考えられますが、これが持続的な骨密度増加の一端を担っている可能性が示されました。