政吉は近々所帯を持とうとしている。相手はおかよ、という。が、ひとつだけ、継母がいるということを隠していた。その行方知らずの継母が気になっていた。できれば、見つけ出して、一緒に住んでみたいと思っている。幼い頃の出来事を思い出すうちに、政吉は継母が実の母であるように思えてならなかった。同居のことをおかよに打ち明けると、案の定、反対し、喧嘩になった。嫁と取るか、母を取るか、政吉は逡巡するが、やはり母を捨て切れなかった。ある日、母のいる家が火事になった。政吉は現場に駆け込んだ。「まだ煙に包まれている焼けあとの道をおかよが歩いて来るところだった。政吉が見ていると、やがておかよが地面に跪いて、おすが(母)を背負った。おかよは小太りだが、背はあまり高くない。小さく小太りの女が、小さく痩せている女を背負って、よたよたと歩いて来る。「済まなかったな」「何言ってんのさ」「あんたのおっかさんはあたしにもおっかさんじゃないか」 「霜の朝」より
小説の舞台:深川 国会図書館デジタルコレクション「江戸切絵図」ー本所ー タイトル写真:二の橋(二ツ目橋)
・息が切れて竪川のそばに出たところで政吉は足をゆるめた。川べりの道に、やがて人が多くなった。家事見物からもど
るひとらしかった。政吉は気をせかされて、また走りだした。二ツ目橋をふみ鳴らしながら渡った。遠くの町を這う雲が見えて来たのは林町側の河岸地に走り込んでしばらく行ったところである。
小説の舞台:深川 国会図書館デジタルコレクション「江戸切絵図」ー本所ー タイトル写真:二の橋(二ツ目橋)
・息が切れて竪川のそばに出たところで政吉は足をゆるめた。川べりの道に、やがて人が多くなった。家事見物からもど
るひとらしかった。政吉は気をせかされて、また走りだした。二ツ目橋をふみ鳴らしながら渡った。遠くの町を這う雲が見えて来たのは林町側の河岸地に走り込んでしばらく行ったところである。
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