場所と人にまつわる物語

時間と空間のはざまに浮き沈みする場所の記憶をたどる旅

夜の橋

2021-11-08 16:00:55 | 場所の記憶
  市井の片隅に住む男女の情を描いて妙。
 民次にはおきくという別れた女房がいる。ある日、そのおきくが民次の住まう裏店を訪ねてきたと、隣家のおかみが伝える。おきくは何か話があるらしい。数日して、民次はおきくが働いている飯屋を訪ねてみた。そこで民次は、おきくが嫁に行くという話を打ち明けられる。相手は表店の番頭だという。元の女房のおきくが、わざわざそんな話をするのは民次に未練があるからだった。
 ひと月ほどして、民次は、よく出入りする賭場で、おき くが付き合っているという男を目撃した。番頭にしてはやくざくもの顔をしていた。噂によればその賭場の常連であるという。民次はおきくにはふさわしくない男だと思えた。すぐにおきくにそのことを伝えた。さらに相手の男に直接会って、おきくから手を引くよう説得することにした。
 が、男は突然、凶暴化して民次に襲いかかってきた。格闘のすえ、男を打ちのめした。後日、男がおきくから手を引いたことを聞く。また前のよ うな平穏な日がもどっていた。出入りしていた賭場の胴元から頼まれた仕事も断って、民次はいままたおきくと縒りを戻したいと思っていた。

・民次は横綱町の裏店に戻ると、薄暗い井戸端から立ち上がった人影に、名前を呼ばれた。呼んだのは、隣の女房のおたきだった。

・二ノ橋を渡って、川ベリを少し西に歩いた松井町の裏店に、飯も喰わせ、酒も出す扇屋という店がある。

・店が閉まる前に、民次は外に出て、おきくを待った。あまり待たせないでおきくは出てきて、二人は町を抜けて五間堀にかかる山城橋に出た。橋には人の香が匂う。

・常盤町の角に、辻番所の高張提灯の灯がみえるばかりで、あたりは闇だった。それでも堀に映える星の光が水に揺れ、生き物のように蹲って動かない橋がみえた。

・左に俎板橋を渡れば、松井町の一丁目から弁天社の横を通り、石置場に突きあたって一ノ橋に出る。右に行けばニノ橋である。

・高橋を渡った三人連れの男は、森下町にくると、短い声をかけ合って二人が横丁にそれ、五間堀にかかる弥勒橋を渡るときに、謙吉一人になっていた。

小説の舞台;深川  地図:国会図書館デジタルコレクション「江戸切絵図深川」 タイトル写真:小名木川にかかる高椅



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 約束 | トップ | 裏切り »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

場所の記憶」カテゴリの最新記事