少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

折りたたみ北京

2022-08-27 07:00:00 | 読書ブログ
折りたたみ北京~現代中国SFアンソロジー~(ケン・リュウ編/ハヤカワ文庫)

数年前から、ハヤカワ文庫でケン・リュウの作品を見るようになったが、手を出さずにいた。(新しいタイプのSFは博奕のようなもので、全く好みに合わないこともあるのだ。)劉慈欣の『三体』シリーズを読み終えた後、アンソロジーならリスクも少ないだろうと本書を買ってからも1年余り、積読のままだった。まあ、かなり分厚い(500ページ超)本なので。

読んでみると、予想以上に読みやすく、それぞれに個性ある作家の良作だった。もちろん、全てが好みではないが。

いくつかの感想。

ディストピアを描いた作品の割合が高い。これは、中国特有というのは不公平だろう。SFとはそういうものだ。が、極端な管理社会を描いた『沈黙都市』の解説に、編者が、中国政府への風刺として読む誘惑には耐えるように、とコメントしているのは、本気なのかジョークなのか、判別できない。(ところで、『三体』では文化大革命を取り上げているが、天安門事件を題材にした作品はあるのだろうか。)

表題作の『折りたたみ北京』は、チャイナ・ミエヴィルの『都市と都市』とは異なる形の二重都市(三重都市?)を、短編の中で描いて秀逸だった。

巻末に、劉慈欣の中国SFに関するエッセーが掲載されている。その中に、『三体』の第一巻と第二巻は幅広い読者を得るため、文芸としての質やリアリズムに配慮したが、第三巻ではそれを断念し、コアなSFファンのために書いた、とある。それで、第三巻が、SF的なアイデアの展開に傾いた、ぶっ飛んだ内容になっている理由が理解できた。

で、改めてケン・リュウの作品を読むかどうかは、また別の話。

神のいない世界の歩き方

2022-08-20 07:00:00 | 読書ブログ
神のいない世界の歩き方(リチャード・ドーキンス/ハヤカワNF文庫)

進化論の権威であるドーキンス博士は、無神論についてどのように語るのか。その興味から、本屋で見かけてすぐに買ってみた本。

冒頭から、神が非常にたくさんいることを論じ、順をおって、神の存在の不合理さを、少しくどいくらいに説明していく。訳者あとがきで、この本が「自分で判断できる年齢になったすべての若者たち」向けだとわかり、なるほど、と納得した。ドーキンス博士は、本気で若者を説得するために、15歳まで信じていたキリスト教の教義を捨てるまでの思考過程を再現しているのだ。

いまや、進化論を本気で否定する人はあまりいない(アメリカ合衆国などの例外はある)。しかし、宇宙のはじまりなど、科学で解明されていない部分に神の存在根拠を求める傾向は根強いから、勇気を持って、科学の力を信じよう、という呼びかけで終わる。

ユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史』において示したように、宗教は、ある時期、大規模な集団を統合するために有用だったが、今となってはむしろ、負の側面が強まっている、というのが妥当な考え方だと思う。しかし、宗教は一筋縄ではいかない。

たとえば理論物理学者はみんな、当然に無神論者かというと、決してそうではない。無神論者であることを公言していたホーキング博士はむしろ少数派だ。(ちなみに彼が提唱した「無境界仮説」は、宇宙のはじまりに神は不要(特異点は存在しない)というもの。)

また、日本人には、神様も仏様も本気で信じてはいないが、なんとなく来世があると思っている人が多いのではないか。

日本人はどこから来たのか?

2022-08-13 07:00:00 | 読書ブログ
日本人はどこから来たのか?(海部陽介/文芸春秋)

拝見しているブログで紹介されていたのを見て読みたくなり、図書館で借りてきた本。著者は人類進化学者。

日本に初めて現れた人類は、ホモ・サピエンス。その起源はアフリカだから、ユーラシア大陸を東へ、はるばる日本にたどり着いたことになる。彼ら(我ら?)は、いつ、どのような経路で日本にやって来たのか。

著者は、世界各地の遺跡の年代調査、DNA分析、石器の比較研究などを通じて、ホモ・サピエンスの東アジアへの移動経路をたどる。そのルートは、ヒマラヤの南北に分かれる。その後の日本への移入は、日本各地に残る多数の旧石器時代遺跡の分析から、3つのルートがあったと考えられる。最初に対馬ルート、次に沖縄ルート、最後に北海道ルート。その年代の特定も極めて明確だ。

日本人の起源については、縄文人と弥生人の起源など多くの本が出版されているらしい。私としては、本書のように、ホモ・サピエンスとしての移動経路を押さえておけば十分な気もする。(もちろん本書でも、日本人の成立について一定の見解を示している。)

なお、著者は、本書発刊(2016年)後、沖縄ルートが、偶然による漂流ではなく意図的な移住であったことを証明するために、台湾から与那国島へ、当時の技術だけで渡航できるかを実証するためのプロジェクトに取り組む。(テレビ番組でも取り上げられていた記憶がある。)その顛末は、同じ著者の『サピエンス日本上陸』に描かれているようだ。(未読)

図書館島

2022-08-06 07:00:00 | 読書ブログ
図書館島(ソフィア・サマター/東京創元社)

久しぶりの本格ファンタジー。

原書は"A STRANGER IN OLONDRIA”で、内容も、オロンドリア帝国を旅する物語。だから、『図書館島』というタイトルも、それに合わせた装幀も、すこしずるいと思う。本好き、あるいは図書館好きは、つい、惹かれてしまう。

ついでにもうひとつ、苦言というよりは、読みたい人への警告。この物語のために作者が作った造語や、地名や人名などが多くて、なかなかペースがつかめない。(巻末に用語集がある。)こういうときは、筋がなかなか頭に入ってこなくても、ともかくページをめくることにしている。

辺境の島で育った少年は、異国の家庭教師を通じて書物になじみ外界にあこがれ、父の死後、帝都に旅立つ。途中で出会った不治の病の少女とのかかわりから、宗教的な争いに巻き込まれ、遠く世界を旅することになる。風変りではあるが、旅とロマンスの物語だと思えば、少しは見通しがよくなるかもしれない。物語の中に多くの詩や物語が埋め込まれており、世界幻想文学大賞や英国幻想文学大賞を受賞している、というのも、まあ、理解できなくはない。

夏は、こういう歯ごたえのある読書に向いている。確か15歳の夏、冷房のない部屋で、『カラマーゾフの兄弟』のページをめくり続けたことを覚えている。