ねなしぐさ 平賀源内の殺人(乾緑郎/宝島社)
名前は知っているが読んだことのない作者の一人。わが香川県の誇る偉人、平賀源内を取り上げた作品なので手に取ってみた。
佐野善左衛門という旗本が、田沼意次の息子の意知に江戸城内で切り付ける。その3年後、意次の失脚に伴い蝦夷地の調査が中断、引き上げる最上徳内と現地に残る老人との会話が描かれる。老人は源内を次のように評価する。
天才などと持て囃されていたが、何ひとつ成し遂げられぬまま死んでいった、憐れな男。ねなしぐさ。
というプロローグから、時系列を前後しながら、源内の、何も成し遂げられない人生模様が描かれる。
一体、何を読まされているのだろう、と思いながら読み進めると、やがて気がつく。源内は不可解な状況で殺人の罪を問われ、投獄中に亡くなった。時代を先取りした才人にふさわしくない死に方だが、この本は、その真相を描こうとしている。
読み終えての感想。
歴史上の事実と、確かとはいえない源内に関する風聞を組み合わせて作りだした、ありうべき歴史のひとつ。もしかして本当にそうだったのかも。
かつて『天下御免』で源内を演じた山口崇氏が亡くなった。私にとっての源内は、安田顕氏ではなく山口氏だ。
いずれにしても、読後感のよい作品。