少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

濵地健三郎の呪える事件簿

2023-01-28 07:00:00 | 読書ブログ
濵地健三郎の呪(まじな)える事件簿(有栖川有栖/角川書店)

心霊探偵「濱地健三郎」シリーズの第三作。

短い期間で同じ作者の作品となるが、2021年3月に、第二作の『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』を紹介しており、その続編。

ミステリ作家にホラーを書かせる、というのは、編集者の標準的な手口なのだろうか。気になる作家の短編集を読んでみると、実はホラーだった、という経験がある。このシリーズは、作者があとがきで書いているように、怪談のようでありミステリのようであり、結局そのどちらでもないところを狙っている。さらりとした読み口で、だからホラー嫌いの私でも楽しむことができる。

「視える」だけでなく、特別な力を行使することができる心霊探偵が、口コミを頼りに持ち込まれる心霊現象の謎を解き明かし、依頼に応える。今作は、すべてコロナ禍のさなかの事件を描いており、リモートワークや感染防止のための隔離などをテーマとする作品もある。いわば「コロナ編」というところだが、次作があるとすれば、脱コロナの世界であることを願う。

ところで、タイトルに使われている漢字が、第一作は「霊」、第二作が「幽」で、合わせて幽霊になることは、前回の記事で指摘しておいたが、今回は「呪」だから、第四作の候補としては、「怨」とか「詛」が思い浮かぶが、どうも適切な訓読みが見当たらない。

残酷な進化論

2023-01-21 07:00:00 | 読書ブログ
残酷な進化論(更科功/NHK出版)

著者は分子古生物学者。サブタイトルは~なぜ私たちは「不完全」なのか~ 

その答えらしきものを本書から抽出すると、次の2つ。(個人の感想です。)

1 進化を促す生存闘争は、生物同士が直接闘ったり、獲物を奪い合うことではなく、子どもを残すことを通じて行われる。だから、子育てが終わった後に発現する不具合は、進化によっては淘汰されない。

2 進化は「変化」であって「進歩」ではない。偶然にも左右されながら、現在の姿に変わってきたのであり、これからも変わっていく。だからすべての生物は不完全で、決してインテリジェント・デザインによるものではない。

ヒトは進化の到達点ではない、という視点を軸に、さまざまなトピックスが並ぶ。例えば、ヒトは腰痛になる宿命にある、とか、ヒトが難産である理由など。そのほか、心臓や肺、目の進化、腎臓や肝臓の起源、一夫一婦制の進化論的な背景などが取り上げられている。

あっという間に読めて、ためになる、という、新書の見本のような作品。この著者には、『絶滅の人類史』という新書もあるようなので、機会があれば読んでみたい。

氷菓

2023-01-14 07:00:00 | 読書ブログ
氷菓(米澤穂信/角川文庫)

米澤穂信のデビュー作にして、古典部シリーズの第一作。

この作者の古典部シリーズについては、ずっと気になっていた。図書館で探しても、すぐには見つからない作品もあり、読めていなかった。で、この年末年始に、全巻を探して読了した。

シリーズのタイトルは、次のとおり。
1 氷菓
2 愚者のエンドロール
3 クドリャフカの順番
4 遠まわりする雛
5 ふたりの距離の概算
6 いまさら翼といわれても

部活動、特に文化系の部活が異様に盛んで、文化祭が4日間も開催される高校を舞台に、活動内容が分かりにくい「古典部」の部員たちが遭遇する謎を題材とするミステリ。

最初の3作は「文化祭三部作」で、氷菓事件、女帝事件、十文字事件と呼ぶべき内容。(私が好きな)短編推理と呼べるのは、4と6だが、それも古典部の設定を前提とした作品群だから、意図的に「軽く」書いている感じのする第1作を、この記事の表題とした。

この作者には、高校生を描いた作品が多い。私が最初に読んだ「小市民シリーズ」もそうだし、『さよなら妖精』や『本と鍵の季節』も。それは、作者が主に「日常の謎」を取り上げていることと無関係ではないと思う。小さな謎を謎として不思議がること、それを時間と労力をかけて解くことは、暇と好奇心がたっぷりあるからこそできることだ。奇しくも、「千反田える」は好奇心を代表し、暇をよしとする省エネ主義の「折木奉太郎」が探偵役になっている。

このシリーズの新作は、数年間、書かれていないようだが、まだ高校2年生の半ばまでしか描かれておらず、続編が読めるものと期待している。

超圧縮 地球生物全史

2023-01-07 07:00:00 | 読書ブログ
超圧縮 地球生物全史(ヘンリー・ジー/ダイヤモンド社)

地球の歴史を、生物の進化に焦点をあててコンパクトにまとめた読み物。

やや厚めで読むのが大変そうだが、全体の4分の1強が注釈と索引で、個々のトピックスに関する記述も短いので、見かけよりは読みやすかった。

スノーボール・アースという概念や、光合成による有毒ガス(酸素)の生成、大陸の集合離散、隕石の衝突による恐竜の絶滅など、既知の内容であっても、それらが生物の進化にどのようなインパクトを与えたかという切り口で整理されると、とても明快で説得力があった。

特に印象に残ったのが、ヒト族の進化と、ホモ・サピエンスの発展。簡潔ではあるが系統的な記述内容は、これまでの断片的な知識に、一定の統合をもたらしてくれたような気がする。

最後に、地球生物の未来が語られるが、これも、かつて読んだことのない終末論で新鮮だった。我々は宇宙に進出することはできる。しかし、生物として生き残ることは困難だろう。圧倒的な悲観論なのだが、著者は末尾に次のような言葉を書いている。

絶望してはいけない。地球は存在し、生命はまだ生きている。