少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

太陽系の謎を解く

2024-07-26 18:41:36 | 読書ブログ
太陽系の謎を解く(NHK「コズミックフロント」制作班&緑慎也/新潮選書)

NHKの「コズミックフロント」で放映された内容を中心に、最新の研究、知見も加えて書き下ろした、太陽系研究の現在地を示す一冊。発刊は2022年6月。

主要な惑星ごとに、研究の進展状況と残された課題が記述されている。興味深い話題をいくつか。

土星の衛星には、生命(微生物レベル)が発生し得る環境があるように見えるが、生命は存在するのか。

火星には過去に水が存在し、地球よりも生命誕生に適した環境にあったらしい。もしかして私たちは火星で誕生した後、隕石に乗って地球にやってきたのか。

未知の惑星を探す試みには長い歴史があり、冥王星は準惑星に格下げされて決着がついたが、9番目の惑星を探す試みはまだ続いているようだ。

量子力学と宇宙物理学の発展によって、宇宙の始まりや終末について議論することができるようになったが、一方で、私たちにとって最も身近な「宇宙」である太陽系について、まだ未知の領域が非常に大きい、というのが、読後の率直な感想。

なお、この本は(宇宙物理学に関する本なので)、地球外生命は十分に存在し得るし、是非いてほしい、という立場のようにみえる。



最後の鑑定人

2024-07-19 19:35:13 | 読書ブログ
最後の鑑定人(岩井圭也/角川書店)

今年4月に紹介した『横浜ネイバーズ』の作者が気になって、図書館で面白そうな本を探してみた。

ミステリに限らず、幅広い作品があることを知ったが、私が選んだのはこの一冊。

民間の鑑定所が舞台の短編推理。主人公は元科捜研職員で、この人が鑑定できなければ誰にもできない、という意味で「最後の鑑定人」と呼ばれた人物。それぞれ異なる人物の視点で描かれる4つの作品が掲載されている。当然ながら、鑑定が真相究明のカギを握る事件ばかり。

助手を務める女性についても丁寧に描かれており、恋愛には向かいそうにない独特の関係性は、有栖川有栖の描く心霊探偵シリーズの探偵と助手を思わせるところがあった。

10作品ほど揃えば、すぐにドラマ化できそうな出来映え。(そのドラマを見るかどうかは、別の話。)

いずれにしても、続編を期待したい。なお、横浜ネイバーズの新刊が出ているようなので、近く紹介することになると思う。

生物の中の悪魔

2024-07-12 20:12:13 | 読書ブログ
生物の中の悪魔 ~「情報」で生命の謎を解く~
(ポール・デイヴィス/SB Creative)

本書は、生命とは何か、という根源的な問いを解明するためには、情報理論が必須になっている、という生物学の現状を一般向けに解説した本。

7つの章で構成されている。いくつかの抜粋とその概要は次のとおり。

第一章 生命とは何か
生命は物質で構成されているが、それに情報が付加されることで非生命と区別される、という視点の導入。

第二章 悪魔の登場
熱力学の第二法則を出し抜くための思考実験として考えられたマクスウェルの悪魔は、結局、その後の情報理論の発達によって第二法則を破ることはできないことが確認された。しかし生物は、マクスウェルの悪魔並みの巧妙な仕組みで極めて効率的に働く仕組みをいくつも(進化を通じて)発明してきた。

第四章 進化論二・〇
遺伝子がすべて解析されても生物を理解したことにはならない。遺伝子の制御と操作がどのように行われているかが問題であり、進化論は大きく改造されつつある。

第五章 不気味な生命と量子の悪魔
生物は、量子力学がもたらす効果を活用している可能性がある。

などなど。

生命については、現在のような形に進化してきたのは、ほとんど奇跡(地球以外で存在することは考えにくい)という立場と、地球という、わりとありふれた惑星で誕生しているのだから、他にも必ずいるはずだ、という立場があるが、本書は生物学側なので前者の立場に近い。

量子力学や宇宙論だけでなく、生物学においても、情報が重視されるようになってきた、ということがよく理解できた一冊だった。

折れた竜骨

2024-07-05 18:47:02 | 読書ブログ
折れた竜骨(米澤穂信/東京創元社)

米澤穂信の旧著。この本は厚めなので手を出さずにいたが、作者が「この作品は『黒牢城』と同じ根から出た兄弟作だ」と言っているのをみて、読んでみようと思った。

舞台は中世ヨーロッパの、北海に浮かぶ孤島。「剣と魔法」をそのまま体現した世界で、殺人犯を探すミステリ。

ある条件による犯人の限定。魔法の性質から導かれる制約。寄木細工のように組み立てられた推理で犯人を絞り込んでいく。

謎解きの面白さだけでなく、剣と魔法の物語としても読みごたえがあり、事件の解決に伴い、島をめぐる、より大きな謎も解きほぐされていく。

ファンタジーとミステリの心地よい融合、と呼ぶにふさわしい作品で、『黒牢城』の兄弟作、という意味がよく理解できる作品だった。

なお、タイトルの意味が最後にわかる、という趣向も悪くない。