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少し偏った読書日記

エッセイや軽い読み物、ミステリやSFなどエンタメ系、海外もの、科学系教養書、時代小説など、少し趣味の偏った読書日記です。

量子超越

2025-05-31 00:08:14 | 読書ブログ
量子超越(ミチオ・カク/NHK出版)

著者は、日系アメリカ人の理論物理学者で、超弦理論の創設者の一人。一般向けの科学解説書を多く書いていて、3年ほど前には、このブログで『神の方程式』を紹介した。

今回の著作は、量子コンピュータの歴史を解説した後、本格的に実用化されれば、どのようなことが可能になるか、というテーマの未来予想。

期待されることはたくさんある。生命誕生の謎の解明。人工光合成の実現。高性能な電池の開発。免疫系の解明と難病の克服。不老長寿。地球温暖化の解決。核融合発電の実用化。超弦理論の完成・・・

感想を少し。

量子コンピュータが発達すればすぐに実現可能、という話ではなく、現在のコンピュータでは不可能な計算やシミュレーションが可能になる、ということだろう。

光合成や窒素固定、そもそも生命そのものが、量子(力学)的な現象だ、という指摘に、なるほど、と思った。

巻末で、哲学的な色彩を帯びた4つの疑問(例えば「宇宙は量子コンピュータなのか?」)について考察しており、この部分だけでも、この本を読む価値がある、と思う。

金庫破りの謎解き旅行

2025-05-23 20:31:17 | 読書ブログ
金庫破りの謎解き旅行(アシュリー・ウィーヴァー/創元推理文庫)

『金庫破りときどきスパイ』シリーズの第三作。

主人公は上司のハンサムな少佐から、詳細を知らされないまま北部の町への旅を指示される。現地に着いてすぐに、背後から誰かにぶつかられ、危うくトラックに惹かれそうになるが、親切な男性に助けられる。しかし、数時間後に、その男性は不審な死を遂げる・・・

前作について、恋愛要素も交えたコージーミステリ風のスパイ小説、と紹介した。今作も基本的には同様なのだが、主人公の向こう見ずな性格が招くハラハラドキドキの加減が絶妙。(しかも、男性なら勇気と称賛されるはず、という主人公の主張には説得力がある。)

改めてこのシリーズの魅力について考えてみた。諜報活動の舞台をナチスドイツの空襲を受けるイギリスに設定するというのは、スパイ小説が明らかに行き詰まっている中で、新たな可能性を模索する試みではないだろうか。そして、金庫破りというのは、ハニートラップではない女性の役割として、斬新なアイデアではないだろうか。

というようなことを何も考えずに、気楽に楽しむのが正しい読み方だと思う。

原作は第4作もすでに書かれているようだ。

平凡すぎて殺される

2025-05-16 22:17:50 | 読書ブログ
平凡すぎて殺される(クイーム・マクドネル/創元推理文庫)

タイトルが目立つので本屋で気になっていた一冊。図書館で見かけたので借りてみた。

原題は A Man With One of Those Faces
直訳すれば「どこかで見たことがあるような顔の男」

主人公は、顔が平凡すぎるという特徴を生かして、彼を身内と思い込んだ入院患者を訪問するボランティアをしている。ある日、看護婦に頼まれて話しかけた老人に、誰かと間違えられて殺されそうになる。

というところから始まる物語。どうやら過去の有名な花嫁誘拐事件と関係があるらしいのだが・・・

読み終えての感想。

登場人物のほとんどが何らかの「生きにくさ」を抱えており、それがストーリーと結びついている。例えば主人公がボランティアをしている理由がすさまじい。

饒舌な文体。翻訳ものによくある、この人物は誰だった?ということも多く、決して読みやすくはない。しかし、決して予想どおりには進まない展開に引っ張られて、ページは進んでいく。

ストーリーとは直接関係のない他事記載が多いが、『ガープの世界』の中で最も印象に残っているエピソードと同様の出来事が起こって、思わず笑ってしまった。読む人が読めば、笑いの連続なのかもしれない。

そして、こんなとんでもない内容なのに、続編があるらしい。 

有栖川有栖に捧げる七つの謎

2025-05-09 21:37:31 | 読書ブログ
有栖川有栖に捧げる七つの謎(青崎有吾ほか/文春文庫)

有栖川有栖デビュー35周年トリビュートとして、7人の作家が「有栖川有栖」風の作品を競演する、という企画が、「オール讀物」と「別冊文藝春秋」で実現した。それを一冊にまとめたアンソロジー。

作者を列挙すると、

青崎有吾、一穂ミチ、織守きょうや、白井智之、夕木春央、阿津川辰海、今村昌弘

有栖川有栖、青崎有吾、今村昌弘が関与していることに惹かれたのと、その他の未読作家の作品を試し読みしたいという気持ちで手に取ってみた。

有栖川有栖氏の作品かと見まがうほどの完コピ作品から、それぞれの個性が表れた作品まで。いずれも高いレベルに仕上がっている、と感じた。

感想を少し。

類似の企画としては、池波正太郎氏の「鬼平犯科帳」のアンソロジーしか読んだことがない。確かに、よほどの大御所でなければ成立しない企画かもしれない。

有栖川有栖氏の作風に寄せて、多くの作品が本格謎解きに仕上がっている。その謎の沼が深い。

未読作家の他作品も読んでみようと思うが、7人の中にはホラー小説や残虐性が高い作品を得意とする方もいるようなので、注意して選びたい。

江神二郎のシリーズは、読み残している作品がたくさんあると思うが、このシリーズがまだ完結していない(作者が意図的に完結させていない)ことを、今回、初めて知った。

春休みに出会った探偵は

2025-05-06 18:37:22 | 読書ブログ
春休みに出会った探偵は(大崎梢/光文社)

少し前に『27000冊ガーデン』を紹介した大崎梢氏は初見だったが、他作品を探してみたら興味深い題名の作品を見つけた。

主人公は女子中学生。父の海外転勤を機に祖母が経営するアパートに住むことに。春休み中に、ある出来事を通じて隣のクラスの男子とLINEを交換する仲になる。二人とも好奇心旺盛で、気になることに首を突っ込まずにいられない。そんな二人の探偵ごっこに、釘を刺しながらも手助けをしてくれる探偵が現れる。同じアパートの住民で、本人は探偵のつもりはなく単なる調査員だと称している。

という設定で、前作と同様、短編連作のスタイルで5つの物語が収められている。

感想を少し。

軽いタッチの短編推理は、私の最も好きな分野のひとつ。なぜ、これまで目にとまらなかったのだろう。

軽いタッチ、だけど軽いだけではない仕掛けがあって、強く印象に残った。(でもこの仕掛けだと、続編はちょっと難しそうだ。)

書店を舞台とするシリーズも書いているようなので、いずれ、探してみたい。