少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

処刑台広場の女

2024-11-15 13:09:23 | 読書ブログ
処刑台広場の女(マーティン・エドワーズ/ハヤカワ・ミステリ文庫)

舞台は1930年代のロンドン。若くて美人で謎めいた素人探偵、という設定の貴婦人は、殺人犯を追い詰め、死に追いやっているように見えるが・・・

もうひとりの舞台回し役は、若手の新聞記者。そこそこ有能で正義感もあるが、少し空回りするところもある。彼女に関心を持って調べているが、逆にうまく利用されているようでもある。

連続殺人事件が起こり、二人が行動するにつれて、事態がすこしずつ明らかになっていく。そして、すべての謎は処刑台広場につながっている・・・

幕間に、子供時代の主人公を憎む少女の日記が挿入される。それを読むと、やはり主人公は性格の破綻した悪人のようだが・・・

翻訳小説でよくあるように、登場人物を何度も確認する必要があり、ストーリーの見通しも悪いから、序盤は忍耐を強いられることになると思う。

だが、謎解きが主眼のミステリ、というよりは、いったい何が起こっているのか、話の展開を楽しむ作品のようで、中盤以降はぐいぐいと惹きこまれていく。

続編がすでに出版されており、近いうちに読むことになると思う。

地雷グリコ

2024-11-08 13:47:48 | 読書ブログ
地雷グリコ(青崎有吾/角川書店)

最近、読み始めた作家。読んだのは短編ばかりだが、HOWとWHYを分担する二人組の探偵ものや、会話を通じて何が起こっているか(WHAT)が明らかになっていく青春作品など、くっきりとした輪郭を持つ作品、というイメージ。

で、この作品だが、高校生を主人公として、あるものをかけてゲームをする、という話の連続。選ばれたゲームは、グリコ、坊主めくり、じゃんけん、だるまさんがころんだ、ポーカーの5つだが、独自のルールが付け加えられている。そのゲームにいかにして勝つか。(謎の解明ではないが、究極のHOWの物語。)

少しルールを変えるだけで、単純なゲームが極めて複雑になる。時間をかければ、ゲームを解く(必勝法を解明する)ことができそうな気もする(作者も相当研究したと思われる)が、この本の面白さはそこにとどまらない。

ルールは絶対だが、その枠内であれば何でもあり、という条件のもと、心理戦や裏技、イカサマ的な工夫も駆使して、勝つ方法を編み出す。その理詰めのプロセスがこの本の魅力だ。

全体として、ギャンブラーの話ではなく高校生の友情物語か。そこそこ厚みのあるページ数を一気に読ませるだけの面白さは、十分にある。

宇宙と物質の起源

2024-11-01 12:09:49 | 読書ブログ
宇宙と物質の起源
(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所編/BLUE BACKS)

素粒子の標準理論と現時点での標準的な宇宙論に基づき、宇宙のなりたちについて解説した本。

この分野の本は何度か取り上げているが、改めて紹介しようと思ったのは、KEKの研究者たちが執筆しているから。(KEKは、クォークの「CP対称性の破れ」を確認する実験を行い、小林・益川理論を実証したことで有名。)

理論物理学では、ブレーンワールドや多元宇宙など、実験では確認できそうにない理論が提唱されているが、実験物理学者たちは物理学の現状をどのようにみているのだろうか。

本書を読むと、LHCはヒッグス粒子を発見した後も、ヒッグス粒子が1種類だけなのか、どのような性質を持つのかについて研究し、KEKでもニュートリノの「CP対称性の破れ」を調べる研究を続けるなど、標準理論を精緻にし、あるいは大統一理論につながる実験が行われていることが分かる。

また、ビッグバン、インフレーション、ダークマターとダークエネルギーによる宇宙の大規模構造は、宇宙論の成果として認知されているものの、たとえばインフレーションを実証する実験や観測は、まだこれからのようだ。

感想を少し。

質量の起源はヒッグス機構によるものだけでなく、クォークにはそれ自体のエネルギーに基づく質量がある、と別の本で読んだことがあるが、その説明は本書のほうが分かりやすかった。

手詰まり感のある実験物理学を前進させるために、次世代加速器としてILC(国際リニアコライダー:日本に建設される可能性がある。)が構想されているが、具体的な進展がない状況が続いている。(国を偉大にするのは、移民の排斥や、他国への侵略・威嚇ではなく、科学への貢献であってほしいと思う。)

科捜研の砦

2024-10-25 12:44:23 | 読書ブログ
科捜研の砦(岩井圭也/角川書店)

今年7月に紹介した『最後の鑑定人』の続編。

作品の順番では続編だが、内容は前日譚。

前作では、科捜研を退職して民間の鑑定所を開いており、別れた妻が同業で「科学警察研究所」に所属している、という設定だったが、今作では、4つの事件を通じて、元妻との出会いから別れの予兆、そして科捜研での挫折が描かれている。

いずれも、主人公とは別の人物の視点で記述されており、それぞれの立場や思いと同時に、寡黙で常に理知的にふるまう主人公の姿勢が浮き彫りにされる。

そしてそれ故に、最終章での主人公の葛藤が際立って見える。

次の続編(ぜひ、書いてほしい)では、民間鑑定所での活動、特に、少し癖のある助手の活躍が見たい。

雪山書店と嘘つきな死体

2024-10-18 12:59:05 | 読書ブログ
雪山書店と嘘つきな死体(アン・クレア/創元推理文庫)

米国コロラド州のスキーリゾートを舞台とするコージーミステリ。

主人公は、帰郷して姉とともに山小屋風の書店を切り盛りする女性で、姓はクリスティ。アガサの縁者であるかは不明だが、書店の看板猫の名はアガサ。事件のカギとなるのは、アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』のサイン入り初版本。

という具合に、クリスティへのオマージュに満ちた作品。

主人公の日常生活や感情の動きをはじめ、他事記載が満載なのは、作品の性質上、やむを得ないところ。それも含めて、地元感にあふれた独自の世界を描いている。

殺人事件が起こり、捜査の過程で複数の容疑者が浮かび上がるものの、いつまでたっても真相に近づいている感触がなく、最後に主人公が、関係者が集まった中で犯人を指摘する。その展開は確かに、クリスティの作品を思い出させるところがある、と思った。

原題は Dead and Gondola
直訳すれば、「死体とゴンドラ」だろうか。「雪山書店」を加えたのは、作品世界の象徴としてふさわしいということもあるが、シリーズ化を見越して、今後も「雪山書店と・・・」というタイトルにするつもりなのだろう。