ただの眠りを(ローレンス・オズボーン/早川書房)
少し古いが、フィリップ・マーロウものの新作(2020年発刊)。当然、作者はチャンドラーではない。
時は1984年。72歳になったマーロウは、メキシコで隠居生活を送っている。そこに保険会社の社員がやってきて、調査を依頼する。溺死した不動産業者は、本当に事故で死んだのか。
マーロウは、男の足跡を追ってあちこちに出かけ、質問し、ホテルに泊まり、酒を飲む。当然ながら、魅力的な女性が出てくる。物語はそのように進む。
感想を少し。
何も起こらないわけではないが、特別、驚くことが起こるわけでもない。また、シリーズ作品と比べると、マーロウの言葉に独特の魅力も足りない。
しかし、凡庸な模倣作かというと、そうでもない。老人になってしまったマーロウの、その老いの描写に真実味がある。女性を想う心情や猫のような好奇心は昔のままなのに、女性を惹きつける魅力もタフな行動力も失い、それでも自身の矜持は守りたい・・・
原題は ONLY TO SLEEP
The Big Sleep(大いなる眠り)をなぞったものだろうが、確かに老境にふさわしいタイトルかと。