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少し偏った読書日記

エッセイや軽い読み物、ミステリやSFなどエンタメ系、海外もの、科学系教養書、時代小説など、少し趣味の偏った読書日記です。

27000冊ガーデン

2025-04-25 21:42:43 | 読書ブログ
27000冊ガーデン(大崎梢/双葉社)

舞台は高校図書館。主人公は学校司書の女性。推理の相棒は出入りの本屋の男性店員。生徒が巻き込まれた事件の謎を解いていく。5編が収録された短編連作。

どちらかといえば軽めの、読みやすい作品。

感想を少し。

たくさんの本が登場する。高校生向けの読書案内のようだ。たいていは書名を知っているが、読んでいない本も多い。(あえて読んでいないものも。)

本書の魅力は、謎解きの妙というよりは、本当に本が好きな人が、本が好きな人に向けて書いている、という感じが伝わってくるところ。

なお、27000冊というのは、高校図書館の平均蔵書数、とのこと。


ブログの引っ越しですが、「Ameba」と「はてな」にID登録はしました。データ移転が少し混んでいるようなので、もう少し先でどちらかを選ぼうと思っています。



物質は何からできているのか

2025-04-22 19:09:41 | 読書ブログ
物質は何からできているのか(ハリー・クリフ/柏書房)

アップルパイのレシピを考える。アップルパイは何からできているか。何度も切り分けていくと、やがて原子にいたる。

原子は何からできているか。クォークと電子から。つまりこの本は物質の起源をたどる物理学の解説書で、結局、アップルパイを作るためには宇宙を発明しなければならい、ということになる。著者は、ヒッグス粒子を発見したLHC(大型ハドロン衝突型加速器)での実験に参加した物理学者。

感想をいくつか。

内容は標準理論プラスαで、実験物理学者からみた物理学の現状解説、というべきか。実験の現場レポのような記述が多く、参考になった。

LHCでは、ヒッグス粒子が見たかったものの期待されていた超対称性粒子は見つからず、大きなエネルギー領域を探るためのILC(国際リニアコライダー)は、実現の見通しが立たない。で、実験では確認のしようがない数学的な議論(超弦理論など)に関心が集まっている、というのが物理学の現状か。

そういう中で、重力波の観測など実験物理学の進展に期待する著者の気持ちは理解できる。

一方、著者はマルチバースという概念に抵抗があるようだ。宇宙が人間に都合よくできている、という人間原理を嫌う物理学者は少なくない。

が、宇宙は人間のためにできている、という「強い人間原理」はともかく、マルチバースによる「弱い人間原理」(無数の宇宙の中で知的生命が誕生する宇宙は極めて限られている)は、コペルニクス原理の自然な拡張だと思う。(ホーキング博士が著書の中でそう書いている。また、過去の投稿でもそのような主張の本を紹介してきた。)

横浜ネイバーズ6

2025-04-18 21:58:12 | 読書ブログ
横浜ネイバーズ6(岩井圭也/ハルキ文庫)

横浜ネイバーズの最新刊。

隣人たちの困りごとを解決してきたものの、友人たちがそれぞれ未来に向かって歩み出している中で、主人公の先行きは見通せない。また、犯罪者に身をおとした母親も行方がわからないまま。

そのような中で、主人公は母親の捜索を決意するが・・・

読み終えての感想。

現代に特有の犯罪を取り上げてきたシリーズ。ただのフリーターにすぎない主人公には荷が重いが、それでも、困っている隣人たちを見過ごすことができないから、普通の人が超えられない一線を軽々と越えてしまう・・・そんな主人公が、闇落ちした母親に伝えたかったことは。

横浜ネイバーズというタイトルが、大きな意味を持っていることに改めて気づいた。主人公の未来も、隣人を助ける、という姿勢の先にどうやら開けていくようだ。

作中で特に記述はないが、帯には「第1シーズン完結」とあるから、第2シーズンがあるものと期待している。

カルロ・ロヴェッリの科学とは何か

2025-04-15 13:56:54 | 読書ブログ
カルロ・ロヴェッリの科学とは何か(カルロ・ロヴェッリ/河出書房新社)

古代のアナクシマンドロスの業績を現代の視点から評価するとともに、科学的思考の本質について考察する本。

アナクシマンドロスの業績は、次のことを発見したことにある。

太陽や月や星が自分たちの周りを回っているのであれば、地球の上だけでなく、下にも空っぽの空間が存在するはずだ。したがって地球は虚空に浮いている。

この発見をもたらしたのは、この世界のことを、神話的・宗教的な文脈ではなく、合理的な自然主義によって説明しようとする思想であり、それこそが科学的思考の源流だ、と著者は評価する。

科学とは、「世界の見方」を問い直し、変革する試みである。それ故に、その成果は絶対の真実ではなく、現時点での最善の答えにとどまる。(ただしそれは、すべては相対的なものだ、という意味ではない。)

感想をいくつか。

この本は、一般向け著作7冊のうち、最初に書かれたもの。そのためか、他の本ほど読みやすくない。しかも、現代でもなお多数派を占めているように見える宗教的な頑迷さに対して、明らかな敵意を示している。

ユヴァル・ノア・ハラリによれば、宗教は大規模な集団を統合するために非常に優れた発明だったが、現代ではむしろ邪魔になっている、とのことだが、この本では、宗教は「科学的思考」にはない「確かさ」をもたらすものであり、かつ、権力と結びつくゆえに、非常にやっかいなものだと論じている。

いずれにしても、著者の本音がよく表れている一冊。

ブログサービス終了への対応は、考え中です。

まぐさ桶の犬

2025-04-11 13:08:43 | 読書ブログ
まぐさ桶の犬(若竹七海/文春文庫)

「葉村晶」シリーズの最新作。

五十代に突入した葉村晶は、コロナ禍による3年間のブランクの後、私立大学元理事長から人探しの依頼を受ける。

毎度おなじみの様々な不運に加えて、更年期特有の体調不良にも悩まされながら調査を進めていくと、学校法人の創業者一族の確執や不動産開発をめぐるトラブルに真正面から突っ込んでいくハメに・・・

感想をいくつか。

まさしく「葉村晶」が帰ってきた!という作品。長編よりは短編集のほうがよかったが、独特のクールなぼやきに導かれて、思ったよりスムーズに読めた。

登場人物の多くが「嫌味な人」だ。作者は、現実で遭遇した人物をモデルにして憂さ晴らしをしているのではないか、と疑うほどだ。

今作は、癖のある登場人物や事件の複雑さなど、「葉崎市シリーズ」のテイストに少し近づいたのかなと思った。

五十代のハードボイルドな女探偵は、まあ何とか着地したが、次作はどうなのだろうか。これ以上、心身と懐具合に無理を重ねるのも気の毒なので、もう少し楽をさせてあげてほしい・・・