野球が好きすぎて(東川篤哉/実業の日本社)
この作者も、多くの作品を読んでいるから、これという作品があれば、いつか紹介したいと思っていた。昨年、『謎解きはディナーのあとで』の新しいシリーズが出たときも、少し心が動いたが、結局見送った。で、この作品は、ノンシリーズ(多分、この内容をシリーズ化するのは難しいだろう。)で、この作者らしさがよく表れているので、紹介することにした。
いわゆる「ユーモア推理」がこの人の得意分野で、この作品も、『謎解き~』と同様、戯画化されたヤクルトファンの父娘刑事や、安楽椅子探偵の役割を務めるカープ女子が出てくる。趣向としては、野球界に関する出来事をからめながら、野球ファンにかかわる事件を、カープ女子が話を聞いただけでその場で解決してしまう、というもの。
野球に関する出来事は、2016年から2020年までに、実際に起こったことばかり。年に1件ずつ、計5つの作品が掲載されている。作者はカープファンで、相当、野球に詳しいこともよくわかる。
が、この作者の本当の持ち味は、このような設定の中でも、本格推理のようなトリックをきちんと用意していること。作風のクセさえ気にしなければ、読みやすい推理ものなので、これからも読み続けると思う。