少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

野球が好きすぎて

2022-02-26 07:00:00 | 読書ブログ

野球が好きすぎて(東川篤哉/実業の日本社)

この作者も、多くの作品を読んでいるから、これという作品があれば、いつか紹介したいと思っていた。昨年、『謎解きはディナーのあとで』の新しいシリーズが出たときも、少し心が動いたが、結局見送った。で、この作品は、ノンシリーズ(多分、この内容をシリーズ化するのは難しいだろう。)で、この作者らしさがよく表れているので、紹介することにした。

いわゆる「ユーモア推理」がこの人の得意分野で、この作品も、『謎解き~』と同様、戯画化されたヤクルトファンの父娘刑事や、安楽椅子探偵の役割を務めるカープ女子が出てくる。趣向としては、野球界に関する出来事をからめながら、野球ファンにかかわる事件を、カープ女子が話を聞いただけでその場で解決してしまう、というもの。

野球に関する出来事は、2016年から2020年までに、実際に起こったことばかり。年に1件ずつ、計5つの作品が掲載されている。作者はカープファンで、相当、野球に詳しいこともよくわかる。

が、この作者の本当の持ち味は、このような設定の中でも、本格推理のようなトリックをきちんと用意していること。作風のクセさえ気にしなければ、読みやすい推理ものなので、これからも読み続けると思う。


久遠の島

2022-02-19 07:00:00 | 読書ブログ

久遠の島(乾石智子/東京創元社)

興味ある作家を見つけて、文庫で追いかけているうちに、新しい単行本が出たのに、文庫ではなかなかでない、という状況に陥る。で、図書館で単行本を見つけて、以降、図書館で読む。

というパターンを、何度か経験したが、この作家についても、そういう事態に至った。まあ、図書館が入荷してくれる限り、ありがたい話なのだが。

「オーリエラントの魔導士」シリーズの、新しい一冊。物語の冒頭で、魔導士たちが魔法で作り上げた、世界中の本が閲覧できる「久遠の島」が、海中に沈む。その少し前に島を離れた兄と、沈む島からかろうじて逃れた弟、同じく生き延びた兄弟の幼馴染の少女。3人の生き残りの、その後の行く末を中心に物語は進んでいく。

オーリエラントの魔導士シリーズには、しばしば年表が示されているが、この作品は、作者のデビュー作である『夜の写本師』の時代から見れば、千年以上の昔。そして、『夜の写本師』とのつながりが極めて明確に示された作品。

この作品は、ファンタジーの王道である中世的世界における、本の物語だ。もうひとつの大きなテーマは、これから読む人のために伏せておきたい。


ショコラティエの勲章

2022-02-12 07:00:00 | 読書ブログ

ショコラティエの勲章(上田早夕里/ハルキ文庫)

先月に紹介した『破滅の王』の作者の、別の作品。

老舗の和菓子店の神戸支店で働く主人公の、一人称で語られる物語だが、実質的な主役は近所のショコラトリーのシェフ。

不思議な万引き事件。ガレット・デ・ロアに埋め込まれたフェーブの謎。シェフのデザイン盗用疑惑。主人公の周辺で起こる不思議な出来事の真相を、シェフが解明していく、という形は、近藤史恵の「ビストロ・パ・マル」シリーズに似てなくもない。

が、後半では事件の謎解きというよりは、シェフの人となり、ショコラティエとしての生き方に焦点が合わされ、職人としてのストイックさが描かれる。食を題材としたミステリーというよりは、職業小説の要素が強い。

デビュー作がSFで、『破滅の王』のような作品を書く人の作品とは思えない、意外さと軽さがよい感触だったので、紹介してみた。ほかにもフランス菓子店やイタリア料理店を舞台とする作品を書いており、それも面白そうだ。

しかし、本来、SFでデビューしたこの人のSFを、まだ読んでいない。SFファンを自称する身としては、そちらを先に読むべきかもしれない。

 


植物はなぜ動かないのか

2022-02-05 07:00:00 | 読書ブログ
植物はなぜ動かないのか(稲垣栄洋/ちくまプリマ―新書)
 
サブタイトルが「弱くて強い植物のはなし」
 
植物は動かない。これを植物の「固着性」という。動かない、というよりは動けないから、植物は環境を変えることができない。だから、自らを変えて環境に適応する。これを植物の「可塑性」という。
 
という具合に、食物連鎖の最底辺に位置する植物の、一見、弱いけれども、とても強い生存戦略を説明する本。素早く進化するために寿命を短くし体を小さくする(だから大木よりも草の方が進化が進んでいる)とか、毒を作るとか。
 
そのほか、弱肉強食が基本の生き物の世界で、植物が生き延びるための戦略が、かなり詳細に説明されている。
 
この人の文章は読みやすいだけでなく、植物って面白いな、と思わせてくれる。『身近な雑草のゆかいな生き方』は、かなり前だが何かで紹介されて評判になっていた。『世界史を大きく動かした植物』は、このブログでも紹介したこともある。(探すのも面倒なほど、かなり前です。引用方法をまだ理解していません。)