少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

少年の名はジルベール

2021-06-26 07:00:00 | 読書ブログ
少年の名はジルベール(竹宮恵子/小学館文庫)

著者は伝説の少女漫画家で、京都精華大学の教授、学長も務めた方。

この作品は、マンガの締め切りに追われて缶詰にされるために上京したときから、トキワ荘の少女マンガ版というべき「大泉サロン」時代を経て、ずっと書きたいと構想していた『風と木の詩』の連載が始まるまで、つまりプロの表現者として自立するまでを描いている。

その過程で、自分の求めるマンガが、周囲の無理解だけでなく、自分の実力不足からも描けないもどかしさや、順調に才能を伸ばしていく仲間への複雑な思い、一大イベントとなった45日間ヨーロッパ旅行などが描かれている。

この本を買ったのは、様々な読書から得た知識で、この人が24年組の一人で、『地球(テラ)へ』の作者であることを知っていたから。そして、読むに値する一冊と思ったから、ブログで取り上げることにした。(ただし、今のところ、マンガの方を読んでみたいとは思っていない。)

作品中に出てくる萩尾望都さんについても、2年前、このブログを始めて間もないころに、『一瞬と永遠と』というエッセーを紹介したことがある。

萩尾さんも自伝的作品『私の少女マンガ講義』を書いていることを、この本の解説で知った。近く文庫で出版されるようなので、読むことになるだろう、と思っている。

藤井聡太論~将棋の未来~

2021-06-19 07:00:00 | 読書ブログ
藤井聡太論~将棋の未来~(谷川浩司/講談社+α文庫)

昨年9月に先崎学の『うつ病九段』を紹介したときに、谷川浩司も文章がうまかった、と過去形で書いたが、この本を読んで、決してその筆が鈍っていないことを確認した。

谷川さんは、中学生で棋士になった5人のうち、2人目。十七世名人の資格保持者。歳が近いこともあり、ずっと応援していたが、いつか3人目の羽生善治に押されて、第一線から消えていった。

羽生さんが7冠を達成したとき、羽生さんより強い人が現れることなんてあるのだろうか、と思った。その羽生さんも50歳になり、いま、将棋界最強は、4人目の渡辺明だといわれている。

そして、その渡辺さんを脅かしているのが、5人目の藤井さんだ。

谷川さんは、光速の寄せで史上最年少で名人になり、将棋界最強の立場も経験した自身の知見を踏まえて、この人でなければ捉えられない視点で藤井さんのけた外れの強さを分析している。藤井聡太論としては、現在、この本がベストだと思う。

AIの登場で様変わりした将棋界に、羽生さん以上の存在となりうる若き棋士が現れた。その行く末を見届けたい。

窓辺の風

2021-06-12 07:00:00 | 読書ブログ
窓辺の風(宮城谷昌光/中公文庫)

好きな作家の、自伝的エッセー。(エッセーとエッセイの表記は、いつも迷うが、このブログではエッセーにしている。)

タイトルは、この人の作品『草原の風』を思わせる。

第一部は、『時代の証言者』として読売新聞に連載されたもの。生い立ち、文学修行、中国歴史への開眼、作家デビュー、直木賞受賞までを26回に分けて描いている。第二部は、26回のそれぞれに対応した「おまけの記」を付け加え、当時の思いや印象的なエピソードを織り込んでいく。

そして第三部では、4月10日の記事で紹介した『孔丘』に関連して、孔子と『論語』に関する論考を披露している。ここで描かれているように、ひとつの漢字の使われ方から、歴史の襞(ひだ)に秘められた真実を読み解こうとするのがこの人の持ち味だ。

この人の商業デビューは45歳。驚きに満ちた、しかも勇気づけられる一冊である。

空想居酒屋

2021-06-05 07:00:00 | 読書ブログ
空想居酒屋(島田雅彦/NHK出版新書)

料理に関する本を、たまに紹介したくなる。

この作品は、酒と料理好きの筆者が、自ら居酒屋を開くとしたら、という設定で、自由奔放に描かれた、酒と肴に関するエッセー。題名に魅かれて図書館で借りてきた。

理想的な居酒屋のあり方。そこで供されるべき肴として、揚げ物、豆腐と卵、寿司、尿酸値を度外視した珍味の数々。鰻、鍋、スープ、屋台料理などなど。最後は、自ら臨時の居酒屋を実演して見せる。それらの料理が食べたくなり、また、酒が飲みたくなること請け合いの一冊。

書かれた時期はコロナ禍に重なり、すべての居酒屋にエールを送る内容にもなっている。

作者は芥川賞の選考委員であり、かなり有名な文学者だと思うが、たぶん私は、この人の作品を1作しか読んでいない(たぶん、『夢遊王国のための音楽』中の一作)。そしてこれからも、エッセーはともかく、文学作品を読むことはないと思う。(少し趣味が偏っているもので。)

しかし、この1冊で、この作者に非常によい印象を持った。