少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

青炎の剣士

2021-09-25 07:00:00 | 読書ブログ
青炎の剣士(乾石智子/創元推理文庫)

『赤銅の魔女』、『白銀の巫女』に続く紐結びの魔導士三部作の完結編。

赤銅の魔女の使命は、千五百年前の魔女の呪いを解くこと。白銀の巫女の使命は、引退した前任者が軍を退けるために悪用した力の反動が招く災厄を防ぐこと。この二つを、軍の襲来をしのぎつつ実現するために、旅の仲間の一行はそれぞれの立場で奮闘する。

第二部のクライマックスは、イスリルの魔導士の悪意から生まれた化け物との対決だったが、その結末は、第三部の展開にかなり深刻な影響を及ぼす。

タイトルに三色が配された三部作だが、赤と白の正体が明白なのに比べて、青の剣士はそうでもない。その正体はかなり後ろの方で明らかになり、分かってみれば全然意外ではないのだが、私は何となく別の人物を想定していた。同様に、第三部の展開を事前に予想するのは難しいが、読み終えると、なるほどと思う。

乾石さんの作品中に描かれた魔法の中で、紐結びの魔法が一番好きだ、という印象は、この作品でさらに強まった。

本当の翻訳の話をしよう

2021-09-18 07:00:00 | 読書ブログ
本当の翻訳の話をしよう(村上春樹 柴田元幸/新潮文庫)

翻訳もする作家と、彼をサポートしている翻訳の名手との対談集。取り上げられている海外の作品は、知らないもの、読んだことがないものがほとんどだが、こういうのは意外にすらすらと読める。

翻訳について話すということは、本について、読書について話すことだ。作家がそういう話をすれば、結局、作品評や自らの創作技法について語ることになる。お互いが多くのことを共有しているが故に、話が深いところに及んでいる、というのがよくわかる本だ。

引用させてほしい。

もちろん読書というものはあくまで個人的な~更に言えば相当に利己的な~営為であって、すべての読書はそれぞれ独自の偏食傾向を有するものだし、その傾向を他人がよそから正しいだの正しくないのだの、歪んでいるだの歪んでいないだのと、簡単に断ずることはできないはずだ。

この文章に出会っただけでも、私にとってこの一冊は読む価値があった、ということになる。

村上春樹訳のチャンドラーはすべて読んだが、すでに相当な量になる彼の翻訳を読む予定は、今のところ、ない。

あなたに似た人 Ⅱ

2021-09-11 07:00:00 | 読書ブログ
あなたに似た人 Ⅱ(ロアルド・ダール/ハヤカワ・ミステリ文庫)

4月下旬に紹介した『あなたに似た人』の2冊目。

なぜミステリに分類されるのか分からないが、「奇妙な味」と呼ばれるこの人の短編集の続編。1冊目は、「ええええ!」という独特の終わり方をする作品がまとめられていたが、こちらはもう少しややこしくて、独特の後味が残る作品が集められている。

その中に、電子計算機が文章を書く、という趣旨の作品がある。言語はつまるところ論理だから、電子計算機で扱えないはずがない、という考え方は、1950年代に出版された作品としては達観していると思う。ユヴァル・ノア・ハラリが説くように、人の思考もアルゴリズムに過ぎないのならば、いずれAIは人類にとってとても大きな存在になるだろう。たとえペンローズがいうように脳の作用に量子力学が関与しているとしても、精神作用が未知の領域にとどまることはないだろう。

問題は、私が生きているうちに結末を知ることになるだろうか、ということ。「シンギュラリティ」を説くレイ・カーツワイルによれば、それは2045年までには実現する。やれやれ。

人類の未来 AI、経済、民主主義

2021-09-04 07:00:00 | 読書ブログ
人類の未来 AI、経済、民主主義(吉成真由美/NHK出版新書)

吉成真由美氏のインタビューによる著作は、『知の巨人』以来。

人類が直面する大きな課題について、その分野の世界的な権威に訊く、というコンセプトは前作と同じ。インタビューの対象は、前作が6人で、今回は5人。両方に入っているのは、ノーム・チョムスキーだけ。

取り上げたテーマは、次の5つ。2017年に発行された新書だから、少し時季外れの感じがあるかもしれない。このテの本をリアルタイムで追いかけるのは、けっこう難しいのだ。前作も、発行は2012年で、読んだのは2018年だった。

1 トランプ政権と民主主義のゆくえ
2 シンギュラリティは本当に近いのか
3 グローバリゼーションと世界経済のゆくえ
4 都市とライフスタイルのゆくえ
5 気候変動モデル懐疑論

シンギュラリティについては2人に聞いているが、全く違う答えになっている。また、気候変動モデルに対する懐疑論は、賛同できない人が多いだろうが、いずれにしても読む価値のある内容だと思う。(まともな本だから、まともな感想しか書けません。)