少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

おやごころ

2023-11-24 20:34:46 | 読書ブログ
おやごころ(畠中恵/文芸春秋)

江戸の町名主の跡取り息子、高橋麻之助を主人公とする「まんまこと」シリーズの第9作。前作の紹介は2021年10月だから、2年ぶり。

お気楽な若旦那のお話だったが、物語のなりゆきで、人情噺としての色合いが、少しずつ変化している。

妻子を失ったり、嫁取りに失敗したりしてきた麻之助。今作では、嫁取りも終わり第一子も無事に誕生。(江戸時代、結婚と跡継ぎを得ることは、家の存続にかかわる大事だったはず。)

経験を経て少し成長したようにみえる麻之助に、相変わらず困りごとが持ち込まれる。支配町が増えたので、もめごとが増えるのは仕方がないが、本来、かかわるはずのない旗本や八丁堀のもめごとまで、もちこまれる。

例によって麻之助はあちこち走り回って、解決の糸口を探すのだが、嫁のお和歌もあれこれと知恵を貸してくれる。今後、お和歌の役割が大きくなりそうな予感。

親となった主人公がどう変わっていくのか、(あるいは変わらないのか)、困りごとのスケールはさらに大きくなるのか。

と考えると、次作はさらに、長く待たされそうな気もする。

画像は、書影とは関係のないイメージ。

それでも旅に出るカフェ

2023-11-17 20:59:41 | 読書ブログ
それでも旅に出るカフェ(近藤史恵/双葉社)

この作者の『ときどき旅に出るカフェ』は、2021年1月に紹介した。

続編が書かれたのは意外だったが、コロナ禍の影響が大きいのではないか、と感じている。コロナ禍をめぐる社会情勢の中で、さまざまな「生きにくさ」が描かれているような気がする。

コロナ禍で、旅行も飲食店も大きな打撃を受けた。世界各地のお菓子や料理が出てくるので、旅に出たような気分になれる「カフェ・ルーズ」は、まさしくその渦中にあって閉店しているようだ。物語は、店の客である女性の視点で描かれているが、実質的な主人公がカフェの店主であるのも、前作と同様。

物語は短編連作のスタイルで進んでいく。毎回、特殊事情を抱えた人物が登場し、カフェにかかわることで、少し状況が改善する。おいしさには、確かに、人を癒す力がある。

毎回、各国のおいしいものも登場して、それが各章のタイトルになっている。物語とマッチした「おいしいもの」を探すのは簡単ではないだろうから、多くの作品を期待するのは難しいかもしれないが、続けてほしいシリーズ。

いずれにしても、今作で、私にとっては『ビストロ・パ・マル』シリーズと並ぶ大好物になった。

画像は、書影とは関係のないイメージ。

宇宙人と出会う前に読む本

2023-11-10 20:49:02 | 読書ブログ
宇宙人と出会う前に読む本(高水裕一/BLUE BACKS)

著者はスティーブン・ホーキング博士に師事したこともある研究者で、専門は宇宙論。

多くの宇宙人が交流する宇宙ステーションに派遣されたとして、宇宙人とどのような話をすればいいのか、という問題意識で書かれた本。

全宇宙で共通の教養として選ばれたのは、

あなたは何でできていますか?
あなたたちの太陽はいくつですか?
あなたは力をいくつ知っていますか?
宇宙の創造者を知っていますか?
数のなりたちを知っていますか?

など、9つのテーマ。それぞれについて、その科学的背景を解説する趣向。

特に難しい記述はなく、科学全般、あるいは宇宙論の入門書のような。ではあるが、太陽が2つある世界のカレンダーや、素数をベースにした数学など、あまり聞いたことのない内容も盛り込まれており、単なる入門書ではない、興味深い読み物に仕上がっている。

非常に印象に残った言葉。宇宙に知的生命が存在する可能性を問われたとき、ホーキング博士はこう答えた。

「この地球に知的生命と呼ぶに値するものなど存在するのか?」

画像はいつものように、書影とは関係のないイメージ。

運命の時計が回るとき

2023-11-03 20:52:22 | 読書ブログ
運命の時計が回るとき(ジェフリー・アーチャー/ハーパーBOOKS)

ジェフリー・アーチャーの警察小説の第4作。2023年冬に刊行予定、との予告は半年以上遅れたことになるが、それくらいで腹を立てていては翻訳小説読みはやっていられない。

作品ごとに昇進し、作品ごとに新たな分野を担当する趣向で、今作では警部として5件の未解決殺人事件を担当することになる。しかし、メインは、第1作から引き続いての仇敵との対決。

休暇で妻とともに豪華客船で旅行中の主人公は、FBI志望の若いアメリカ人に話しかけられ、殺人事件に巻き込まれる。という冒頭から、息つく間もなく、新たな展開がつぎつぎと。5件の殺人事件の捜査も、それほど進んでいるようにみえないが。

今作の鍵を握るのは、これまでの捜査にも登場したある捜査官、とだけ言っておこう。おなじみの悪徳弁護士や敵役の元妻も、もちろん登場する。

原題は"OVER MY DEAD BODY"
おれの目の黒いうちは、そんなことは絶対にさせない、というほどの意味合いで、敵役のセリフに出てくる。

第5作は来年秋、とのこと。

なお、画像は、書影とは無関係のイメージです。今回は法廷シーンはでてきませんが。