少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた

2021-03-27 07:00:00 | 読書ブログ
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた(橋本 幸士/講談社)

量子力学や宇宙論の解説書を、ある程度は読んできたが、「宇宙のすべてを支配する数式」という言葉を聞くのははじめてだったので、図書館で見かけて借りてみた。

科学的な発見は著作権の対象にはならないらしいし、ネット上で公開されているようなので、具体的な数式を掲載してみる。



左辺のSは、「作用」を表すとのこと。素粒子の標準模型の「作用」を表しているらしい。

右辺の冒頭にあるのは積分記号で、宇宙全体の積分を表しているらしい。その後に右辺に出てくる関数は、G、F、Ψ、Φの4つで、それぞれ重力子、力を伝える素粒子、物質をなす素粒子、そしてヒッグス粒子に関係する関数らしい。

で、右辺の1行目は一般相対性理論らしい。
2行目の最初の項は電磁気力、弱い力、強い力の理論、2番目の項は粒子・反粒子の理論、
3行目は湯川相互作用、
4行目は自発的対称性の破れを、それぞれ反映しているらしい。

らしい、ばかりで恐縮だが、もし超弦理論が進展すれば、4行の式は、1行にまとめられる可能性がある、らしい。

もちろん、内容は全く理解できないが、物理学者が高校生の娘に解説する、という体をとっているため、文章自体はすらすら読める。すると、脳は何かしらを理解したと錯覚を起こす。最先端科学の解説書を読むことの効用は、このように、何となく、かろうじて、少しは分かったような気持ちになることにあるのではないかと思う。

どこかで見かけたら、読むことをお勧めしたい。読書というのはつまり、何となく、かろうじて、少しは分かるということの積み重ねではないか、と思っている。

濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿

2021-03-20 08:00:00 | 読書ブログ
濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿(有栖川有栖/角川書店)

推理小説の沼はあまりに深いので、深みに近づかないようにはしているが、ユーモア推理や警察小説など、浅めのところに足を踏み入れるのは避けがたいことだと思っている。

有栖川有栖は本格推理の人で、昨年、コロナ禍で身をすくめていた時期に、かなり重いものも含めて、この人の作品をむさぼるように読んでいた。その中に、わりと軽めの『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』という作品集があり、本作は、その第2弾、ということになる。私は基本的に、心霊ものとか怪奇ものは読まないことにしているから、この人の作品でなければ読まなかっただろう。

「心霊探偵」を名乗る主人公と、若い女性の助手が登場し、つてをたどって依頼される心霊現象を「解決」していく。心霊現象に見せかけて、実は、というネタあかしの趣向ではなく、本格的に、心霊現象を題材としている。霊的なものを感知し、交流できる能力を持つ探偵を主人公として、なおかつ、推理を発揮してどのような物語が成立するかを、作家は楽しんでいるように見える。

シリーズ2冊のタイトルから、「幽霊」という熟語が浮かび上がるのは作家の趣向だが、この探偵と助手の組み合わせを、これで終わりにするのはもったいない。3冊目は出るのか、そのときはどんなタイトルになるのか、読者としては気になるところ。

きたきた捕物帖

2021-03-13 09:00:00 | 読書ブログ
きたきた捕物帖(宮部みゆき/PHP研究所)

宮部みゆきの作品中で、最も好きなのが『初ものがたり』だ。

妻もそこそこ読書をするが、私と好みがほとんど重ならない。妻は、SFとファンタジーとスパイものが嫌いなのだ。(まあ、にもかかわらず、毎日仲良く暮らしていますが。)

その中で、かろうじて重なっているのが、例えば宮部みゆきとか、東川篤哉(『謎解きはディナーの後で』などの作者)あたり。

宮部みゆきの捕り物帖といえば、『初ものがたり』の他には、『ぼんくら』に始まる3作品だが、このシリーズは、どちらかといえば人情話の色彩が強い。

で、『初ものがたり』の続編は出ないものかと切望していたところ、新たに新作3本を加えた『完本初ものがたり』が出てから、またしばらく時間が経った。

で、この作品である。本屋で見かけて、迷わずに買った。今回は、岡っ引きが主人公ではないが、いずれ岡っ引きになると期待される若者が主役のようだ。しかも、『初ものがたり』の、例の食い物屋の縁者が出てくるらしい。

帯に「私がずっと書きたかった捕物帖です」と作者の言葉が書かれているが、「私がずっと読みたかった捕物帖です」と返したい。

シンギュラリティ・トラップ

2021-03-06 08:00:00 | 読書ブログ
シンギュラリティ・トラップ(デニス・E・テイラー/ハヤカワ文庫)

久しぶりのSF色のハヤカワ文庫。この作者が『われらはレギオン』シリーズを書いているのは知っているが、まだ読んでいない。分厚い3巻に手を出すには、それなりの勢いが必要だ。

で、ノンシリーズの1冊を見つけて、試してみた。

冒頭から、一攫千金目当ての宇宙探索、そして、高度な地球外文明の遺物との遭遇と、フレデリック・ポールの『ゲイトウエイ』シリーズを彷彿とさせるような設定で始まり、その後も、いかにもSF的な道具立てが次々と出てくる。すべて列挙していくと、ネタバレのおそれが強くなるからやめておくが、この作者の独創というよりは、これまでのSFで使われてきたものが多い。

しかし、にもかかわらず次に何が起こるかを楽しみに、読ませ続ける力を持った作品だ。

タイトルの意味合いは、環境破壊、核戦争に続く、文明の滅亡理由だ。作者がタイトルに使っている以上、この程度の言及は大目にみてもらえるのではないか。

巻末の訳者あとがきをみると、この作品の第2作も構想されているらしい。どこまでこの作者に付き合うかは、自分でもまだ予測できない。