
街の灯(北村薫/文藝春秋)
これまで何度も紹介してきた北村薫氏の、未読のシリーズを探してみた。
『街の灯』
『玻璃の天』
『鷺と雪』
この3冊で「ベッキーさん」シリーズ。
時代は昭和のひとけたから11年まで。主人公は女子学習院の生徒。物語は「わたし」という一人称で語られる。(「円紫師匠と私」シリーズでは、最後まで「私」のままで、氏名も不明だったが、このシリーズの「わたし」は、花村英子。)
ベッキーさんというのは、主人公付きの運転手で、名前は別宮(べっく)みつ子。才色兼備のうえ、武術も嗜む、というスーパーヒロイン。主人公がベッキーさんの助けを得て、身の回りの謎を解き明かす、という物語。
感想を少し。
軍部の力が強まるなど不穏な空気はあるが、大震災からの復興や銀座の賑わいなどの明るさもある時代。女性への制約が強い中で、ベッキーさんも主人公も、しなやかに軽快なステップを踏んでいるようだ。また、主人公の心の中のつぶやきや兄との会話も、この作者特有の「軽さ」を感じさせる。
最近、明治から昭和初期にかけての時代を舞台とするミステリを見かけることが多いが、この作品はその先駆けと呼べるのだろうか。いずれにしても、華族社会のありようや時代背景などの解像度は、他に例を見ない鮮やかさ。
巻末に作者へのインタビューが掲載されているのが非常に面白い。その中で特に気になったのが、今の時代が当時によく似ている、という作者の言葉。このシリーズは2002年から2008年にかけて書かれているが、2025年の時点で、その指摘はより切実になっているような気がする。3冊を読み終えて、改めて時代の深刻さを思う。
この作者には、まだ読み残しているシリーズがある。探し出す機会を持つことができるかどうか。
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