レンブラントの身震い(マーカス・デュ・ソートイ/新潮クレスト・ブックス)
数学に関する優れた啓蒙書を書いてきた著者の、読み残していた一冊。
チェスのチャンピオンが人工知能に敗れた時、数学者たちはあまり心配しなかった。真の難問は囲碁で、コンピュータがプロ棋士に勝つには100年以上かかると思われていた。
しかし、2016年に、「アルファ碁」が世界最強の棋士に勝利すると、いつか数学も同じ道をたどるのではないか、という懸念を抱いた著者は、人口知能研究の最前線を取材し、考察を重ねた。
多くのことを考えさせられた一冊。その一例を紹介すると・・・
著者は、人工知能による創造の可能性について、かなり否定的な立場をとっているように見える。おそらく、数学とは創造である、という強い自負からくるのだろうが。それほど強い主張は、近い将来、後悔のタネになりそうな気もする。
数学者が大きな成果を挙げても、他の誰もそれを理解できない、ということが起こり得るほど、現代数学は複雑で専門化している、という趣旨の記述がある。ABC予想の証明も、そのような事態になっているのかもしれない。
人工知能が人類と協働してより深い真理の探求に役立つ可能性はあるが、現実に人工知能をもてはやしている人々は、自分の懐を豊かにすることしか考えていない。という著者の指摘は、まさにそのとおりだと思う。人工知能は、大富豪や独裁国家に独占されるべきではないが、現実は危うい方向に向かいつつある。
なお、原題は The Creativity Code
「レンブラントの身震い」という言葉は、本文中に1度だけ出てくる。(印象的な言葉だが、本書の内容をよく表しているとは思わない。)