少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

スパイは今も謀略の地に

2021-01-10 09:00:00 | 読書ブログ
スパイは今も謀略の地に(ジョン・ル・カレ/早川書房)

昨年11月に、この作者の作品『スパイたちの遺産』を紹介する記事を投稿したが、その後まもなく、氏の訃報に接した。そこで、哀悼の意を込めて、文庫になるのを待たずに、ハードカバーで読んでみた。

舞台は、直近のイギリス。主人公は、40代後半、現場仕事からの引退を迫られたベテランのスパイ。閑職に追いやられた主人公のもとに、ある情報がもたらされて、大規模な作戦が動き出す。

バドミントンクラブで知り合った青年の描写に多くのページが割かれるが、読後に印象に残るのは、4人の女スパイだ。

主人公の部下の新人スパイ。新婚直後に共に活動したことのある主人公の妻。残り2人は、ネタバレ防止のため、書かないでおこう。

誰も死なず、一応ハピーエンドなのは、この作者にしては珍しいが、題名から推しはかるに、背景にあるテーマは、諜報活動における盟友のアメリカで、ロシアびいきのトランプ大統領が就任し、イギリスがブレグジットに踏み込んだ時代において、スパイ活動がどのような意義を持つのか、という問いではないか。

そして、政治がいかに混乱しようとも、スパイは、今なお現場にいるのだ。

いずれにしても、この作者にしか書けない、無二の作品だと思う。合掌。