まだ団地に住んでいた頃、
階段下の植え込みの中から栗色の猫が現れた。
もうすっかり日も暮れて暗かったので野良猫と思っていたら、
黒い皮のお洒落な首輪が見えた。
飼い猫なので付いては来ないだろうと思い階段を上ると、のこのこ付いて来る。
玄関を開けると、慣れた様子で部屋の中迄入って来た。
人以外のお客さんがやって来るとは思っていなかったので、
取り合えず飲み物をと思い、小皿に水を入れてやった。
ペロリと飲み干した後、狭い部屋の中を見学し納得したのか
カーペットの上でゴロリと横になってくつろぎ始めた。
…ここが気に入ったらしい。
「猫は七つの家を持つ」と言われる位だから、我が家を七件目にされては困る。
そうだ、私が家を出れば付いて外に出るかと思い玄関を開けて外へ出る。
しかし、玄関まで見送りに来て、まるで飼い主を見送る様に玄関マットの上で寝そべるのだ。
違う、違う。慌てて猫を抱え、階段下まで連れて行った。
仕様が無いので、家を探してやる事にした。
川沿い迄出ると、 『小鉄』が心配そうにこっちを見ている。
「お前も一緒に『栗』を家迄送る?」と聞くと、『小鉄』も付いて来た。
二匹と一人で橋を越え、川向こうの猫を飼っていそうなお宅へ行ってみた。
ある一件の家に付くと『栗』は慣れた様子ですいすいと中へ入っていった。
ここが家か。『小鉄』と顔を見合わせ、ダッシュで橋まで走った。
すると、後ろでまるで「置いてくな~!」とでも言いたげな猫の鳴き声が響いた。
息を切らせて走っている自分と、何故か付いてきた『小鉄』が妙に可笑しく思えた。
秋の夜長は、「日本昔話」のように夜が更ける。
夜の訪問者には気を付けた方が良い。
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