――――― 第 2 場 ――――― B
音楽大きくなり、歌手スザンヌ歌う。
下手より、見るからにチンピラ風の男ハリーと
ピート、登場。
2人、歌い終わったスザンヌに近寄る。
ハリー「よお、スザンヌ。相変わらずいい声してるな。」
スザンヌ「何しに来たの!?」
ピート「おいおい、それはなだろ?」
ハリー「(ピートを制するように。)悪いな、ちょっと懐が淋しくな
ってよ。」
スザンヌ「お金なんかないわ!!」
ハリー「冷たいじゃないか。」
スザンヌ「一体、幾等私から巻き上げる気なの!?」
ハリー「(ムッとしたように。)誰のお陰で、この店で働けると思っ
てるんだ・・・。俺が知り合いに口利きしてやったからだろ
!!(スザンヌの腕を掴む。)」
スザンヌ「痛い・・・放してよ!!」
その声に気付いた、店の従業員アーチー、
近寄りハリーの腕を掴む。
アーチー「お客さん!店の者に乱暴されちゃ困りますよ!」
ハリー「何だと!?俺の女を如何しようが知ったこっちゃない
だろ!!(アーチーの掴んでいた腕を振り解き、殴り
掛かる。)」
ピート「やっちまえ!!」
他の客達、3人の乱闘騒ぎに気付き、
悲鳴を上げたり騒ぐ。
アーチーと、アーチーに加勢してピート
と殴り合っていたロイ、倒れそうになって
いる。B・Jも加勢するが、殴られている。
その時、レナード、奥から騒ぎに気付い
て出て来る。
レナード「店の中で騒ぐのは止めろ。」
アーチー「マネージャー・・・」
ハリー「マネージャー?」
レナード「出て行ってもらいましょうか。」
女性従業員、遣られて座り込んで
いたアーチーとロイ、B・Jに近寄り
助け起こす。
ハリー「マネージャーさんよ、俺はおまえさんの店で、こいつら
に殴られて怪我しちまったんだ。慰謝料よこしな!!」
レナード「・・・聞こえなかったか・・・?出て行けと言ったんだ。」
ハリー「何を!!(レナードに殴り掛かる。)」
レナード「(サッと避けて、ハリーの腕を掴み、締め上げる。)」
ハリー「あいてててて・・・ち・・・畜生・・・何しやがる・・・」
レナード「本当に怪我をしたくなければ、二度と店の者には手
を出すな!!いいか!!」
レナード、ハリーの腕を掴んだまま引き
摺って行き、下手方へ放り出す。
ピート「ハリー・・・!!(慌てて後を追う。)」
ハリー「畜生!!覚えときやがれ!!」
スザンヌ、レナードに駆け寄って
抱き縋る。
スザンヌ「ありがとう!!」
B・J「やったーっ!!」
アーチー「流石!!」
全員、レナードを称えて歌う。
“全く頼りになる男
どんな奴らも敵わない
俺達のマネージャー
レナードに任せりゃどんな問題も
忽ち解決 全く頼りになる男
俺達のレナード”
途中から、騒ぎに気付いて部屋から出て来た
フランシス、2階からその様子を見ている。
――――― 第 3 場 ―――――
カーテン閉まる。カーテン前。
上手よりレオーネ、スタン、ふてぶてしく
登場。
スタン「レオーネさん!如何してさっきの奴、ぶっ飛ばしてしま
わなかったんすか?」
レオーネ「馬鹿!!あいつは俺達が敵う相手じゃないぜ。」
スタン「(笑う。)冗談!あんなひょろっちいのに、レオーネさん
が負ける訳ないじゃないっすか!」
レオーネ「(振り返って。)おまえはまだまだ甘いな。あいつの
目を見りゃ分かるんだ。ありゃ、幾つもの修羅場を潜
りぬけてきた奴の目だってな。」
スタン「えーっ?そうかなぁ・・・。」
レオーネ「もっと相手を見る目を養いな。(前方へ目を遣って、
不味そうな顔をする。)やばい・・・」
その時、下手より専務ウィリアムス、
その部下ウィルソン登場。
ウィルソン「おい、レオーネ!!フランシスは見つかったのか
!?」
レオーネ「いや・・・それがまだ・・・」
ウィルソン「さっさと見つけてこないか!!」
ウィリアムス「まさか7階のホテルの部屋から、ベランダ伝い
に逃げるとは思わなかったな。(笑う。)」
ウィルソン「専務!そんな呑気な!!」
ウィリアムス「(咳払いをして真面目な顔付になる。)そうだ!!
さっさと連れて来て、早くヘンリーとの結婚を承知
させなければ・・・。全くあの社長が、あんな遺言さ
え残さなけりゃ、会社はさっさと私のものになった
のだ!それよりトーマスの方はどうだ?観念して
実権を放棄すると言ったか!?」
ウィルソン「いや・・・それもまだ・・・」
ウィリアムス「畜生、しぶとい爺だ!!全く、どいつもこいつも
・・・。兎に角、レオーネ!!フランシスが逃げ出し
てから、まだそんなに経っていない!屹度、何処
か近くに潜んでいる筈だ!!直ぐ見つかるような
自宅や知人宅などには寄るまい・・・。他に娘が行
きそうなところ・・・徹底的に捜して来い!!」
レオーネ「分かりました・・・。行くぞ、スタン!!」
レオーネ、スタン、軽く頭を下げて下手
へ去る。
入れ代るように上手より、専務息子(
ヘンリー)登場。
ヘンリー「お父さん、フランシスは戻りましたか?」
ウィリアムス「(振り返って。)ああ、ヘンリー・・・。それがまだだ
・・・。」
ヘンリー「フランシスは僕がずっと想ってきた人・・・。その彼女
がやっと僕の物になろうと言う時に・・・。」
ウィリアムス「分かっているよ。」
ヘンリー「父さんがどんな汚い手を使っているか知らないが、
僕は兎に角、彼女が僕のところへ来てさえくれれば
それでいいのですよ・・・。例え、それが彼女の意志
とは全く関係なく、無理矢理であったとしても・・・。」
ウィリアムス「相変わらずおまえは冷たい人間だな。」
ヘンリー「そりゃ、父さんの息子ですから・・・。(笑う。)」
ヘンリーの笑い声残して、暗転。
――――― 第 4 場 ―――――
カーテン開く。
舞台は閉店後のひっそりとした“nothing”。
カウンターの中で一人、後片付けをしていた
レナード、ライトのスイッチを消すと、店内は
薄暗くなる。棚から酒瓶を一本と、グラスを
持ってカウンターの外へ。
(椅子はテーブルの上へ全て上げてある。)
椅子を一つ下ろし、ゆったりと腰掛ける。
グラスに酒を注いで、飲み始める。
その時、2階からフランシス、ゆっくりと下りて
来て、レナードの方へ近寄る。
フランシス「・・・あの・・・」
レナード「(フランシスに気付いて微笑む。)どうした?眠れない
か?」
フランシス「(軽く頷く。)」
レナード、立ち上がって椅子を下ろす。
レナード「(フランシスに椅子を勧めて。)かけろよ。」
フランシス「(頷いて腰を下ろす。)何をしているの・・・?」
レナード「(カウンターの中へ入って、カップに飲み物を注いで
持って来る。)俺は、この時間が一番好きでね。店が
終わって、誰もいなくなったここで、一人グラスを傾け
る・・・。落ち着くだろ?(フランシスにカップを渡し、椅
子に座る。)ほら・・・温まるぜ。」
フランシス「ありがとう・・・(カップを受け取って、口を付ける。)
暖かい・・・」
レナード「(そんなフランシスの様子を見て。)・・・話しがあるん
だろ・・・?」
フランシス「(驚いたように。)どうして・・・?」
レナード「(微笑んで。)顔見りゃ分かるよ・・・。何があったんだ
・・・?」
フランシス「(暫く俯いて、考えている風に黙っているが、思い
切ったようにレナードを見詰めて。)お願いです!!
私を助けて下さい!!(思わずレナードの手を取る
。)」
レナード「おまえ・・・誰なんだ?」
フランシス「(ゆっくりと。)・・・父の名前はバーナード・タナー・・・
TMインターナショナルの社長でした・・・。」
レナード「TMインターナショナル・・・と言うと、あの大手貿易会
社の・・・?」
フランシス「(頷く。)」
レナード「・・・社長でした・・・ってことは・・・」
フランシス「・・・亡くなりました・・・2週間前に・・・。父は遺言を残
したんです・・・。以前から専務の行動に不審感を抱い
ていた父は、自分が亡くなった後、専務の思う様には
させない為に、私と結婚した男性に会社を任せると・・・。
それまでは、父が一番信頼していた秘書のトーマスに
、肩書きでは私が社長となり、実際の運営はトーマス
が行ってくれることになっていました・・・。ところが、そ
の遺言を見た専務は、どう転んでも会社は自分の思
い通りにならないと分かると、私とトーマスを其々ホテ
ルの一室に監禁したんです。その後のトーマスのこと
は分かりません・・・。専務は私に専務の息子との結
婚を承諾するように迫りました・・・。」
レナード「それで、おまえはそのホテルから逃げ出して来たと・・・
?」
フランシス「・・・はい・・・。今逃げださなかったら、このまま私は
押し切られて、専務の思いのままになってしまうと思っ
たから・・・。お願いです、マネージャーさん!!さっき
あなたが皆に称えられているのを聞いて、あなたなら
私に力を貸してもらえる・・・そう思ったんです!!お
願い!!助けて下さい!!(泣きながら。)私・・・父の
会社だけは守りたいんです・・・」
レナード「・・・泣くな・・・。本当に俺がおまえを助けてやれるかな
んて分からないぜ・・・」
フランシス「・・・マネージャーさん・・・(レナードを見詰める。)」
レナード「けど・・・俺は一生懸命な奴に弱いんでね・・・。それから
俺のことはレナードでいいよ・・・」
フランシス「(涙が溢れる。)・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
レナード「(フランシスの頭に触れる。)泣くなって言ったろ・・・」
レナード、フランシスの手を取り歌う。
(カーテン閉まる。)カーテン前へ。
“何が起こるか分からない・・・
けど行動を起こさないと
何も始まらない・・・
何が待ってるか分からない・・・
素晴らしい未来かそれとも・・・
けど迷っていたら何時までも
立ち止まったまま・・・
いつもnothingから始まる
振り向くことは考えないで
昇りゆく陽が輝いているから・・・”
暗転。
――――― 第 5 場 ―――――
カーテン開く。(絵紗前。舞台はサンフランシスコ
市警内。)人の行き来が多く、騒めいている風。
上手よりチャールズ、何か書類に目を遣りながら
登場。自分のデスクに座り見入っている。
そこへジェイン、コーヒーの入ったカップを2つ
手に登場。チャールズの側へ。
ジェイン「(一つのカップをチャールズのデスクに置いて。)おは
よう、チャールズ!!」
チャールズ「(書類に目を遣ったまま。)ああ・・・」
ジェイン「一体何をそんなに熱心に見ているの?(チャールズの
見ている書類を覗き込んで。)捜索願い届け・・・?何?
昨日からこんなの一生懸命読んでたの?誰か捜してる
の?」
チャールズ「(顔を上げてジェインを見る。)おい・・・俺は今、忙し
いんだ。お喋りしてないで、パトロールにでも出たら
どうだ?」
ジェイン「もう冷たいのね。折角コーヒー入れて来てあげたのに
。」
チャールズ「(机の上のコーヒーに気付いて。)ああ・・・ありがとう
・・・」
ジェイン「(微笑んで。)いいのよ!さ・・・パトロールにでも出よっ
かな・・・。じゃあね!」
チャールズ、出て行くジェインの方を暫く見ているが、
再び書類に見入る。
ジェイン、出て行こうとして、入口でレナードに出会う。
ジェイン「あら、レナードおはよう!どうしたの?こんな朝っぱら
から、珍しじゃない。」
レナード「ああ、おはよう。」
ジェイン「あなたがこんな時間に起きてるなんて、今日は雨が降
るかしら。(笑う。)」
レナード「(肩を窄めて。)冗談だろ。」
――――― “レナード”3へつづく ―――――
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