りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“大和晃” ―全11場― 3

2011年10月14日 20時15分20秒 | 未発表脚本


         優美、泣きながら車椅子を漕いで、下手方へ
         行く。

  春彦「危ない・・・!!私が付いて行こう!!(優美の方へ。)」

         優美、春彦下手へ去る。

  静「(晃の側へ。)晃・・・。優美ちゃん、及川君が亡くなった所で、
    感情が昂ってるのよ・・・。気にしないで・・・。」
  晃「・・・畜生・・・(涙を堪え、握り拳を握り、悔しさに体を震わす。)
    」
  静「晃・・・?」
  晃「畜生・・・!!如何して俺はあの時・・・」
  静「あなたの選択は、正しかったと思うわ・・・。」
  晃「(フッと笑う。)正しかった・・・か・・・。如何してそう言い切れる
    んだ・・・。もっと違う方法を選んでいれば、あいつは死ななくて
    済んだかも知れないんだぞ!!」
  静「あの時、ああするんだった・・・もっとこうすればよかった・・・な
    んて考え方は、馬鹿げてるわ!!いくら悔やんでも、時は戻り
    っこないもの!!あなたは生きて・・・彼は死んだのよ!!」
  晃「おまえに俺の気持ちが分かるものか!!」
  静「分からないわよ!!無二の親友を失った、あなたの気持ち
    なんて分かりっこないわ!!だけど・・・だけど及川君が亡く
    なって、悲しいのはあなただけじゃない!!それを考えられ
    ないで、自分だけが親友を失った、可哀相な人間だなんて   
    甘ったれた考えを持ってるようじゃ、屹度、及川君も天国で
    泣いてるでしょうね!!」
  晃「(思わず、静の頬を叩く。)」
  静「(涙を浮かべ、頬を押さえる。)・・・私は、あなたのことが好き
    だった・・・。けれど、こんなあなたは大っ嫌い!!」

         静、涙を堪えるように歌う。

         “自分の気持ちに気付くのは簡単・・・
         それを認めるのは至難の業
         だから見て見ぬ振りするのね・・・
         もっと目の前にある現実に
         心開けば自ずと分かる
         何も難しいことなんてない
         ただ素直になること
         それがたった一つの答え・・・”

  晃「・・・分かってるんだ・・・分かってるんだ・・。だけど、この現実
    を、自分の中でまだ認められないんだ・・・。あの時、無理だと
    分かっていても、何故俺はあいつを引き摺ってでも山を下りな
    かったのか・・・。自分の下した選択が、全て間違いで・・・だか
    らあいつが死んだんだ・・・。その思いで、心が潰れそうだ・・・。
    静・・・ご免・・・打ったりして・・・。おまえの言うことは正しいよ
    ・・・。俺は自分の心に素直になることが、一番不得意なんだ
    ・・・。」
  静「分かってるわ・・・晃のことは・・・誰よりも・・・。」
  晃「・・・静・・・」

         その時、上手より一人の警官登場。

  警官「(晃を認め。)大和晃さんでしょうか?」
  晃「(頷く。)」
  警官「(小さな紙袋を差し出す。)これはあなたのものですね。名
      前が書かれていましたから・・・。亡くなった及川さんの側
      に、転がっていたものです。どうぞ。」
  晃「(袋を受け取る。)」
  警官「じゃあ失礼します。」

         警官、上手へ去る。
         晃、袋から中身を取り出すと、携帯の
         テープレコーダー。    ※
    
  静「晃・・・?」

         カセットを見詰める晃、スポットに浮かび上がる。
         晃、カセットのボタンを押す。と、掠れた音楽流れ
         る。暫くすると、プッツリ切れ、雑音に交じって、
         尚斗の声が聞こえる。

  尚斗の声「・・・よかった・・・まだ、使えそうだ・・・」

  晃「(驚いたように。)尚斗・・・?」

  尚斗の声「・・・晃・・・おまえが何時も・・・こんなものを持ち歩いて
         たお陰で・・・俺は最後のメッセージを・・・おまえに残
         せそうだ・・・(苦しそうな笑い声。)折角・・・おまえが急
         いで助けを・・・呼びに行ってくれたのに・・・無駄になり
         そうだよ・・・。悪いな・・・。覚えてるか・・・晃・・・?中学
         の時の約束を・・・。どちらかが先に死んでも・・・必ず
         また会える・・・ここへ来れば・・・。どうやら・・・俺が・・・
         おまえの来てくれるのを・・・待つことになりそうだな・・・
         (笑う。)何時でも・・・自由奔放に生きてたおまえは・・・
         俺の憧れだったよ・・・。晃・・・優美を・・・頼む・・・(苦し
         そうに咳き込む。)」

  晃「尚斗!!(思わず叫ぶ。)」

  尚斗の声「・・・綺麗な空だなぁ・・・おまえと過ごした青春時代は
         ・・・俺にとって、忘れられない思い出だ・・・。おまえと
         出会った俺の人生は・・・最高に輝いてた・・・。ありが
         と・・・う・・・晃・・・(静かになる。)」

  晃「(絞り出すように。)・・・尚斗・・・」

         音楽流れ、晃、声を振り絞って歌う。

         “突然始まった出会いから・・・
         おまえは俺の目指す所だった・・・
         何時も少し前を行き
         導く者の役目をしてくれた・・・
         正しい心を与えてくれた・・・
         突然突き付けられた別れでも
         おまえは明るく笑って行った・・・
         何時も穏やかな心を持ち
         全ての者に溢れる愛を与え
         自分の運命を悲しむことなく・・・”

         涙を堪え、遠くを見遣る晃。一時置いて、物憂い
         面持ちで、ゆっくり上手より客席へ。(下手方へ。)
         その時、客席下手より、看護師、慌てて走り登場。

  看護師「優美ちゃん!!優美ちゃん!!(回りを捜すように。晃を
       認め、駆け寄る。)あっ!!大和さん!!」
  晃「・・・どうかされたんですか・・・?」
  看護師「大変なんです!!優美ちゃんが・・・!!」
  晃「え・・・?」
  看護師「一人になった隙に、病院を抜け出したらしくて・・・!!」
  晃「何だって!?」
  看護師「あの子、お兄さんが亡くなって、自暴自棄になってたから
       ・・・。」
  晃「兎に角、捜しましょう!!」
  看護師「ええ・・・!!」

         晃、看護師と共に、上手へ走り去る。

    ――――― 第 9 場 ―――――

         静かな音楽流れる。
         スモーク流れ、舞台中央、眠っているような優美、
         スポットに浮かび上がる。
         八百屋舞台上、尚斗、スポットに浮かび上がる。
         優美を認め、優しそうに微笑むとゆっくり側へ。
         舞台、薄明るくなる。

  尚斗「・・・優美・・・優美・・・」
  優美「う・・・ん・・・(ゆっくり目覚める。目が見えているように、
      尚斗を認める。)・・・だ・・・れ・・・?」
  尚斗「(微笑む。)優美・・・」
  優美「・・・お兄ちゃん・・・?お兄ちゃんね!!私には分かる!!
      一度も見たことはないけど!!お兄ちゃん!!(尚斗に
      抱き縋る。)如何して私を一人ぼっちにいたの!?如何し
      て一人で先に行っちゃうの!?私、これから如何すれば
      いいの!?私も一緒に連れて行って!!」
  尚斗「優美・・・覚えているか・・・?おまえは小さい時から、何時
      も泣き虫だった・・・。何時も僕の後ろにひっ付いて・・・」
  優美「私はお兄ちゃんが大好きだった・・・!!」
  尚斗「そんな優美を、僕は何があっても守ってやろう・・・そう
      何時も考えていたんだ・・・」
  優美「じゃあ、これからも・・・!!」
  尚斗「優美・・・!!あんなに泣き虫だったおまえが、何時の頃
      からか、何があっても泣かなくなった・・・。僕の後ろに隠
      れてばかりいたおまえが、何時の間にか僕の前を歩くよ
      うになったんだ・・・。明るく笑うようになった・・・。僕はその
      変化が、とても嬉しかったよ・・・。それだけで、晃と友達
      になってよかった・・・と、心から思ったものだ・・・。」
  優美「・・・お兄ちゃん・・・」
  尚斗「僕には分かる・・・。優美が如何して自分の殻を破って、
      外の世界へ出て来たのか・・・。頑張るんだ、優美・・・。
      僕は、何時もおまえの側にいるよ・・・。」
  優美「私、頑張れない・・・!!(泣く。)お兄ちゃんがいなきゃ、
      私頑張れない!!」
  尚斗「(首を振る。)そんなことないよ・・・(微笑んで。)優美なら
      頑張れる・・・」

         尚斗、フェード・アウト。
         優美、再びスポットに浮かび上がる。

  優美「・・・お兄ちゃん・・・?お兄ちゃん・・・?お兄ちゃん!!私
      を一人ぼっちにしないで!!私も一緒に連れて行って!
      !(回りを捜す。)」

         優美、八百屋舞台上、放心したように後方を
         向いたまま立ち尽くす。
         舞台、明るくなる。その時、上手より晃、走り登場。
         優美を認める。

  晃「優美ちゃん!!」
  優美「こないで・・・。私は今から、お兄ちゃんの所へ行きます・・・
      。」
  晃「何を言ってるんだ、君は・・・!!(駆け寄ろうとする。)」
  優美「こないでって言ってるでしょ・・・!!来たら、今直ぐここか
      ら飛び降りて死ぬわ!!」
  晃「そんなことをして如何なるんだ!!」
  優美「私・・・今、お兄ちゃんに会ったわ・・・。」
  晃「え・・・?」
  優美「お兄ちゃんも、私に一緒に行こう・・・って言ってくれた・・・。
      だから行かなきゃ・・・」

         優しい音楽流れる。

  晃「優美ちゃん・・・。尚斗がそんなことを言う筈ないよ・・・。尚斗
    は何時も・・・どんな時も、君のことを一番に考えていた・・・。
    誰よりも優しく・・・何よりも深い愛情で、何時も君を見守って
    いたんだ・・・。あいつが何時も望んで止まなかったもの・・・
    それは、君の幸せだよ・・・。」

         晃、歌う。

         “例え 今が辛くとも
         屹度 何時か乗り越えられる
         だから生きてみないか・・・”

         優美、呼応するように歌う。

         “生きる希望を失った
         見たいものもなくなったわ
         だからそっとして!”

         晃、歌う。

         “希望ならまた見つかる
         見せたいものは山ほどある
         力強く生きるんだ!”

         優美、歌う。

         “嘘よ 全部出鱈目よ
         生きてても何の喜びも得られない
         大切な者を失った
         あなたには分からない”

         晃、歌う。

         “君の悲しみは僕の悲しみ
         君の涙は僕の涙
         同じ苦しみを味わってるんだ
         君の気持ちは僕の気持ち!!”

  晃「一緒にこの苦しみを乗り越えよう・・・。尚斗は、君の死なん
    か望んでやしない・・・。もし君が、尚斗に会ったと言うなら・・・
    君はもう知ってる筈だよ。あいつが何を君に望んでいるのか
    ・・・。あいつの本当の心が、見えた筈だ・・・。死ぬことは、
    簡単かも知れない・・・。生きることは辛いことが多いだろう
    ・・・。だけど、ほんの少しだけ、生きる勇気を持てば、今の
    辛さは、これからの君の人生の中で、何十倍もの幸せとなっ
    てかえってくるんだ・・・。その幸せは、尚斗から君への、最後
    の贈り物なんだよ・・・。それを受け取ってやらないで、如何
    するんだ!!」
  優美「・・・でも・・・私は一人ぼっちだわ・・・」
  晃「君は一人なんかじゃない・・・。俺がいる・・・。君が死んだら、
    俺は全く今の君と同じ気持ちになるだろう・・・。(笑う。)君は
    俺まで殺しちまうことになるんだ・・・。それに、君が生きる限
    り、君の心の中には、尚斗が生きるんだよ・・・。」
  優美「(涙が溢れる。)・・・晃さん・・・」

         その時、優美にだけ聞こえるように、
         尚斗の声が響く。

  尚斗の声「(優しく。)・・・優美・・・おまえが幸せになれば、僕も
         幸せなんだ・・・。分かるだろ・・・?」

  優美「(一瞬、声の主を捜すように、頭を上げる。)・・・お兄ちゃ
      ん・・・?ご免なさい・・・ご免なさい!!(声を上げて泣く。
      )」
  晃「(優美に駆け寄り、抱き寄せる。)分かってるよ・・・(微笑む
    。)」

         盛り上がった音楽で、暗転。     
      










   ――――― “大和晃”エンディングへつづく―――――











    
  ※ かれこれ10年以上前に書いた作品の為、“テープレコーダ
   ー”などと、古めかしい小道具が登場します^^;・・・が、今回
   は、書き直すことはせず、書いた時のまま登場させたいと思い
   ます(^.^) 
   もう一つ、もし現在の私が“テープレコーダー”などと言った小道
   具を登場させるなら、どこか途中で、晃君がその物を使用して
   いる場面を一つくらい作っていると思います・・・(^_^;)
   まだまだ未熟な作品だと、中途半端な小道具使用ですが、気に
   せずお読みください^^;   






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