――――― 第 3 場 ―――――
カーテン前。
下手より、村の医師エドワード、グレミン牧師
話しながら出る。
エドワード「いやぁ、昨夜の嵐は凄かったですなぁ・・・」
グレミン「ええ、全くです。もう少しで教会の屋根が、吹き飛ばさ
れるんではないかと、ゆっくり眠りにつくことも出来なか
った程ですから・・・」
エドワード「(笑って。)私もですよ、グレミン牧師。」
グレミン「(一瞬、不思議そうに。)え?あなたもですか、先生・・・
。」
エドワード「可笑しいですか?私が嵐などに怯えて眠れないの
は。」
グレミン「いえ・・・(口籠もる。)」
エドワード「(笑って。)自分でも可笑しいのだから、グレミン牧師
に不思議がられるのも尤もですがね。お陰で昨夜は
読む暇もないままに、買って置いてあった書物の山
を、随分と整理することが出来ましたよ。(再び笑う。
)」
グレミン「それは嵐に感謝しなければならないと言うことですね
?」
エドワード「その通りです。」
グレミン「ところで今日はどちらへ?」
エドワード「いや、何ね、検察官と言う訳でもないのだが、一昨
日、隣町で起こった、旅籠の火事で亡くなった宿主
の検視を頼まれましてね。」
グレミン「それはそれは・・・。では今から隣町まで?」
エドワード「ええ。今晩は泊まりですよ。(笑う。)」
そこへ上手より、新聞記者ジョセフ、幾分
早足に出、エドワードたちを認めて近寄る。
ジョセフ「エドワード先生、グレミン牧師、おはようございます!」
エドワード「(ジョセフを認め。)やぁ、おはよう。」
グレミン「おはよう、ジョセフくん。」
ジョセフ「昨夜は凄かったですね!教会は大丈夫でしたか?」
グレミン「村人たちが、いつもこまめに修理をしてくれているお陰
で何とかね。」
ジョセフ「それはよかった。」
エドワード「君も今から、隣町へ出勤かね?」
ジョセフ「先生も隣町へ出掛けるところだったんですか?」
エドワード「ああ。よかったら一緒に私の馬車で・・・」
ジョセフ「大変有り難いのですが、先生、我々は当分この村から
一歩たりとも出ることが出来なくなったんですよ。」
エドワード「・・・と言うと?」
ジョセフ「(上手方を指差して。)この先の村の出入り口の1本道
が、昨夜の嵐で崖崩れに遭い、道路が寸断されたので
す。」
グレミン「え!?」
エドワード「(驚いて。)本当かね!?」
ジョセフ「たった今、出勤しようと出掛けて行って、この目で見て
来たばかりですから確かですよ。」
エドワード「何てこった・・・私はこれから大切な仕事があったと
言うのに・・・」
ジョセフ「仕方ないですね・・・」
グレミン「家屋が無事だっただけでも、感謝しなければ・・・」
その時、下手よりミリオッタ出る。続いて
アンドレ、エリザベス出る。
ミリオッタ「おはようございます、皆さん。」
皆、一斉にミリオッタの方を向く。
エドワード「おはよう、ミリオッタ。」
ジョセフ「おはよう!今日は早いんだな。昨夜の嵐が怖くて、眠
れなかったかな?(笑う。)」
ミリオッタ「失礼ね!それよりどうしたの?皆揃って何の相談?
」
エドワード「それが昨夜の嵐で、この先の道が通行不可能にな
ってしまって、仕事に行けない我々は、途方に暮れ
ていたと言う訳だよ・・・。」
ミリオッタ「え・・・?」
アンドレ「通れない・・・!?」
ジョセフ「・・・(ミリオッタの後ろのアンドレたちに気付いて。)・・・
ミリオッタ・・・誰だい?」
ミリオッタ「昨夜、旅の途中にこの村に立ち寄られたご兄妹・・・
宿屋がなくて困ってらしたから、うちへお泊めしたの。」
ジョセフ「おまえのところへ?」
ミリオッタ「ええ。丁度空き部屋もあったし・・・。それより・・・(アン
ドレの方を向いて。)先を急いでたようだけど、この村
から出られないのなら仕方ないわ。道が元通りになる
まで、うちにいらっしゃって下さいな。」
アンドレ「しかし・・・」
ミリオッタ「うちは構わないのよ!!ね、そうしなさいよ!!」
ジョセフ「ミリオッタ・・・」
困惑した面持ちのアンドレ、嬉しそうな
ミリオッタでフェード・アウト。
――――― 第 4 場 ―――――
楽しそうな音楽が流れてくる。(カーテン開く。)
フェード・インする。と、舞台は村の丘。
其々の位置にポーズするアーサーと
ジャクリーヌ、幸せそうに歌う。
2人“待ち望んだ今この時・・・
幸せに満ちた心の充実
あなたといればただそれだけで
たとえ何が起ころうと
回りは全てバラ色に変わりゆく”
アーサー“冬の寒さも2人でいれば”
ジャクリーヌ“涙の時もあなたがいれば”
2人“ただそれだけで
全ては幸せ色に染まりゆく
花の香りも芳しく
あなたの温もりに心時めく
2人で共に生きる喜びに
満ち足りた今この時・・・
あなたさえいれば
この世は全て
生きる希望へと変わりゆく・・・”
アーサー、ジャクリーヌを抱き締める。
2人幸せそうに微笑み、手を取り合い
上手奥へ出て行く。
入れ代わるように下手より、2人を見て
いたようにアンドレ、エリザベスゆっくり
出る。
エリザベス「私たち、いつになったらこの村から出られるの?」
アンドレ「私にも分からないよ・・・」
エリザベス「もう一週間も経つのよ!今までこんなに長い間、同
じところに滞在したことって、私たちが生まれ育った
村くらい・・・」
アンドレ「仕方ないだろう。真逆、空を飛んで行く訳にもいかない
し・・・」
エリザベス「(溜め息を吐いて。)羽があったらいいのに・・・。私
・・・ミリオッタのこと嫌いだわ。」
アンドレ「どうして?親切な人だと思うけど・・・。」
エリザベス「確かに親切よ!でもその親切が・・・!お兄さんは
・・・どう思ってるの・・・?」
アンドレ「どう思うも何も・・・知ってるだろ?私は誰に近付くこと
もしたくないんだ・・・。おまえが一体、何を心配している
のか分からないけれど、道が直れば、この村とも直ぐに
お別れだ・・・。」
エリザベス「本当ね?」
アンドレ「ああ・・・」
エリザベス「昔から私の勘はよく当たるのよ・・・。お願い、お兄
さん、ミリオッタにだけは近付かないでね・・・。」
アンドレ「ああ・・・可笑しな奴だな・・・(笑う。)」
エリザベス「私だけよ・・・お兄さんの側にいてあげられるのは・・・
。」
アンドレ「・・・分かっているよ・・・私の為に、おまえにまで不自由
をかけていることは・・・」
エリザベス「(アンドレの腕にしがみつく。)そんなことないわ!!
私はお兄さんの側にいられることが幸せなんだから
・・・。」
アンドレ「こうして立ち寄った村で、おまえの気に入った場所が
見つかれば、私に気兼ねすることなく、おまえの好きな
ようにしてもいいんだ・・・」
エリザベス「私はずっとお兄さんと一緒に行くわ・・・(小さくくしゃ
みをする。)」
アンドレ「ほら、私に付いてこんなところまで登って来るから・・・
暖かくなったと言っても、午後からは丘の上はまだまだ
冷えて来るんだ。さぁ、先にお帰り。もうそろそろお茶の
時間だろう?」
エリザベス「でも・・・」
アンドレ「私も直ぐに戻るから・・・」
エリザベス「(頷く。)早くね・・・」
アンドレ「ああ・・・」
エリザベス、アンドレを気にするように
上手奥へ出て行く。
アンドレ、エリザベスが出て行くのを
見計らって、後方小高く盛り上がった
丘の上へ腰を下ろし、ゴロンと横に
なる。
そこへ一時置いて、上手よりミリオッタ、
誰かを捜すように出、アンドレを認め
嬉しそうに駆け寄る。
ミリオッタ「こんなところにいたの!?」
アンドレ、ミリオッタを認め、ゆっくり
起き上がる。
アンドレ「・・・何か用でも・・・?」
ミリオッタ「もう直ぐお茶の時間なのに、姿が見えないからどこへ
行ったのかと思って!この場所はこの村で一番見晴
らしのいい丘なのよ。登って来るのは結構大変だけど
、眼下に広がる村を見た途端、そんなことは吹っ飛ん
でしまう程!!ね、素敵だと思わない?」
アンドレ「(立ち上がって服を払う。)私は余計なお喋りに付き合
う気はないので・・・(出て行こうとする。)」
ミリオッタ「(アンドレの腕を取って。)待って!折角ここまで来た
んだから、もう少し楽しみましょうよ!」
アンドレ「・・・お一人でどうぞ・・・」
ミリオッタ「駄目よ!あなたも一緒でないと!」
アンドレ「君に一言忠告しておこう・・・私に・・・近付かない方が
いい・・・」
ミリオッタ「近付かない方がいい?何故?」
アンドレ「私は昔から・・・側にいる人々を不幸にしてしまう運命
を持って生まれた者なのだ・・・」
ミリオッタ「(笑う。)私、そんなこと気にしないわ!」
アンドレ「気にするしないの問題じゃない。君も私に近付くと、き
っとロクなことはない・・・。怪我の一つもしないうちに・・・
余計な好奇心を出して、あれこれ私に構うのを止める
ことだ・・・。」
ミリオッタ「エリザベスはどうなの?あなたはずっとエリザベスと
2人、旅して来たのでしょう?もし本当にあなたが、今
言ったような人なら、真っ先にエリザベスがどうかした
んじゃなくて?今まで色々あったんだとしても、それは
単なる偶然で、何もあなたがいたからそうなったんじゃ
ない筈よ、きっと・・・。」
アンドレ「・・・どう思われても・・・今までのことは、私の幻想でも
夢でもない・・・本当に起こったことなのだから・・・」
ミリオッタ「へぇ・・・でも今まで確かに色々あったかも知れない
けど、これからも同じようなことが起こるとは限らない
でしょ?ね?」
アンドレ「それは・・・だが・・・!」
ミリオッタ「今までどんな町や村を見て来たの?私なんて、生ま
れてから一番遠くに出掛けたことって隣町よ!(笑う。)
あなたから見れば、きっと私の世界なんて、ちっぽけ
な世界なんでしょうね・・・。」
アンドレ「(溜め息を吐いて。)本当に知らないからな・・・。」
ミリオッタ「ひょっとして・・・だからずっと旅して来たの?自分の
生まれ育った故郷を捨てて・・・一所に留まることなく
・・・」
アンドレ「・・・だったら・・・?」
ミリオッタ「そんなのって、悲しいじゃない・・・」
アンドレ「・・・親しい者たちが私の目の前で次々と亡くなるんだ
!!そんな別れを、運命にまざまざと見せ付けられるく
らいなら、私はどこの地にも愛着を持たず、ただの通り
すがりの旅人として生きて行く方が、余程いいんだ・・・
。」
ミリオッタ「エリザベスも納得しているの?それで・・・」
アンドレ「ああ・・・」
ミリオッタ「あなたの生き方は、ただ運命に流されてるのよ・・・。」
アンドレ「何・・・?」
ミリオッタ「だってそうでしょ?何故逃げてばかりいるの?何故
もっと立ち向かおうとしないの?辛いことから目を背け
て生きて行くのは、勇気ある者の選択ではないわ・・・」
アンドレ「放っといてくれ・・・おまえに“死神”と呼ばれ続けて来
た者の気持ちなど、分かろう筈がない・・・(ミリオッタに
背を向けて、出て行こうとする。)」
ミリオッタ「私だって!!父さんや母さんが・・・私の不注意で亡
くなった時・・・生きていくのが嫌になったわ!!まだ
ほんの小さな子どもだったけど・・・!!罪の意識に苛
まれて・・・何故私はあの時・・・火を点けたんだろう・・・
って・・・」
アンドレ「・・・火を点けた・・・?(振り返って、ミリオッタを見る。)
」
ミリオッタ「丁度あの日も・・・あなたたちが私のところへ来た時
と同じような、冷たい雨が激しく降っている日だった・・・
出掛けていた父さんと母さんが、雨に濡れて戻って来
たら、風邪をひくんじゃないかって・・・納屋で焚き火を
したのよ・・・。その為に納屋が火事になって、戻って驚
いた父さんと母さんは・・・馬を助ける為に中へ飛び込
んで、その小屋ごと・・・。ね!!私こそ裁かれるべき
者でしょ・・・」
アンドレ「何故・・・そんな風に平然としていられるんだ・・・」
ミリオッタ「これでも・・・こんな風に平気で人に話せるようになっ
たのは、つい最近のこと・・・。偉そうに言ったけど、やっ
ぱり立ち直るまで・・・何年もかかったもの・・・。けど私
には姉さんがいた・・・。あなたにもエリザベスがいるよ
うに・・・。それにいつも私の回りには、優しく見守って
くれたこの村の人達が大勢いたから・・・。あなたが立
ち直る為に、もっと他に誰かの手を必要とするなら、私
が力を貸すわ!!」
アンドレ「・・・何故・・・ただの通りすがりの私の為に・・・?」
ミリオッタ「・・・何故かしら・・・多分・・・あなたの目を見ていると
・・・昔の私を思い出すから・・・。辛いこと悲しいことを
全部忘れるのは無理かも知れない・・・。償いの気持
ちを持ち続けることも大切だわ・・・。けど・・・生きて行
く為には、前を向いて歩かないと・・・!!」
ミリオッタ、思わずアンドレの手を取り、
力強く歌う。
呆然とミリオッタを見詰めるアンドレ。
“夢を見よう
どんな小さなことでも
夢を見つめよう
たとえちっぽけで
人から見れば取るに足らない
そんな夢でも
夢を思い明日を夢見て
歩いてみよう
過去を見ないで
昨日流した涙のことも
きっと明日は乾いていると
信じて今日は微笑もう
心を開いて
自分を悪く言わないで
正しいと思う真実を
心の瞳を見開いて
今まで自分が拘った
どんな些細な思いでも
悲しみに打ち拉がれた
自分を捨てよう
未来を見れば
昨日の心の小ささに
閉じ篭った自分の殻が見える筈
きっと気付いて今日は微笑もう”
カーテン閉まる。
――――― “アンドレ”3へつづく ―――――
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〈 主な登場人物 〉
アンドレ ・・・ 旅を続けている青年。
ミリオッタ ・・・ 村に住む娘。
ジャクリーヌ ・・・ ミリオッタの姉。
エリザベス ・・・ アンドレの妹。
アーサー ・・・ ジャクリーヌの婚約者。
エドワード ・・・ 村の医師。
グレミン ・・・ 村の牧師。
ジョセフ ・・・ 新聞記者。
クリスト ・・・ ジョセフの後輩記者。
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――――― 第 1 場 ―――――
鐘の音が鳴り響く中、幕が上がる。
豪華な音楽が流れ、ライト・オン。
すると、舞台上は草花が咲き乱れる
小高い丘の風景。
ポーズを取った3組の男女、楽しそう
に歌い踊る。
“明るい陽差しのように
心も何故だか騒ぐ
新緑の香り辺を包み
体が何故だか踊る
爽やかな風が頬を過ぎ
その心地良さに身を委ねる
変わりゆく季節に時の
流れを感じて逸るように・・・
春の息吹を感じながら
若芽の間を縫う様に
軽やかにステップ踏んで
爽やかな風が頬を過ぎ
その心地良さに身を委ねる”
踊っていた男女、掛け声と共にポーズを
取り、上手下手へ其々去る。
優しい音楽流れ、上手奥よりどこか冷めた
目をした、長身の一人の青年登場。
(青年の名前はアンドレ。)
アンドレ、歌いながらゆっくり中央前方へ。
“この広い大地に生かされる限り
決して我が心に安らぎが
訪れることはないと
ただ目覚めれば
再び蘇る悪夢に
この身を呪い生かされている限り
決して幸せに満ちた平穏が
訪れることはないと
ただ繰り返す
永遠の躊躇いに翻弄され
明日への希望すら地の果てへと
追いやる運命に抵抗さえ
思いつかずに
ただ流される・・・
陽が昇り続ける限り
明日と言う日が来る限り
この命果てるその時まで
ただ・・・生きるだけ・・・”
遥か彼方に思いを馳せるように、
遠くを見遣るアンドレ。
フェード・アウト。(カーテン閉まる。)
――――― 第 2 場 ―――――
ライト・アウトのまま、人々の暗い歌声が
どこからともなく木霊するように聞こえて
来る。段々と大きく。
“おまえは死神だ!!
おまえは死神だ!!
おまえと関わった人間は
たとえ血を分けた肉親さえ
死の淵へと追いやる!!”
人々の歌声、再び木霊するように遠ざかる。
歌声に重なるように、嵐の為の風雨が
吹き荒れる音が段々大きくなる。
上手スポットにアンドレと、アンドレの妹
エリザベス、風雨を避けるようにコートを
深く被り、肩を寄せ合って小走りに下手へ
走り去る。
風雨の音、幾分小さく。
フェード・インする。と、舞台はジャクリーヌ、
ミリオッタ姉妹の屋敷。(居間。)
中央、置かれたソファーにジャクリーヌ、腰
を下ろしてレース編みに指を動かしている。
ジャクリーヌの後方窓辺にミリオッタ、外の
風雨を心配そうに見つめている。
ミリオッタ「凄い嵐ね・・・」
ジャクリーヌ「(編み物の手を休めて。)ええ・・・この時期にして
は珍しいわね・・・。(ミリオッタの方を見る。)何か私
には、自然が目に見えないものに感応して、唸り声
を上げているように感じるわ・・・」
ミリオッタ「(ジャクリーヌを見て微笑む。)何、変なこと言ってる
の?結婚前って言うのはナーバスになるのかしら・・・
(笑う。)それよりどう?来週結婚式をあげる花嫁さん
の気分は。」
ジャクリーヌ「(大きく溜め息を吐いて。)何だかまだ実感がなく
て・・・」
ミリオッタ「(ジャクリーヌの側へ来て、膝を付きジャクリーヌの手
を取る。)・・・幸せになってね、お姉さん・・・」
優しい音楽流れ、話し掛けるように
ミリオッタ歌う。
“いつも・・・いつもありがとう
私の側で見守ってくれて
とてもとても感謝してる
私のことを愛してくれて”
ミリオッタ「父さんや母さんが亡くなってから、ずっと私の為に働
いてきてくれたんだもの、お姉さんには一番幸せにな
ってもらいたいの。」
ジャクリーヌ「ミリオッタ・・・ありがとう・・・。でも私がいなくなった
ら・・・」
ミリオッタ「大丈夫よ!!(立ち上がる。)私のことなら心配しな
くたって!!こう見えても柔軟性があるんだから!!
一人になったら一人になったで、何とかやっていける
わ!!」
ジャクリーヌ「(微笑む。)そうだったわね。(立ち上がる。)あなた
は昔から、私なんかよりずっと行動力もあって、私
の方がいつもどれだけあなたに助けられたか・・・」
ミリオッタ「そうよ!お姉さんの方こそ、私がいなくなって大丈夫
?(笑う。)それより、アーサーは今日は来れないわね
。来週になったら、もう嫌でも毎日顔を付き合わせて
生活するって言うのに、毎日必ず仕事の帰りに、お姉
さんの顔を見に寄るものね。」
ジャクリーヌ「(窓の方を見て。)雨・・・益々酷くなるわね・・・」
その時、風の音に紛れるように、扉を
叩く音が聞こえる。
ミリオッタ「誰か来た・・・」
ジャクリーヌ「風の音じゃないの?」
再び、微かに扉を叩く音。
ミリオッタ「ほら!(扉の方へ駆け寄る。)」
ミリオッタ、慌てて扉を開けると、雨具を
頭からすっぽり被った一人の青年、風に
押されるように入って来る。
ミリオッタ、青年入ると扉を急いで閉める。
ミリオッタ「・・・アーサー・・・?」
アーサー「(雨具のフードを取って。)こんばんは。」
ジャクリーヌ「アーサー!!(アーサーに駆け寄る。)どうしたの
!?こんな嵐の日に!!」
ミリオッタ、微笑ましく2人を見ながら、
横のタンスの引き出しの中からタオル
を出し、アーサーの方へ。
アーサー「毎日、君の顔を見ないと安心して眠れないからね。」
ミリオッタ「はい。(アーサーへタオルを差し出す。)」
アーサー「(タオルを受け取って。)ありがとう、ミリオッタ。」
ミリオッタ、2人から離れ、ソファーへ腰を
下ろし、テーブルの上に置いてあった本を
取って、読む。
ジャクリーヌ「だけど・・・」
アーサー「どうした?それとも君は僕に会いたくなかった?(微
笑む。)」
ジャクリーヌ「そんなこと!!勿論、会えて嬉しいわ!!」
アーサー「だったらよかった。それより今日は、午後から全く酷
い風雨だったよ。配達の荷物が雨に濡れやしないか
と心配する前に、飛ばされやしないかとヒヤヒヤもの
さ。(笑う。)」
ジャクリーヌ「(心配そうに。)大丈夫だったの?」
アーサー「勿論!力だけは人一倍あるものでね。さぁて、ジャク
リーヌの顔も見れたことだし、雨がこれ以上酷くならな
いうちに帰るとするかな。」
ジャクリーヌ「ええ。」
アーサー「そうだ、ミリオッタ!(ミリオッタの方を向いて。)君は
本当に僕たちと一緒に暮らさないのかい?(雨具のフ
ードを被りながら。)」
ミリオッタ「ええ!」
アーサー「僕たちに気を遣うことはいらないんだよ。」
ミリオッタ「ご心配なく!私のことなら誰に気を遣ってる訳でもな
くて、本当に一人で大丈夫なんだから!アーサーの方
こそ私に気を遣わないで、ジャクリーヌとの新婚生活
を満喫して頂戴!」
アーサー「OK。まぁ、目と鼻の先にいるんだ、何かあったらいつ
でも飛んで来るから!」
ミリオッタ「ありがとう、お兄さん!」
アーサー「(微笑んで。)ジャクリーヌの大切な妹は、僕にとって
も大切な妹だからね。じゃあジャクリーヌ、僕が帰った
後はちゃんと戸締りするんだよ。おやすみ!(ジャクリ
ーヌの頬にキスする。)」
ジャクリーヌ「おやすみなさい。」
アーサー「さよなら、ミリオッタ!(手を上げる。)」
ミリオッタ「さよなら!(手を振る。)」
アーサー、扉を開けて素早く出て行く。
ジャクリーヌ、扉を閉めて、窓から外を
見る。
ミリオッタ「(ジャクリーヌの側へ。)いい人ね、私のお兄さんにな
る人は。」
ジャクリーヌ「(振り返って。)アーサーもああ言ってるんだし、私
たちと一緒に暮らしたって構わないのよ、ミリオッタ
。」
ミリオッタ「もう、その話しは無し!私は父さんや母さんがたった
一つ・・・残してくれた、この家を守っていくから・・・。今
までお姉さんが守ってくれたこの家を、今度は私が・・・
守っていくから・・・。」
ジャクリーヌ「・・・ミリオッタ・・・分かった・・・もう言わないわ。」
ジャクリーヌ、ミリオッタ、ソファーの方へ。
その時、扉をノックする音が聞こえる。
2人、扉の方を向く。
ミリオッタ「アーサーかしら?(扉の方へ行く。)」
ミリオッタ、扉を開けると、黒いコートに身を
包み、肩を寄せ合うようにアンドレとエリザベス
入って来る。
ミリオッタ「(戸惑ったように。)あの・・・」
アンドレ「突然、すまない・・・」
ミリオッタ「(2人の様子を見て。)こんなに濡れてちゃ、風邪をひ
くわ!もっと中へどうぞ!お姉さん、暖炉に火を入れ
て!」
ジャクリーヌ「ええ。(暖炉の方へ行き、薪を焼べる。)」
ミリオッタ、エリザベスの肩を抱いてソファーの
方へ。アンドレ、2人に続く。
ミリオッタ「さぁ、コートを脱いで!(エリザベスのコートを脱がせ、
ソファーへ腰を下ろさせる。アンドレの方を向いて。)
あなたも!」
ミリオッタ、タンスの引き出しよりタオルを
出して、アンドレに渡す。
アンドレ「(タオルを受け取り。)ありがとう・・・。エリザベス・・・(
タオルを一枚、エリザベスへ渡す。)」
ミリオッタ、テーブルの上のポットからカップへ
飲み物を注ぎ、2人へ其々手渡す。
ジャクリーヌ「一体どうなさったんです?こんな嵐の中を・・・」
ミリオッタ「見かけない・・・顔ね・・・旅の方?」
アンドレ「(頷く。)・・・私はアンドレ・・・こっちは妹のエリザベス
・・・。今日中にもう一つ向こうの村まで行って、宿を取
るつもりだったのですが、この嵐で思うように進むこと
が出来なくて・・・。雨具も持たず、途方に暮れていたと
ころ、ここの灯りが見えたので・・・思わず扉を叩いてし
まいました・・・。ご迷惑でしょうが、妹の為に今夜一晩
だけ、ここで風雨を凌がせて頂きたい・・・。頼みます・・・
。(頭を下げる。)」
ミリオッタ「そう言うことでしたら・・・ね、お姉さん。」
ジャクリーヌ「ええ・・・。宿屋のないこの村に、こんな嵐の中、旅
のお方を放り出すようなことは出来ませんわ。どう
ぞ粗末な家ですけれど、我が家でくつろいで行って
下さい。」
アンドレ「ありがとう・・・」
ミリオッタ「丁度、一部屋空いてるし・・・」
ジャクリーヌ「ええ。」
アンドレ「いや・・・もうここで・・・」
ミリオッタ「あなたはソファーで良くても、妹さんが駄目よ。」
ジャクリーヌ「そうね。どうせ使ってない部屋ですし・・・どうぞ・・・
(手で奥を示す。)」
アンドレ「・・・(少し躊躇ったような面持ちをするが、頷いて。)・・・
じゃあ・・・(エリザベスの方を向いて。)エリザベス・・・」
ジャクリーヌ、アンドレとエリザベスを引率
するように、先に奥へ入る。
アンドレ、エリザベス、ジャクリーヌに続く。
ミリオッタ「後でお食事をお持ちしますわ!!」
ミリオッタ、何故だか分からないが、心が
時めくのを感じたように頬を紅潮させ、
瞳を輝かせて2人が入るまで、その方を
見ている。
入るのを見計らって正面。嬉しそうに、何
か期待に胸膨らませるように遠くを見遣り、
音楽でカーテン閉まる。
――――― “アンドレ”2へつづく ―――――
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
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ルルル「どうしてマーサが・・・」
そこへマーサ、下手より登場。
マーサ「私が何か・・・?」
ドン、デン、グン、ポー「わ・・・わあーっ!!またお化けだーっ!
!」
ドン、デン、顔を上げる。
ドン「・・・って・・・もういいぜ。お化けは見慣れた。」
デン「うん・・・」
グン「えーっ・・・!?」
ポー「おじさんたち怖くないのー・・・!?」
ドン「俺たちは大人だからな。(笑う。)」
デン「そ・・・そう言うこと・・・。いつまでも怖がっちゃいられないっ
て・・・(マーサをチラッと見て。)で・・・でも・・・やっぱり・・・
ちょっと・・・こ・・・怖い・・・」
マーサ「(恐ろし気な声で。)何なんですか!!この人間たちは
!!」
デン、グン、ポー「わあーっ!!(手を取り合って震える。)」
ルルル「マーサ・・・」
ドン「・・・あんたがマーサ・・・?」
マーサ「誰!?あなたたちは!!危険ですわ、お嬢様方!!早
くこちらへ!!」
ラララ「マーサ、大丈夫よ。ここにいるのはただの人間・・・。私た
ちには、子ねずみ程も恐ろしくないわ。ねぇ、ルルル・・・(
笑う。)」
ルルル「ええ・・・(笑う。)」
ドン「・・・悪かったな・・・」
マーサ「まぁ、お嬢様たちったら・・・。でも、そのただの人間がど
うしてここに!?」
ドン「(咳払いをする。)それはだな・・・」
マーサ「事と次第によっては・・・生きてここから帰れると思わな
いことね・・・」
デン、グン、ポー「ヒーッ!!」
ドン「ま・・・まぁまぁ・・・待ってくれよ、そんな怖い顔しないで・・・」
マーサ「怖い顔ですって・・・!?」
ドン「ヒッ・・・(思わず目を伏せる。)あ・・・あの・・・だから少し落
ち着いて・・・」
マーサ「フン!私はいつも落ち着いてますわ!さぁ、何故生きた
人間がこの屋敷の中をウロウロしているのか、教えて頂
きましょうか・・・?」
ドン「あ・・・そうそう・・・では先ずお聞かせ願いたいのですが・・・
あなたがこの2人のお嬢さん方の乳母のマーサ夫人・・・?
」
マーサ「・・・ええ・・・それが何か・・・?私が先に質問したんです
よ?あなたに聞かれる謂れは・・・」
ドン「まぁまぁ・・・。ところであなたもこの2人が探し回っている、
水晶玉のことをご存知で・・・?」
マーサ「水晶玉ですって!?そんなものは知りません!!お嬢
様方!!またそんなありもしないことを、よりによって、
こんな人間に話すなんて・・・!」
ルルル、ラララ其々「ごめんなさい・・・」
マーサ「そんな水晶玉の話しなど、ただの子どもたちの空想で
す!」
ドン「本当に・・・?」
マーサ「ええ。」
ドン「何故あなたはそう言い切れるんですか?」
マーサ「それは・・・」
音楽流れ、ドン歌う。
“あなたは何か重大な
秘密を知っているんじゃないか
我々誰も知りえない
大切な心に秘めた何かが・・・
ここにいる皆を欺き
ただ一人・・・
知り得た重大な何かを・・・”
マーサ「そ・・・そんなもの、ある筈ないでしょう・・・。私はただの
召使・・・」
ドン「(デンをつついて。)おい!ほら、さっきのあれ・・・おまえが
持ってる奴を出せよ。」
デン「え・・・?ああ・・・(ポケットから水晶玉を取り出す。)これ・・・
?」
その場にいた者、水晶玉を認め、一斉に
驚きの声を上げる。
ラララ「あっ!!」
ルルル「それは私の水晶玉!!」
ラララ「本当にあったのね・・・」
ルルル「(恐ろし気な声で。)やっぱりあなたが盗んだのね!!」
デン「わ・・・わあー!!違う・・・違います!!これは兄貴が!!
」
ルルル「兄貴?(ドンに。)あなたが犯人!?」
ドン「ま・・・待て待て!!落ち着け!!これは俺がさっき、この
屋敷の中で偶然見つけたんだ!!」
ルルル「・・・見つけた・・・?嘘!!盗んだのよ!!」
ドン「ち・・・違うんだ!!本当に見つけたんだって!!」
ルルル「・・・本当・・・に・・・?」
ドン「ああ!!神かけて誓う!!(手を上げる。)」
ルルル「・・・そう・・・(デンから水晶玉を取り上げるように。)ああ
・・・でもよかった・・・!!本当に長いこと探していたのよ
・・・!!(水晶玉を愛おしそうに手で包む。)」
ラララ「ねぇ、マーサ!!やっぱりルルルは本当のことを話して
いたのね。」
マーサ「・・・外からは分からなかった筈よ・・・」
ラララ「・・・え・・・?」
ドン「だから、うっかり壁に穴を・・・」
デン「兄貴・・・!!」
ドン「あっ・・・」
マーサ「・・・どれ程の長い時・・・沈黙を守り・・・ただひたすら知
らん顔を決め込み・・・今まで一体どれだけ心痛め・・・
この身朽ち果ててなお、屋敷に心留め置き暮らして来
たと思っているの・・・!?」
ルルル「マーサ・・・」
ドン「矢張りあなたがその水晶玉を隠してたんですね、マーサ夫
人・・・」
マーサ「(ハッとして。)あ・・・あの・・・いえ・・・だからそれは・・・」
ルルル「マーサ・・・どうして・・・」
マーサ「お嬢様・・・」
ラララ「ルルル!私にも懐かしいお父様、お母様の様子を見せ
て頂戴!!」
マーサ「ま・・・待って!!」
ラララ「え・・・?」
ドン「マーサ夫人・・・ひょっとして・・・あなたは何か、この水晶玉
に映し出されると困るような秘密を持っている・・・違います
か・・・?」
マーサ「・・・ち・・・違い・・・ます・・・」
ドン「本当に・・・?」
マーサ「・・・ええ・・・」
ドン「では・・・この水晶玉を、皆で覗いて見ようではありません
か・・・。懐かしい昔々の全てを・・・」
マーサ「・・・(項垂れる。)分かりました・・・お話しします・・・何も
かも・・・」
皆、マーサに注目する。
マーサ「私には・・・その昔、たった一人の家族がいました・・・。
とても可愛くて優しい弟でした・・・。でもその弟は、とて
も重い病で・・・その治療費は貧乏暮らしの我が家には
到底払えないような金額だったのです・・・。でも何とし
ても、弟の病気を治してやりたい・・・どんなことをしても
・・・そう・・・私にはどうしても・・・大金が必要だったので
す・・・。そこで目を付けたのが・・・」
ドン「目を付けたのが・・・?」
マーサ「このお屋敷だったのです・・・。丁度その頃、このお屋敷
で働かせてもらっていた私は・・・悪いことと知りながら・・・
至る所に転がっていた金目のものを、誰にも気づかれな
いよう、少しずつ拝借し・・・」
ドン「弟の治療費に充てていた・・・」
マーサ「(頷く。)・・・私にはどうしてもお金が必要だったのです。
病気の弟の治療の為に・・・」
デン「このお屋敷の財産を、黙って使っていたんだ・・・」
マーサ「だから・・・そのことがお嬢様にバレでもして、ここを追い
出されるようなことにでもなれば・・・忽ち弟の治療費が、
払えなくなって弟は死んでしまう・・・」
ラララ「追い出すなんて・・・」
ルルル「そんなこと、ある筈がないじゃない・・・」
ラララ「ハッキリ言ってくれれば、お金なんていくらだって・・・」
ルルル「マーサの弟の為になら、私たち・・・屹度このお屋敷だ
って手放したでしょう・・・」
マーサ「お嬢様・・・」
ドン「それを隠す為におまえさんは、その水晶玉を壁の裏に埋
め込んだ・・・。それが年月と共に壁がもろくなり・・・さっき
俺が穴を開けた場所から見つかった・・・と・・・」
(ルルル、手に持っていた水晶玉を、
テーブルの上へ置く。)
音楽流れ、ルルル、ラララ、マーサの側へ。
マーサの手を取り、歌う。
“大好きなマーサ
今までずっと側にいて
私たちを温かな
愛情で包み守ってくれた
そんなあなたにどれ程の
感謝を持ってこれまできたか・・・
ああ大好きなマーサ・・・
あなたがいたから私たち
今まで少しも淋しいなんて
思ったことはないのよ”
マーサ「お嬢様・・・」
ルルル「マーサだって、早く弟のところへ行きたかったでしょう
・・・?」
ラララ「それなのに今まで、私たちとずっと一緒にいてくれたわ
・・・」
ルルル、ラララ「ありがとう、マーサ・・・」
マーサ「お嬢様・・・!!申し訳ありません・・・!!(泣く。)」
デン「(テーブルの上の水晶玉を見ていて、何かに気付いたよう
に。)ねぇ、兄貴・・・この水晶玉って・・・ビデオカメラみたい
なものなんだな・・・」
ドン「・・・ん・・・?」
デン「だって、この水晶玉に映るのは、オイラたちがさっき見た
ことばっかで、見たことのないものは一つだって見せてくれ
ないぜ。」
マーサ「・・・え・・・?」
ラララ「・・・なんですって?」
ルルル「見たことだけ・・・」
ドン「そうか・・・あんたがどんな悪事を働いてきたとしても・・・そ
んなものは水晶玉には知ったこっちゃねぇ・・・その水晶玉
には、彼女たちのあんたに対する思い出だけが映し出され
るってことか・・・。」
ルルル「(水晶玉を手に取り見る。)・・・マーサ・・・笑ってるわ・・・
私たちも・・・幸せそう・・・」
ドン「彼女たちは、笑顔のあんたしか知らなかったってことだな
・・・」
デン「じゃあ何故、魔法使いのお婆さんは、誰にも見せるだなん
て・・・?」
ドン「人間の欲が働くと、勘違いと言う・・・自分に都合のいいも
悪いも分からない・・・間違った心を見せるからじゃないか
・・・?あんたみたいに・・・。彼女たちの心を信じていれば、
もっと早く、彼女たちもあんたも心安らかになることが出来
たのに・・・」
ルルル「でも私は、あなたたちに出会えて、楽しかったわ!」
ラララ「私も!こんな長い時をここに留まっていなければ・・・」
ルルル、ラララ「あなたたちと出会うことはなかった・・・」
ドン「え・・・?あ・・・ありがとう・・・(照れたように笑う。)」
ルルル「マーサ!さぁ、向こうの世界へ行きましょう。」
ラララ「お父様やお母様・・・そしてあなたの弟も、きっと首を長く
して待っている筈よ・・・」
マーサ「お嬢様方・・・お嬢様、ありがとうございます・・・(涙声で
。)」
ルルル「さ・・・参りましょう・・・」
マーサを挟むようにルルル、ラララ並び、
3人上手方へ行きかける。
ルルル「そうだわ・・・(後方、棚の上から封筒を取り、ドン、デン
の方へ歩み寄る。)これ・・・(封筒を差し出す。)」
ドン「・・・なんだい・・・?(封筒を受け取る。)」
ルルル「私の大切な宝物を見つけてくれたお礼よ・・・」
ドン「お礼・・・?」
ルルル「このお屋敷はもう、これからは本当に空き家になるの
だから、あなたたちに差し上げるわ・・・泥棒さん!」
ドン「え・・・知って・・・!?」
ルルル「私たちは、あなたたちよりずーっとお姉さんなんですか
らね。(笑う。)」
ラララ「そうそう、そこら辺に転がっている丸いものは、(グン、ポ
ーを覗き込むように見て。)そこの2人の坊やたちにあげ
るわ。丸いものを探しに来たんでしょう?(笑う。)」
グン「あ・・・そうだ!!僕の大切なボール・・・!!」
デン「ボール・・・?あ・・・(ポケットを探る。)確か・・・」
ドン「また、おまえか?何でも拾ったものをポケットに仕舞う癖、
なんとかしろよ・・・。」
デン「だって・・・(ポケットからボールを取り出し見せる。)・・・こ
れ・・・」
グン「あ!!それだ!!僕の探してた大切なボール!!」
デン「屋敷の中に入る前に、ここの庭で拾ったんだ。はい・・・(グ
ンに差し出す。)」
グン「(ボールを受け取り。)ありがとう!!やった!!」
ポー「よかったね、グン!!」
グン「うん!!」
ラララ「本物も見つかったって訳ね・・・」
ルルル「さぁ、行きましょう。」
ラララ「ええ・・・さよなら・・・」
ルルル「さよなら・・・」
マーサ、ルルル、ラララ、嬉しそうに
寄り添い合い、上手へ去る。
ドン「さよなら・・・さよなら・・・!!また会おうぜ!!(手を振る。
)」
4人、残したまま場面変わる。
――――― 第 6 場 ―――――
グン「おじさんたち、これからどうするの?」
ポー「このお屋敷に住むの?」
ドン「さぁな・・・いっちょ、病院にでも改築するか!」
デン、グン、ポー「病院!?」
ドン「壁の中で水晶玉を見つけた時、一緒にこいつを見つけた
んだ!(ポケットからキラキラ光る、何かを取り出し見せる
ように。)」
デン「ダイヤモンド!?」
ドン「ああ!これだけあれば、病院だろうが何だろうがこの屋敷
を改築して、新装オープン出来るぜ!!」
グン、ポー「わーっ!!」
ドン「病気の人を助ける為にこの屋敷を使えば・・・あの3人も喜
んでくれるんじゃないか・・・」
デン「兄貴・・・」
ドン「大病院のオーナー様・・・ってのも、悪くないだろ?」
デン「兄貴ー!!」
グン「じゃあ僕たち帰るよ!パパやママが心配してるといけない
から。」
ドン「おう!」
グン「病院が出来たら、遊びに来るね!!」
ドン「馬鹿!病院に遊びに来るとは、どう言った見解だ!」
グン、ポー「あはははは・・・(笑う。)」
ドン「その前に、丸いもの取りに来いよ!!」
グン「うん!!」
グン、ポー、嬉しそうに下手へ走り去る。
音楽流れ、ドン、デン歌う。
“恐る恐る近付いた
巷で有名 幽霊屋敷
中に入れば本当の
幽霊だらけのお屋敷さ
だけど気持ちは暖かで
楽しい気分に浸れるぜ
まぁ一度来てみなよ 皆でさ
怖いなんて思い違いだってこと
中に住むのは誰も知らない・・・
ただの愛に溢れた幽霊たちさ!”
ドン、後方へ向かって歩き出す。
デン「そう言やぁ、お屋敷の中で謎解きしてる時、兄貴ってば“
名探偵ドン”って感じだったなぁ。(笑う。)」
ドン「なぁに馬鹿なこと言ってんだよ。行くぜ!」
デン「あ・・・待って来れよーっ!!兄貴ーっ!!」
デン、ドンを追い掛けるように。
――――― 幕 ―――――
さて、次回掲載作品ですが、下の余談で書いていました
作品は、まだ書き始めの為、載せながら書き進めていって
もいいのですが、もう少し形が見えてからの方が、私が理解
し易いので、勝手言いますが“J”が終了後、ご覧頂こうと思
います(^^;
そこで、こちらページの次回作品は、いつ頃書いた作品で
しょうか・・・あまり覚えがないのですが、下書き状態で放って
置いた中の1本で、登場人物もそれ程多くはないので、
比較的、過去作品の中では新し目のものかな・・・と・・・^^;
それでは次回、“アンドレ”お楽しみに♪
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
(どら余談^^;)
今回の作品に登場する“ドン”“デン”の2人組ですが、中々
魅力的な人物に成長したかな・・・と思い、この2人でちょっと
違った物語も書いてみたいな・・・と考え、次回紹介作品にと
、ドンデンを主人公に今の時期らしいお話しを、只今執筆中
であります(^_^)
・・・が、どうも私、こんな2人組が好きみたいで、今までにも
同じような2人が登場する作品が、多々存在しています^^;
どの作品に出てくるかは・・・皆さんはご存知ですよね^_^;
http://milky.geocities.jp/little_pine2012/index.html
http://ritorupain.blogspot.com/
http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta
ドン「(何かに気付いたように。)・・・ん・・・?」
デン「ど・・・どうしたんだい、兄貴・・・」
ドン「(恐々とゆっくりラララたちの方へ。3人をマジマジ見て。)」
デン「あ・・・兄貴!!」
ドン「な・・・なぁんだ・・・増えた幽霊は1人だけだ!こっちの2人
は生きた子どもだぜ。」
デン「子ども・・・?」
ドン「驚かすなよ!全く・・・」
デン「で・・・でも、一人は増えたんだろ・・・?2人でも3人でも・・・
幽霊がいて怖いのは同じじゃないか・・・」
ドン「大丈夫さ!ほら見てみろ!(ルルルとラララを交互に見て。
)同じだ!」
デン「同じ・・・?」
ドン「増えたように見えるだけで、こっちの幽霊さんが鏡に映っ
てるだけだ。」
デン「鏡に映って・・・?」
ドン「ああ!」
デン「な・・・なぁんだ・・・。けど・・・あ・・・兄貴・・・最近の鏡って・・・
3D映像みたいになってるんだね・・・」
ドン「え?」
デン「だ・・・だって両方共・・・えらく立体的・・・」
ドン「なんだよ、人が折角・・・(ルルルとラララを交互に見て。)・・・
ホントだ・・・。あ・・・そうか!分かったぞ!!」
デン「え・・・?」
ドン「きっと、分身の術だ!!」
デン「ぶ・・・分身の・・・?」
ドン「ああ!!全く、驚かしやがって・・・(笑う。)幽霊なんだもん
な!何か俺たち人間が知らない術を使えたって、不思議は
ないさ!」
デン「な・・・なぁんだ・・・」
ドン「(グン、ポーに。)おい、そこの餓鬼2人!」
グン「(恐る恐る顔を上げ。)・・・え・・・?」
ドン「おまえら、なんでこの屋敷にいるんだ?」
グン「おじさん・・・誰・・・?」
ドン「俺・・・?俺かぁ・・・俺様は天下のおおど・・・っと・・・か・・・
会社員様だ!!」
グン「会社員・・・?働いている人・・・?」
ドン「お・・・おう、そうさ!」
グン「じゃあ・・・生きてるの・・・?」
ドン「当たり前だ!」
ポー「幽霊じゃない・・・?」
ドン「この手足を見てみろ!!(自分の手足を叩く。)これのどこ
が幽霊だ、馬鹿!」
グン「おじさんたち・・・本当に生きてる人間なんだ・・・」
ポー「よかったー・・・」
ドン「それより、おまえたちみたいな餓鬼が、なんでこの屋敷の
中にいるんだ?」
デン「こ・・・ここはお化け屋敷なんだぜ・・・」
グン「や・・・やっぱり・・・」
ポー「だ・・・だから2人もお化けがいるんだ・・・」
ドン「(ルルルとラララを見て。)ああ、こいつは本当は一人なん
だが、分身の術で・・・」
グン「分身・・・?そんな訳ないじゃない!(ラララを指差して。)
こっちの幽霊さんは、僕たちとずっと一緒だったんだよ!」
デン「え・・・?」
ドン「けど、同じ顔・・・(ルルルとラララを交互に見る。)」
グン「(ルルルとラララを交互に見る。)あ・・・ホントだ・・・」
ポー「ね・・・ねぇ、グン・・・ど・・・どうして同じ顔のゆ・・・幽霊さん
が2人も・・・いるの・・・?」
デン「あ・・・兄貴・・・」
ドン「こ・・・こいつは・・・」
ルルル「私たちの・・・」
ラララ「お屋敷にようこそ・・・」
ドン、デン、グン、ポー「わあ―――っ!!お化けが増えたーっ
!!(4人、手を取り合って震える。)」
ルルル「人間ってホントに面白いわねぇ・・・」
ラララ「あら、あなただってずーっと昔は、人間だったじゃない・・・
(笑う。)」
ルルル「・・・そうだったわね・・・(笑う。)」
ラララ「ところで、どうしてあなたはこんな人間と一緒にいるの?
」
ルルル「あら、あなただってそんな子どもたちと一緒に・・・一体
どこへ行くつもり?」
ラララ「私はあなたの為に、この子どもたちに付き合ってるの。」
ルルル「私の為・・・?」
ラララ「私は何百年もこんな屋敷に縛られてないで、さっさとあな
たの探し物を見つけて、早く向こうの世界へ行きたいのよ
。」
ルルル「それで?」
ラララ「この子どもたちが、あなたの丸い水晶玉を探しにここへ
来たって言うから、私はそれについて行って、取り返して
あげようとしてただけ。」
ルルル「(恐ろし気な声で。)その子どもたちが、私の水晶玉を
盗みに来たですって!?」
グン「わあーっ!!ぼ・・・僕たち幽霊さんの水晶玉なんて盗み
に来てないよ!!」
ポー「僕たちはただ、グンのボールを・・・!!」
ルルル「じゃあやっぱり、こっちの2人組が私の水晶玉を盗みに
来てたのかしら!?」
ドン「えーっ!!」
ルルル「あなたたちの言ってたお宝って、私の大切な水晶玉の
ことだったの!?」
ドン「お・・・俺たち、そんなものを盗む為にここに入ったんじゃあ
・・・!!」
デン「う・・・うん・・・!!オイラたちは単純に金になるお宝を・・・
!!」
ドン「しっ!!馬鹿!!」
デン「あ・・・」
ルルル「ふうん・・・。じゃあ、水晶玉のことは知らないと言うのね
・・・。」
ドン「あ・・・ああ!!勿論さ!!な・・・なあ・・・デン・・・」
デン「(何かに気付いたように。)・・・あ・・・そう言えば・・・」
ドン「え・・・?(小声で。)何だよデン・・・!!」
デン「(小声で。)兄貴がさっき、オイラにくれたあれ・・・確か・・・」
ドン「(何か思い出したように。)あ・・・」
ルルル「何!?」
ドン「あ・・・えっと・・・いや・・・」
ラララ「隠すと為にならなくてよ。」
ドン「あ・・・いや・・・違うんだ・・・(小声で。)おい、デン!あの水
晶玉どこにやったんだよ・・・!」
デン「(小声で。)オ・・・オイラのポケット・・・」
ドン「(小声で。)えーっ・・・!!マジかよ・・・!」
ルルル「なんなの!?さっきからコソコソ。」
ラララ「ルルル・・・なんだか怪しいわね、この2人・・・」
ドン「い・・・いや・・・怪しいことなんて何も・・・なぁ、デン・・・!」
デン「う・・・うん!!」
ドン「(小声で。)おい・・・!そんなの持ってるのがバレたら俺た
ちも、この幽霊さんと一緒にあっちの世界へ行くことになるぞ
!!」
デン「(小声で。)えーっ・・・!!そんなぁ・・・!!」
ドン「(小声で。)・・・早くどっかへやれよ!!」
デン「そんなこと・・・急に言われても・・・」
ドン、ルルルとラララに一寸近寄り、
2人の気を引くように話し掛ける。
(その間にデン、ポケットを押さえ、
後ろを向いてオロオロする。)
ドン「(ルルルとラララに。)な・・・なあ、おまえたち・・・なんで、そ
んなにその水晶玉を一生懸命何百年もの間、探し回ってん
だ?余っ程、大切なものなんだな・・・。」
ルルル「だからさっきから言ってるでしょ!!私の大切な思い出
が沢山詰まった水晶玉だって!!」
ドン「あ・・・悪い・・・そうでした・・・か・・・」
ルルル「あの水晶玉は、私たちが小さい頃に亡くなった、お父様
お母様と過ごした、楽しかった時をもう一度見ることが出
来る魔法の水晶玉・・・」
ドン「・・・え・・・?小さい頃に亡くなった・・・?」
ルルル「ええ・・・」
ドン「じゃあ、おまえたちを育てたのは・・・?」
ラララ「マーサよ!」
ドン「マーサ・・・?」
ラララ「ええ!私たちが生まれた時から、私たちの面倒を見てく
れてる私たちの乳母よ!」
ドン「・・・へぇ・・・」
ルルル「マーサは私たちが死ぬまで・・・」
ラララ「あら、違うわ!死んでからもよ!」
グン「・・・え・・・?」
ポー「あは・・・ははは・・・グ・・・グン・・・僕・・・なんかいやな気が
してきた・・・」
グン「う・・・うん・・・僕も・・・」
ルルル「ずっと私たちの側で私たちの面倒を見てくれてる人・・・
」
ドン「そのマーサ・・・ってのは、おまえさんの大切な水晶玉のこ
とは知らないのかよ・・・?」
ルルル「マーサは・・・」
ラララ「マーサは水晶玉なんて、最初からなかったんだって言っ
てるわ。現に私だって、そんな水晶玉は見たことないし・・・
」
デン「あれ?可笑しいじゃない・・・。君はその水晶玉を取り返す
為に、この子たちに付いて来たって・・・」
ラララ「あー・・・もう面倒臭いわねぇ・・・ルルルは水晶玉でなくて
も、丸いものなら何でもいいの!!だから、その子たちが
丸いものを探してるって言うから・・・それを拝借しようと考
えたのよ。」
ドン「丸いものならなんでもいいのか・・・?」
ルルル「違うわ!!」
ラララ「マーサは、ルルルは丸いものを集めたがる、精神の病な
んだって言ってるわ。私も最初は可笑しいと思ってたけど
、これだけこのお屋敷の中を何百年も探し回って、見つか
るのはボールやゴムまりみたいなものばかり・・・。今じゃ
マーサの言うことが正しいんだと思ってる・・・。」
ルルル「ラララ・・・!!」
デン「ふうん・・・」
ドン「マーサは・・・水晶玉なんて、最初からないんだって言い切
ってたってのか・・・」
ラララ「そうよ。」
ルルル「でも・・・私、マーサにだけ見せたことが・・・」
ラララ「大体、魔法使いのお婆さんが、誰にも見せるなって言っ
てたものを、マーサにだけ見せたなんて可笑しな話し・・・
その魔法使いだって、ルルルの単なる思い過ごしなのよ
、きっと・・・。あんな汚らしいカエルが、魔法使いのお婆さ
んだったなんて・・・信じられる筈ないもの。」
ドン「あんな汚らしいカエル・・・?」
ラララ「え・・・?ええ・・・」
ドン「君もそのカエルは見たんだな・・・?」
ラララ「ルルルったら、平気で手の平に乗せて・・・。私、恐ろしく
って、飛んでマーサに言いつけに行ったわ!」
ドン「ほう・・・。カエルに変えられた魔法使いの婆さんが・・・誰
にも見せるな・・・か・・・。これは何だかきな臭い・・・」
デン「何臭いって・・・?兄貴・・・」
音楽流れ、ドン歌う。
“何だかこいつはきな臭い
怪しい香りが立ちこめる”
ドン「えー・・・では、そこの証人前へ・・・(デンを見る。)」
デン「(回りを見回し、自分を指差す。)お・・・オイラ・・・?」
ドン「あなたは、つい今しがた、この屋敷で何かを見つけません
でしたか?」
デン「え・・・あ・・・あの・・・丸いものを沢山・・・」
ドン「そう!!丸いものだ!!確かにこの屋敷は丸いものだら
けだ・・・。では一体、その丸いものはどこからやって来たの
だろうか・・・?」
ドン、歌う。
“丸いものを集めたくなる
不知の病のお嬢様”
ドン「さて・・・果たしてこの世に、そんな変わった病が本当に存
在するものなのかどうなのか・・・」
ルルル「私はそんな病気ではないわ!!私は大切な水晶玉を
・・・!!」
ドン「水晶玉・・・?」
ルルル「え・・・?ええ!!」
ドン「その水晶玉に、なぜあなたはそんなに執着するのか・・・?
」
ルルル「その水晶玉には、懐かしい思い出が映し出されるの!
!」
ドン「ほう・・・それは珍しい水晶玉だ・・・。」
ルルル「だって魔法使いのお婆さんが、ピンチから救ったお礼
に私の願いを何でも一つだけ、叶えてくれると言ったわ
。だから私、お父様とお母様と私たち姉妹が仲良く暮ら
してた頃の思い出を、もう一度見せてと頼んだのよ!」
ドン「では、その水晶玉は過去を見せる魔法の水晶玉だと?」
ルルル「そうよ!!」
コーラス“だけどみんなが口揃え
そんなものは初めから
この世に存在しないもの
そんな風に言い続け
いつしか誰もがそう信じ
疑う者などいなくなった・・・”
ドン「次の証人、前へ・・・(ラララを見る。)」
ラララ「(回りを見回して、自分を指差す。)わ・・・私・・・?」
ドン「あなたはカエルを見ましたか・・・?」
ラララ「ええ、見たわ!汚らしいひき蛙をね!」
ドン「そのカエルが魔法使いだったとは・・・?」
ラララ「そんなの知らないわよ!誰が考えたって、カエルが魔法
使いのお婆さんだなんて、可笑しいじゃない!」
ドン、歌う。
“カエルは確かにそこにいた
存在したのは事実のようだ
だけどカエルが魔法使いだなんて
それを見たのはただ一人
お礼をもらった娘だけ・・・”
ルルル「だって・・・だって本当のことよ!!私は嘘は吐かない
わ!!」
ドン「しっ!!誰も君が嘘吐きだなんて言ってやしない。」
ルルル「でも・・・!!」
ドン「さて、そこの子ども2人・・・おまえたちはなぜ、この屋敷に
?」
ポー「ぼ・・・僕たち、グンの大切なボールが、このお屋敷の中に
飛び込んだんじゃないかって・・・だから・・・」
ドン「忍び込んだ・・・?」
ポー「ごめんなさい!!人のお屋敷に黙って入るなんて、悪い
ことだと思ったけど・・・」
グン「あのボールはパパに買ってもらった、僕の宝物なんだ!!
それで・・・」
ドン「それで・・・?屋敷の中でボールは見つかったかな?」
グン「(首を振る。)」
ドン「確かにこの屋敷の中に、丸いものは沢山あった・・・」
グン「その中に僕のボールもあったの!?」
ドン「まあ、待て。おまえの探してるボールが、どんなボールか
知らないが、その中の一つかも知れない・・・」
ラララ「マーサは丸いものを沢山集めて、ルルルが満足したら、
向こうの世界へ行けると言っていたわ。だから私たちは丸
いものを見つけると、それが何だか分からなくても持って
行って、丸いものばかり集めているタンスの中へ仕舞うの
。」
デン「・・・あ・・・あのタンスだ・・・」
ドン「そこでだ・・・最初の話しに戻るが・・・あんたが丸いものを
集めたがる精神の病だと言ったのは・・・」
ルルル「マーサ・・・」
ドン「だから丸いものを沢山集めようと言ったのは・・・」
ラララ「マーサ・・・」
ドン「(ルルルに。)おまえが見せてはいけないと婆さんに言わ
れたのに、その水晶玉を見せた・・・と言うのは・・・」
ルルル「マーサ・・・」
ドン「ずっと、ずっとずーっと2人の側にいたのは・・・」
ルルル、ラララ「マーサ・・・」
ドン「うん・・・キーワードはマーサだな!!」
ドン以外の全員「マーサ!?」
――――― “古びた洋館の隠れた住人・・・”
5へつづく ―――――
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
(どら余談^^;)
書き終わったので、全6場となりました(^O^)v
http://milky.geocities.jp/little_pine2012/index.html
http://ritorupain.blogspot.com/
http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta
〈 主な登場人物 〉
ドン ・・・ 2人組泥棒の兄貴分。
デン ・・・ 2人組泥棒の弟分。
グン ・・・ 少年。
ポー ・・・ グンの友達。
ルルル ・・・ 洋館の住人。
ラララ ・・・ ルルルの双子の妹。
マーサ ・・・ ルルルとラララ付きの召使。
その他
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
――――― 第 1 場 ―――――
静かな音楽流れ、幕が開く。
舞台中央後方に、怪しげな風貌の大きな
屋敷が聳え立つ。
(カラスの鳴き声、時折、冷たい風が吹き抜ける。)
そこへ上手より、黒スーツに身を包んだ
2人組の男(ドン、デン。)登場。
デン「あ・・・兄貴・・・こんな恐ろし気な屋敷止めて・・・とっとと帰
りましょうよ・・・」
ドン「馬鹿!何、ビクビクしてんだよ!町で噂話を聞いただろ!
?山の麓に建つ洋館のこと・・・」
ドン、歌う。
“山の麓に淋し気に
建つは立派で素晴らしい
広大な敷地に目を見張る
大きな大きなお屋敷さ
絢爛豪華な装飾品
見れば誰もが歓待の
声を上げるに違いない・・・
昔々の貴族様
持てる限りの贅を尽くし
建てた自慢のお屋敷さ”
デン「知ってるよ・・・。オイラだって兄貴と一緒に聞いてたんだ
から・・・」
ドン「おお、そうか!」
デン「でもその歌には続きがあるだろ!!」
デン、歌う。
“だけどある時忽然と
姿を消した貴族様・・・”
ドン、歌う。
“後に残るは莫大な
金銀財宝お宝さ!”
2人、歌う。
“盗みに入ったお屋敷は
この世のものとは思えない・・・”
ドン“世にも稀な黄金の屋敷!!”
デン“世にも恐ろしい幽霊屋敷!!”
2人、驚いた面持ちで顔を見合わせる。
ドン「馬鹿!!何が幽霊屋敷だ!!」
デン「兄貴こそ、そこんとこ間違ってるよ!!黄金の屋敷の訳な
いじゃないか!!見てくれよ、この草ボウボウで荒れ果て
た土地に建つ・・・見るからに幽霊屋敷・・・。屹度、中に入
ればウジャウジャいるんだ・・・」
ドン「何がウジャウジャいるんだよ!!」
デン「しっ!!(小声で。)お化けだよ・・・お化けに決まってるだ
ろ・・・!!」
ドン「お化けって・・・おまえ、ホント怖がりだなぁ・・・。ウジャウジ
ャ転がってるのはお宝さ!!」
ドン、歌う。
“なんて怖がりなんだ
呆れた奴だ
この世に幽霊なんているもんか
この世にあるのは目に見える
現実に存在するもののみだ!”
デン「そんなことないよ・・・!!」
ドン、歌う。
“暗い闇に光るのは幽霊の足跡?”
デン「えー・・・」
ドン「(首を振る。)」
ドン、歌う。
“違うねそれは俺様に
富をもたらす輝きさ!”
デン「(安堵の溜め息を吐く。)」
ドン、歌う。
“頬を過ぎる冷たい風は魂の通り道?”
デン「う・・・嘘だ・・・」
ドン「(ニヤリと笑う。)」
ドン、歌う。
“それは宝の在り処へ導く道標
だから
見えないものにビクビクするな!
何かを感じるなんてそんなの嘘だ
怖いと思えば何でも怖い
この世で一番怖いもの
それはおまえの目の前にある!!”
デン「え・・・?」
ドン「この俺だ!!」
デン「えーっ・・・兄貴ー・・・!!」
ドン「お宝の山を、こんな目の前にして尻込みするな!!さぁ、
愚図愚図言ってないで行くぞ!!(下手へ走り去る。)」
デン「あ・・・兄貴ー!!(ドンを追い駆けようとして転ぶ。)あっ!
!いってぇ・・・なんだよ・・・(躓いた方を見ると、そこにボー
ルが落ちている。ボールを拾う。)なんだ・・・?ボール・・・?
誰だよ、こんなところにボールを置いとくなんて・・・。足取ら
れちゃったじゃないか・・・あ・・・!!そうだ!!兄貴ー!!
待ってくれよー!!(ボールを持ったまま、慌ててドンを追
い駆け、下手へ走り去る。)」
そこへ上手より、2人組の少年(グン、ポー。)
何かを探すように回りを見回しながら登場。
グン、歌う。
“どこにあるんだ僕の宝物
確かこの辺りに飛んできた
見つからないよ宝物”
グン「もっとよく探せよ!」
ポー「うん・・・」
グン「おっかしいなぁ・・・確かこっちに・・・」
ポー、後ろに佇む洋館に気付き、
グンの肩を叩く。
グン「なんだよ、ポー!!僕は今探し物を・・・(下を向いて何か
を探し続ける)」
ポー、歌う。
“あるのは古びた洋館の
カビた臭いの立ち込める
村で評判恐ろしい
誰もが恐れるお化け屋敷”
グン「お化け屋敷!?(顔を上げ、屋敷を認める。)ここは・・・」
ポー「村の人たちが噂してるお化け屋敷って・・・このお屋敷の
ことだよ・・・。屹度・・・ボールはこの中だよ・・・!!」
グン「えー・・・!!おい、ポー!!おまえが取りに行って来いよ
・・・!!ボールはこのお屋敷の中って、ポーが言ったんだ
から・・・!!」
ポー「そんな・・・嫌だよ・・・。グンが投げたんだ・・・グンが行けよ
・・・!」
グン「そんなこと言うなら、その投げたボールを受け取らなかっ
たポーが悪いんだ!!ポーが一人で探しに行って来いよ
!!」
ポー「グン!!」
グン「僕、ここで待っててやるから早く行って来いよ!!(ポーの
背中を押す。)」
ポー「えー・・・!!グン、一緒に行ってくれよ!!僕、一人でお
化け屋敷に入るなんて無理だ・・・!!」
グン「あのボールは、誕生日にパパが買ってくれた大切なボー
ルなんだぞ!!」
ポー「分かってるよ!!分かってるから2人で行こうよ!!その
方が屹度早く見つかるから・・・!!お願いだよ!!」
グン「・・・もう!!仕方ないなぁ・・・!!」
音楽流れ、2人歌う。(紗幕閉まる。)
“行こう足を忍ばせて・・・
屹度見つかる探し物
怖くはないさ2人なら
手をつないで一歩ずつ・・・
早く行こう 日のあるうちに
尻込みしないで勇気を出して
だけどやっぱり・・・恐ろしい・・・”
グン「嫌だなぁ・・・」
ポー「怖いよ・・・」
その時、カラスの鳴き声が聞こえる。
グン「わあっ!!(耳を塞ぐ。)」
ポー「グン!!(グンに抱き付く。)」
2人、手を取り合い、回りを見回しながら
恐る恐る下手へ去る。
暗転。
――――― 第 2 場 ――――― A
舞台、薄明るくなると、古びた洋館の中。
(紗幕開く。)
中央、後ろ向きに一つの大きな椅子。
そこへ上手よりドレス姿の一人の女性(ルルル。)
摺り足で慌てた様子で登場。
ルルル「ああ・・・本当にどこにいったのかしら・・・ああ・・・私の
大切な宝物・・・」
ルルル、歌う。
“どこにあるの私の探し物・・・
ずっとずっと探してる・・・
屹度ある筈 私の宝
心から大切にしてたわ
いつも肌身離さず
なのにある日 忽然と・・・
影も形もなくなった・・・”
ルルル「ああ・・・一体どこにあるの・・・?ああ・・・困ったわ・・・」
ラララの声「もう・・・いつもいつも煩いわね・・・」
中央椅子、回転して前方を向くと、ルルルと
瓜二つの双子の妹(ラララ。)座っている。
ラララ「お姉様、少しくらい落ち着いて座られたらどう?」
ルルル「ラララ!!そんなこと言ったって、あの水晶玉がないと、
私、いつまでもこの屋敷から離れられないわ!!」
ラララ「そうだったわね。けれど・・・水晶玉、水晶玉・・・お姉様の
頭の中は、いつだって水晶玉のことで一杯・・・。お陰で、
何故か私まで、いつまでもこの屋敷に縛られたまま・・・双
子だって言ったって、個人個人、別人の筈なのに・・・。私
はそろそろ向こうの国へ行きたいわ・・・」
ルルル「ごめんなさい・・・けど、あの水晶玉は私の宝物なの!!
魔法使いのお婆さんに貰った・・・ずっと大切にするって
約束したのよ!!」
舞台フェード・アウト。(紗幕閉まる。)
――――― 第 2 場 ――――― B
音楽流れ、紗幕前スポットに、子どもの
姿のルルルとラララ、浮かび上がる。
2人、座り込んで鼻歌を歌いながら、花の
冠作りに夢中になっている。
“綺麗ね お花の冠よ
色取り取り沢山の
花を摘みましょ 作りましょう”
ラララ「見て、ルルル!!出来たわ!!綺麗でしょう!?」
ルルル「私も出来た!!」
ラララ「私の方が綺麗だわ!!」
ルルル「お花はどれも同じに綺麗よ!だからどの冠も、同じくら
い綺麗なの!」
ラララ「そんなことないわ、私のが1番・・・(ふと、視線を落とし。)
キャーッ!!カエルよ、カエル!!醜いわね!!あっち
へ行きなさいよ!!」
ルルル「ラララ!そんな風に酷いこと言わないで!なんだか、こ
のカエルさん・・・少し元気がないみたい・・・(カエルを
手に取る。)」
ラララ「キャーッ!!ルルル!!そんなカエルによく平気で触る
ことが出来るわね!!マーサ!!マーサー!!ルルル
お姉様ったら、とっても不潔なことをしているわー!!マ
ーサー!!(下手方へ。)」
マーサの声「お嬢様ー!!どちらにお出でですかー?」
ラララ「マーサー!!」
ラララ、マーサの名を叫びながら
下手へ去る。
ルルル「(呆れたように下手方を見ているが、ハッとしてカエル
を見る。)どうしたのかしら・・・お腹が空いているの・・・
?」
カエル「・・・違う・・・水・・・」
ルルル「・・・お水・・・?分かったわ、喉が渇いているのね!・・・
え・・・?今・・・あなたが喋ったの・・・?」
カエル「・・・ああ・・・そうさ・・・」
ルルル「まぁ!!あなた喋れるのね、カエルさん!!」
カエル「早く・・・水を・・・水のある場所へ・・・」
ルルル「ああ、そうだったわね・・・!!えっと・・・(上手方に置い
てあったバケツを見て。)あ!!あれだわ!!(急いで
カエルを上手バケツの中へ入れる。)」
その時、バケツの中から白煙が立ち昇る。
ルルル「え・・・?」
“ボンッ”と爆発音と共に、大きな煙が
上がり、そこに老婆が現れる。
ルルル「キャーッ!!(耳を塞いでしゃがみ込む。)」
老婆「やれやれ・・・やっとこさ元の姿に戻れたわ・・・。お嬢ちゃ
ん、ありがとうよ・・・。」
ルルル「・・・え・・・?(恐る恐る、老婆を見る。)・・・お婆さん・・・
誰・・・?」
老婆「わしは、さっきのカエルじゃよ。」
ルルル「・・・カエルさん・・・?」
老婆「訳あって、ひき蛙の姿に変身させられてたのじゃ。危うく
人間の姿に戻る前に、干からびてしまうところじゃったわ。
(笑う。)」 ※
ルルル「・・・変身・・・って・・・」
老婆「さぁて、魔法の国の掟じゃからの、助けてもらった礼をせ
ねばならん。なんでもよいぞ、一つだけそなたの願いを叶
えてやろう・・・。」
ルルル「・・・え・・・?」
老婆「早よう言え・・・」
ルルル「・・・本当に・・・?」
老婆「ああ。」
ルルル「・・・それじゃあ・・・(少し考える。)無理かも知れないけ
れど・・・」
老婆「魔法使いに無理なことなど、ありゃせん。」
ルルル「・・・私が小さい頃になくなった・・・お父様とお母様と過
ごした楽しかった様子を・・・たった一度でいい・・・もう一
度覗いてみたい・・・」
老婆「そんなことでいいのか?」
ルルル「ええ!!勿論だわ!!本当に見ることが出来るなら
・・・!!」
老婆「お安い御用さ・・・(マントの懐の中から袋を取り出し、ル
ルルの方へ差し出す。)ほれ・・・」
ルルル「(恐々受け取る。)・・・何・・・?」
老婆「見てご覧・・・」
ルルル「(袋の中を見て、一つの水晶玉を取り出す。)・・・水晶
玉だわ・・・綺麗・・・」
老婆「その水晶玉の中を覗いて見るがいい・・・。」
ルルル「え・・・」
老婆「ほれ・・・」
ルルル「(水晶を覗き込む。)・・・あ・・・!!お父様とお母様だわ
!!それに小さい頃の私たちもいる!!とっても楽しそ
う・・・」
老婆「それは、おまえさんの望む過去の全てを見せてくれる、魔
法の水晶玉じゃ。おまえさんが見たいと思った時を思えば、
その水晶玉は、おまえさんにその懐かしい思い出をいつで
も・・・見せてくれるじゃろう。」
ルルル「本当にいつでも見れるの・・・?」
老婆「ああ、いつでも・・・何度でも・・・」
ルルル「・・・いつでも会える・・・ありがとう、お婆さん!!私、ず
っとこの水晶玉を大切にするわ!!」
老婆「但し・・・その水晶玉は、おまえさん一人で見て楽しむんじ
ゃぞ・・・。決して人に見せびらかせたり、自慢してはならん。
もしそんなことをすれば、その水晶玉は・・・見なくてもよか
ったものまで、見せようとするじゃろう・・・(笑う。)」
ルルル「・・・分かったわ・・・(頷く。)」
老婆「その水晶に映るものは、いいも悪いも過去に起こった真実
のみ・・・」
魔法使いの笑い声で、フェード・アウト。
――― “古びた洋館の隠れた住人・・・”2へつづく ―――
※ “ひき蛙”に変身・・・どこかで聞いたことがありませんか
・・・^^;?もう少しこのお婆さんが誰か、分かりやすく書
けばよかったのですが・・・実は、クリフくんとジークくんに
“人間をひき蛙に変える薬”を飲まされた、森の薬やさん
だったのでした~・・・へへへ・・・(^_^)v
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