~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No56 “ラップ口座”人気に見る、日本の資産運用レベル

2006年09月17日 | 投資・運用
9/15日経(一部改稿)・・・「ラップ口座」、N証券は1000万円から利用可能
 N証券は個人投資家の資金を一任運用する「ラップ口座」で、最低投資金額1000万円から利用できる新しいサービスを10月から始める。顧客ごとの余裕資金などを見極めたうえで、運用成績が好調な投資信託を世界から選んで運用する。現在、最低投資金額が3億円からのサービスを手掛けているが、新サービスでより幅広い層の取り込みをめざす考えだ。

ラップ口座は顧客の大まかな指図に基づいて、証券会社側が投資対象や売買タイミングについて一任で運用する投資顧問サービスで、証券各社が主に富裕層向けに力を入れている。


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「ラップ」は英語のwrap(包む)で、要は個人投資家が株式売買や資産管理などを証券会社に一任勘定するものです。

そもそも欧米では前からあった仕組みですが、日本では2004年の法改正で“投資顧問業者”が(一定の条件のもと)個別の売買記録を開示せずに済むようになり、大手証券会社が投資顧問業を兼ねる形で続々と参入、投資行動に慣れていない団塊世代の大量リタイアと共に急速な広がりを見せつつあります。

なんと、契約資産がこの一年間で10倍増!ということ。
元々富裕層向けの仕組みとはいえ、1000万からとなれば一市民としても今後無視できない存在になってくるといえるでしょう。
日本5千万世帯のうち5軒に1軒(1千万世帯強)が3000万円以上の純金融資産を持っているという記事を記憶している方も多いと思います(日経9/6)。

投資顧問業者は、これまで企業や年金など資産運用を必要とする機関投資家が使ってきましたが、いよいよこれが個人にも浸透してきたということでしょうか。それ自体は必然であると思います。

預金から投資への合言葉から、個人資産運用がブーム化して各金融機関が提供する商品はますます多様化しています。

しかしこれを裏返せば、個人の資産を預かる商売をしている側にとっては千載一遇の儲けチャンスであるわけです。
過去ファイルでもたびたび書いてきましたが、総じて預金はあるが投資慣れしていない日本人を目当てに、中には大手金融機関においても「おとり広告」まがいのキャッチコピーが堂々と紙面や街中を飾っている世の中ですから。

これら金融機関による“個人資産争奪戦”の思惑にまんまと巻き込まれないようにすることが、皮肉にも家計の資産防衛につながる・・とは言い過ぎでしょうか。

金融機関が仕掛けるトラップ(思惑)をひとつひとつ解説すればいくら時間があっても足りないくらいですが、今日取り上げた証券会社のラップ口座だけとってみても、個人的にはとてもリスクが高く感じてとても預ける気になれません。

ここでいうリスクとは単純に運用のリターン・リスクという事ではなくて、おもに証券会社の“投資顧問業者”に対する信用リスクです。

誰でも知ってる名前の証券会社のプロが運用するのだから信頼できるのでは・・という理由で預け残高が急増しているものと想像しますが、実際は市場平均インデックスを上回る成績を常に残せるトレーダーのほうが少ないという事実があります。
過去数年間の日経平均が出したリターンと比較して、それ以上のリターンを出した日本株投信は一握りです(00年からの6年間で9投信・・QUICK調べ)。

過去のリターン率をもとに取捨選択すれば良いのでは・・と考えがちですが、過去成績は将来成績と何の連関性もありません。相場全体が上がっている時は買い持ちしているだけで誰でも相応に利益を享受することができます。過去成績は結果論であり当然ラッキーも多く含まれます。

ある有名なアメリカの投資分析家の著からの引用ですが、「トップ成績グループの投信の52%がその後の5年間で平均以下の成績に。五つ星ファンド達の3年後は3分の2が平均以下」という事実追跡があるぐらい、いくら優秀といわれるトレーダーでも感情に左右される人間のやっていることですからそんなものです。

それでも欧米では、誰かしら人間がやらなければならない事と割り切った上で、どのファンドに投資するかに「ファンドマネージャーの経験・実績・特性」をその判断材料として大変重要視しています。信頼した運用マネージャーがそのファンドから他へ移籍すれば資金を引き揚げるのも当たり前で、異動のシーズンには移籍リストが出回るくらいです。

それに比べ日本で急増している証券会社のラップ口座とは・・

●運用マネージャーは大組織の会社員であって、その実績や経験を調べるすべはなく、たとえお願いしたい人がいても指名・選択できない可能性が高い
●そもそも自分の大切な資産をその証券会社のどんな立場の人が運用判断しているか分らない?~特に最低投資金額のハードルが下がり小口に広がるほど・・
●運用=資産配分や売買の中身やタイミングについて証券会社から開示されない(開示義務がない)
●特定のファンド商品を証券業者自らが開発・販売しており、預かった資産を自分の商品へ我田引水する懸念が大きい

・・・私はラップ口座を開いた実体験がないので断言は出来ませんが、現状もし上記のようだとしたら問題外のシロモノであると言わざるを得ません。

それ以前に、これら大手金融機関“投資顧問”に任せた日本の国民年金や企業年金のこれまでの運用結果を見て、市場平均を遥かに下回る成績しか出していない事実を確認するだけで答えは出ているのではないでしょうか。

ラップ口座に限らず、大流行の投資信託についても全く同じ事がいえます。分配金を毎月受け取るファンドが(・・累積再投資型に比べ資産運用上明らかに不利であるにもかかわらず・・)今だに一番人気があるという事なども考えると、日本人の資産運用の実態は売る方も買う方もまだまだ未熟であるという認識をもってしまいます。

少なくとも、運用情報が開示されず預けっ放しの「一任勘定」において、トラブルは今までも多数耳にしてきました。たとえ多忙の身でも、大手だからといって大切な一家の資産を全て他人へ一任するのはできるだけ避けるべきでしょう。

これからの個人資産運用時代において、自分なりにファイナンシャルの学習と体験を積んでいく地道な努力は好き嫌いに関わらず何人たりも欠かせないのではないかと改めて感じます。