好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

『尚も生きる。手を取りて』第50話「見知らぬ部屋で」

2019-12-26 | ゲームブック二次創作

意外に広い、だが薄汚い部屋だった。
クモの巣や塵芥が、家具を薄く覆い始めている。
舷窓にはカーテンが引かれ、その脇のベッドは使われたままに乱れている。
ガレーキープが揺れる度に、衣装ダンスの半開きの戸が動き、
男物の服が何着か掛かっている。服にも埃が付き始めていた。
……これなら借りても、文句は言われないか。
ふと確かめたくなって、一式を身に着けてみた。
今の自分の骨格なら、袖も裾も一応入ると分かった。うん、悪くない。

突然、俺と似た奴が現れたと焦ったら、それはタンスの横にある姿見だった。
机の上には、書類や地図が積まれ、《船長秘》と書かれた封筒もあった。
机の横には螺旋階段。天井の閉じたハッチに通じている。
舷窓の前には、三本足の複雑な機械があり、その上部の棒の先が、
窓の外へ向けられていた。

俺は、姿見に近寄った。
金縁の枠に彩られた銀色の面に、俺の全身が映っていた。
漆黒の毛に覆われた身体に、緑眼が光っている。
最初は四足歩行の、まるきりの獣だった自分は今、手足を持ち、
明らかに人型に近づいている。だが、断じて人ではあり得ないと分かる、
そんな矛盾した異形が、“向こう側”にいる。

鏡の表面を撫でてから、掌を押し当てた。
映る自分の姿の、その奥を。
虚像が揺らめいて、消える。

これこそが、あの時の本にあった、ザラダンの潜む「銀の門」だ。
そう確信した時、部屋は突然の閃光に満たされた。