Microsoft、独自AIから端末まで　爆速経営に規制の影

サティア・ナデラCEOはAI新興企業との提携をフル活用して成長戦略を描くが……
（米西部シアトル近郊）

【シアトル=渡辺直樹】

米マイクロソフトは21日、技術イベントを開き、法人向けの生成AI（人工知能）サービスを拡充すると発表した。

20日にはAIに特化した端末も発表し、半導体も自社開発する。新興企業の技術を取り込みながら、AIに必要なあらゆる技術を次々とそろえる「爆速経営」を進めるが、背後には規制当局の影が迫っている。

「私たちはプラットフォーム企業だ。インフラからデータ、アプリまであらゆる層の技術を取りそろえることが目標だ」。

米西部シアトルで開いたイベント「ビルド」でサティア・ナデラ最高経営責任者（CEO）はこう強調した。

イベントでは、ネット経由で様々なソフトを提供するクラウド「Azure（アジュール）」を通じて提携する米オープンAIの最新のAI「GPT-4o（フォーオー）」や、高速で動き画像も扱える自社開発AI「Phi（ファイ）-3ビジョン」を提供すると発表した。

法人向けにはクラウドを通じて使うAIを自由に選べるようにし、AIを独自に改良できるソフトも提供する。

ウェブ会議アプリ「Teams（チームズ）」にAI支援機能を搭載し、業務ソフトとAIの融合も進める。

生成AIに賭けるナデラCEOは、対話型AI「Chat（チャット）GPT」を開発したオープンAIと提携すると、同技術を次々に取り込んであらゆるソフトを自動化した。

生成AIブームの波に乗り、マイクロソフトの時価総額は3兆ドル（約469兆円）を超え、米アップルを上回って世界首位となった。AI開発で先を行っていた米グーグルも危機感を募らせ、AIの開発体制を再編して生成AIの製品化を急ぎ、必死に食らいつこうとしている。

マイクロソフトのAI戦略は新興企業の力をうまく利用しているのが特徴だ。提携関係を結ぶのはオープンAIだけではなく、2月にはフランスの気鋭のAI企業、ミストラルAIとの提携を発表した。

それだけではない。チャットGPTのライバルと目されていた「Pi（パイ）」を開発した新興の米インフレクションAIのムスタファ・スレイマンCEOらを招き、AI製品の開発トップに据えた。テック業界内では「実質的に買収したのと同じだ」（テック業界担当バンカー）との声もあがる。

マイクロソフトはAIの動作に必要なハードやインフラも取りそろえる。

AI半導体の自社開発に乗り出し、20日にはAIの動作に最適化した「ウィンドウズ」対応のタブレット端末とパソコンを発表した。データセンター投資も活発で、稼働は世界で300を超えた。

盤石とも思える戦略の一方で、懸念材料となるのが規制だ。

欧州連合（EU）はマイクロソフトのオープンAIとの提携がEUの合併規制の調査対象になるかどうか検討していると発表した。ミストラルやインフレクションとの提携についても各国当局で競争法上の懸念が浮上したと報じられている。

今回、AIの搭載を発表した「チームズ」についても、業務ソフト「マイクロソフト365」とのセット販売がEUで調査対象となり、マイクロソフトはチームズを単体で契約できるようにする手法に切り替えた。

マイクロソフトは1998年にウィンドウズのソフト抱き合わせが問題視され米司法省などと訴訟となった苦い過去がある。直近ではEUだけでなく、米連邦取引委員会（FTC）や司法省も巨大テック企業の独占に対し監視の目を光らせている。

マイクロソフトは渉外を担当するブラッド・スミス社長が世界を飛び回り、各国政府に対し、AIのデータセンター投資を表明した。

各国への経済効果をアピールする巧みな渉外戦術でビッグテックへの逆風を避けようとしてきた。

だが、今後AIはIT（情報技術）の分野であらゆるソフトとの融合が進んでいく。競争力を高めるために各サービスを統合していくことは避けられない。自社サービスの連携が進めば進むほど、寡占を指摘されるリスクが高まる。

生成AIはグーグルや米アマゾン・ドット・コム、アップルといった巨大テック企業間の競争も激しく進化のスピードは日進月歩だ。全方位でのサービス開発を進めつつも、過度に自社のサービスのみを優遇せず、消費者が自由に選べる余地を残していく必要がある。

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日経記事2024.05.22より引用

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