Renaissancejapan

哲学と宗教、財閥、国際政治、金融、科学技術、心霊現象など幅広いジャンルについて投稿しています

50万量子ビットでスパコン超えも、エラー訂正で早まる量子計算機の実用化

2024-06-19 17:07:41 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識

量子エラー訂正技術でハードウエアに要求される性能を低減できそうだ(写真:米IBM)
量子エラー訂正技術でハードウエアに要求される性能を低減できそうだ
(写真:米IBM)

 

 

 

量子コンピューター業界では現在、様々な量子誤り(エラー)訂正技術が開発されている。

量子コンピューターの最大の課題ともいえる量子エラーを低減できれば、遠い未来の話と思われていた量子コンピューターの実用化が早まるからだ。

 

量子コンピューターのハードウエア性能の要件が緩和される見込みだ。

どれほどの規模が必要になるのか、記者は取材で調べてみることにした。

 

関連記事FTQCは国の想定より早く実現か、量子エラー訂正が急速に進化

 

量子エラーを訂正しながら誤りのない量子計算を実行できる誤り耐性型汎用量子コンピューター(FTQC)は、よく100万量子ビット(物理量子ビット)が必要になるとされる。

この規模の量子コンピューターがあれば、酵素反応の解析など多くの用途でスーパーコンピューターを超える計算能力を発揮できるようになる見込みだ。

 

さらに、暗号の解読などに使われる2048ビットの素因数分解には、2000万量子ビットが必要になるとの試算もある。

 

 

素因数分解やデータベース検索には数千万量子ビットが必要になるとされている(出所:日経クロステック)
 
素因数分解やデータベース検索には数千万量子ビットが必要になるとされている
(出所:日経クロステック)
 

 

 

関連記事「100万でFTQC実現へ」、量子ビットが増えると何ができるのか

 

 

 

しかし、量子コンピューターが古典コンピューターよりも高速に問題を解くためにどれほどの計算リソースが必要になるかは、これまで定量的に評価されてこなかった。

量子ビットを担うハードウエアや量子回路の設計、効率的なエラー訂正技術など、まだ開発が始まったばかりで、システム全体を考慮した議論ができていなかったからだ。そこでこの問題を明らかにする研究が目下、進行している。

 

 

 

50万量子ビットでスパコン超えを検証

内閣府が主導するムーンショット型研究開発制度で東京大学大学院工学系研究科教授の小芦雅斗氏が率いる理論のプロジェクトでは、NTTの研究グループを中心に量子コンピューター全体の技術レイヤーを考慮した理論モデルを構築している。

超電導方式の量子コンピューターにおいて、誤り耐性のある量子計算に必要な量子ビット数や論理演算を算出できる。研究者が新しいハードウエアやエラー訂正を考えたときに、アイデアの有効性を容易に調べられるツールとして利用できる。

 

 

 

小芦氏とNTTの研究チームは様々な技術レイヤーを想定したモデルを構築する(出所:ムーンショット型研究開発制度の資料を基に日経クロステックが作成)
 
 
小芦氏とNTTの研究チームは様々な技術レイヤーを想定したモデルを構築する(出所:ムーンショット型研究開発制度の資料を基に日経クロステックが作成)
 
 
 
 

例えば、「この符号を使えばエラー率を低減できるが、ゲート速度が低下してしまう」「必要な量子ビット数はこれぐらいで、計算時間はこれだけ短縮できる」といったように、性能をシミュレートできるようになる。

実際にこのモデルを使って、物性物理学の計算に使われるハイゼンベルク模型の基底エネルギーを推定する場合、50万量子ビットがあれば量子コンピューターがスパコンを超える性能を達成できることが分かった。

 

これまで、多くの研究者はごく限られたレイヤーの研究にしか取り組めておらず、技術レイヤー全体の影響を検証できていなかった。複雑なシステムでは、性能を推定するのに限界がある。そこでこのツールを使うことで、研究開発を加速できると期待する。

 NTTと小芦氏らは、様々なハードウエアや符号(コード)を評価できる「クロスレイヤー協調設計モデル」を2025年にも構築する計画だ。近年開発が進む中性原子方式やシリコン方式のハードウエアの評価などにも応用できそうだ。最終的には、「異なる技術レイヤーにまたがる課題の解決」「個別のレイヤーでの性能改善が全体に与える影響の評価」「最先端の量子計算機の設計」に応用したい考えだ。

 

 

 

1桁少ない量子ビットでも優位性

量子コンピューターでは、解く問題の種類によっては小規模な計算リソースでも、古典コンピューターを超える性能を発揮できる場合がある。

東京大学は、超電導方式の量子コンピューターを物性物理学に応用する場合にこれまで考えられていた数字より1桁以上も少ない計算リソースで量子優位性を実現できることを明らかにした。

 

東京大学大学院工学系研究科助教の吉岡信行氏らの研究チームは、量子アルゴリズムを解析することで、量子超越性を達成するための理論的な最小条件を求めた。

研究では、量子コンピューターの量子アルゴリズムとして、量子位相推定(QPE)法を活用した際の計算時間を理論解析し、古典コンピュータのアルゴリズムとしてテンソルネットワーク法をスパコン上で実行して解析し、両者を比較した。QPEにおける最適な設計を特定したのち、10億以上の量子ゲートを書き下すなど精密な解析で計算時間を求めた。

 

これにより、物性物理学における中心的なターゲット群である「2次元の強相関量子多体模型」において、数十万量子ビットの量子コンピューターで量子優位性を実現できることが分かった。

このレベルのハードウエアは2030年代にも実現できるとの予測があり、近い将来に実現できる見込みだ。吉岡氏は「今後も色々なモデルを検討して、物性物理や材料化学など様々な分野に応用していきたい」と語る。

 

 

量子優位性を達成するための要件は用途によって異なる(出所:東京大学)

 

量子優位性を達成するための要件は用途によって異なる(出所:東京大学)

 

 

 

もちろん、量子コンピューターの性能を決める要素は量子ビット数だけでなく、ハードウエアの種類やエラー率、組む量子回路の良しあしにも影響されるので議論は複雑だ。

ただ、エラー訂正技術によって量子コンピューターに求められるハードウエア性能の要件が緩和されることは間違いない。

今のエラー訂正のトレンドが、量子コンピューターの実用化を阻む壁を突破する原動力になることを記者は強く期待している。

 

 

 

          日経記事2024.06.19より引用

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。