1868年、パリ家のジェームズが亡くなりました。 この年、ロンドン家のライオネルの次男アルフレッド26歳が、イングランド銀行初のユダヤ人理事に選ばれ、1889年まで20年余りの職を務め始めます。
19世紀を通じて、シティにおけるユダヤ人の力は大きかったのですが、アルフレッドを除けばユダヤ人のイングランド銀行理事はほとんどいませんでした。
この時点では、イギリスと、その経済的な属領のポルトガル、エジプト、カナダ、チリ、そしてオーストラリアだけが金本位制をとっていました。
フランスといくつかのラテンアメリカの国々、ロシア、ペルシャは金銀本位制でした。 他の国々は、中央ヨーロッパ諸国も含めて、銀本位制でした。
ロスチャイルド家は世界的規模で金鉱を押さえ、イギリス圏から世界中へ金本位制を拡大させていきます。
1870年、イギリスの雑誌『ザ・ピリオド』は、ライオネルを「支那も皇帝、トルコのスルタン、ナポレオン3世、教皇、ビクトリア女王などの世界の支配者が服従する、マネーと債権の玉座に座る新しいロスチャイルド王」と描きます。
ロスチャイルド家は、20世紀に向かって、さらに強大になるべく、金（Gold）とマネーの世界戦略をどんどん進めていきます。
鉄の結束
1867年に創業し、ニューヨークに本部を置いたクーン・ローブ商会は、クーン家の娘ファニーとローブ家のソロモンが結婚して、一族となって営われていました。
その娘テレサと結婚したのが、ロスチャイルド家の代理人としてドイツからニューヨークに派遣されたジェイコブ・シフです。
ジェイコブ・ヘンリー・シフ Jacob Henry Schiff（1847年ー 1920年）
彼はクーン・ローブ一族となって、アメリカ大陸横断のユニオン・パシフィック鉄道い融資するなど、多くの鉄道事業で同商会の発展に貢献しました。
さらに彼は、クーン・ローブ商会のパートナーにオットー・カーン、後には、ウォーバーグ家のフェリックス（シフの婿）やポール（ローブの婿）を迎えて、国際投資銀行として巨大な基礎を固めます。
かつてフランクフルト・ゲットーにロスチャイルド家やシフ家と一緒に住んでいたカーン家とウォーバーグ家です。
クーン家、ローブ家、シフ家、そしてウォーバーグ家は、濃い姻戚関係で鉄の結束を築きます。
シフは、アメリカの鉄道王エドワード・ハリマンや石油王ロックフェラー一族の銀行家ジェームズ・スティルマンたちとも親交を深めました。
たとアメリカで産業界の大物たちが互いにビジネス戦争をしていても、クーン・ローブ商会はそのどちからも利益を上げることが出来る立場を築きました。
クーン・ローブ商会は、長期間にわたって、ウェスティングハウス、ウェスタン・ユニオン鉄道、ポラロイドなどのアメリカの大企業の財政的な後ろ盾となりました。
国外の活動も盛んで、オーストリア、フィンランド、メキシコ、ベネズエラなどの外国政府の財政アドバイザーも務めました。
パリ・リヨン・地中海鉄道の社債も引き受けています。 ロスチャイルド家は、シフのクーン・ローブ商会を通じて、石油のロックフェラー、手t道のハリマン、鉄鋼のカーネギーに資金を提供して巨大財閥に育てたと言われます。
同商会は、スタンダード石油を率いるジョン・D・ロックフェラー（ロックフェラー1世）1839年-－937年、のメインバンク、財政アドバイザーとしても有名です。
ここに、ロスチャイルド家がロックフェラー家を指導している構図が見えます。ロックフェラーは、国内の主要産業への投資のみならず、クーン・ローブ商会を通じて中華民国や日本の公債引き受けなどにも参画しました。
世界の工場となったアメリカ
ロスチャイルド家は、引き続き、合衆国政府との取引を積極的に拡大していきました。 1869年からは、ユリシーズ・グラント大統領（在位1869年ー1877年、共和党）に近づき、合衆国国債の5大発行会社の一つとなりました。
しかし、同家の代理人ベルモントは、「ヨーロッパのシャイロック」「合衆国に金本位制を導入することを企んでいる者」と世間から警戒され非難されます。
南北戦争で北部が勝利したことによって、アメリカは工業国に転換し、1870年代には経済規模でイギリスを凌駕し、「世界の工場の地位に就きました」。
この1865年から1990年頃までを、アメリカ合衆国の「黄金の時代」と世間は呼びます。 1868年（明治元年）には最初のイギリス系投資信託会社が設立され、アメリカの産業の発展の基盤にイギリス資本が怒涛（どとう）のように浸透します。
ロスチャイルド財閥ｰ27 幕末・明治維新https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/2355a3b6e6b91eda6703f158d91a9b83
アメリカの鉄道には巨大なブームが到来しました。 アメリカの鉄道証券はロンドンで大量に販売され、局面によってはイギリスの投資信託が巧みに買い叩いて、莫大な利益を収めました。
恐慌を起こしてでも金本位制への道筋をつける
ロスチャイルド家は、世界中の金（Gold）を押さえていった一族です。 同家は金の精錬と取次ビジネスも展開しました。
鉱物から金や銀を取り出すためには水銀が必要です。 ネイサンは、」スペイン王室が握っていたアルマダ水銀鉱山を手に入れました。
ロスチャイルド家はさらにスペインで亜鉛鉱山を手に入れ、加えて、1873年、ロンドン家とパリ家は赤字だったスペイン国営リオ・ティント銅山を買収し、その後リストラクチャリングを経て大きな利益を生む会社としました。
1880年代後半には、リオ・ティントは、世界の銅生産の10%以上を占めました。 1905年までには、ロスチャイルド家のリオ・ティントへの出資比率は３０％を超え、この会社は後の資源メジャーの代表格となります。
世界中の金（Gold）を押さえたロスチャイルド家は、銀本位制または金銀本位制から金本位制への移行の主唱者でした。
1873年のアメリカを含め世界中で起きた恐慌は、ドイツやアメリカでの銀本位制廃止をロスチャイルド家が仕掛けたことに起因しているとされています。
アメリカ合衆国の国益や国民の利益を第一に考えるアメリカ国民たちは、「ロスチャイルドは銀の本位制廃止を目指す巨悪である」と叫びました。
この1873年から1877年にかけて、N･M･ロスチャイルド＆サンズが、ベルモントやモルガン、新興のセリグマン社とともに、ロンドンやニューヨークで大規模な米国債発行に加わり、引き受けを主導しました。
ロスチャイルド家によってなされた国債発行や借款は、アメリカ合衆国の財政・金融を安定させただけではなく、近い将来、合衆国に金本位制を採用させることを狙ったものでした。
1877年、法貨としての銀貨の鋳造を認める法案が合衆国議会で作成されましたが、ベルモントは怒ってこれをさんざん非難しました。
ロスチャイルド家にとっては、「銀の流通量が厳しく制限され、債権の利払いに銀は使われない」があるべき法案の姿でした。
同年、財務省はベルモントを通じて、金貨で500万ドルの新たな借款をし、これが金本位制を採用することへのかなりの布石となりました。
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