2日の東京株式市場で日経平均株価が急落し、終値は2216円(5.8%)安の3万5909円になった。
引き金となったのが、前日発表された米景気指標の下振れだ。米景気後退の可能性が意識されはじめたほか、世界株高をけん引してきた半導体をはじめとするハイテク株への高い期待もしぼんでいる。
さらに、日本株には足元の円高が企業業績の下振れにつながるという固有の悪材料が重なる。
突然の「トリプルショック」で投資家心理が冷え込み、下値がみえなくなっている。
終値ベースでの日経平均の下げ幅2216円は、ブラックマンデー翌日である1987年10月20日(3836円)に次ぐ歴代2番目の大きさ。
半面、下落率5.8%は歴代29位にとどまる。日経平均の水準が上がったことで、急落時の絶対値が大きくなった面がある。
「まさに、フリーフォール(自由落下)だ」。フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは2日午前の日本株の下げ方をこう表現する。
人気株のアドバンテストが2日前の決算発表で好業績をたたき出したが、前日の相場全体の支えにはならなかった。
前日比2216円下げ、終値で3万5909円をつけた日経平均株価(2日、東京都中央区)
東証プライム市場で値上がりした銘柄は全体の0.8%の14銘柄にとどまる全面安の展開だった。
1日の米金融市場でダウ工業株30種平均が前日比で一時700ドルを超える下げとなった流れを引き継ぎ、寄り付きから内外投資家の売り注文が膨らんだ。
東証グロース市場250指数先物では、午後2時半過ぎに下落率が8%に達したことで、一時的に売買を停止する「サーキット・ブレーカー」が発動した。
引き金を引いたのは、7月27日まで1週間の米新規失業保険申請件数だ。24万9000件と前週の23万5000件から増加し、23年8月上旬(25万8000件)以来、1年ぶりの高水準になった。
さらに、米サプライマネジメント協会(ISM)が1日に発表した7月の製造業景況感指数の下振れが追い打ちをかけた。
46.8と6月の48.5から低下し、好不況の分かれ目となる50を4カ月連続で下回った。
景気指標の悪化を受け、これまで米経済のソフトランディング(軟着陸)に楽観的だった投資家が景気後退(ハードランディング)を警戒し始めた。
市場では「米連邦準備理事会(FRB)が利下げに踏み切るのは、単にインフレが落ち着いたからではなく、景気悪化の可能性があるからではないか」(ニッセイアセットマネジメントの野田健介チーフ・ポートフォリオ・マネジャー)との声が出ている。
半導体などこれまで相場全体をけん引してきたハイテク企業の決算で先行き不安を感じさせる内容が出始めたことも、投資家心理を悪化させている。
たとえば、米インテル。1日発表した2024年4〜6月期決算は、最終損益が16億1000万ドル(約2400億円)の赤字(前年同期は14億8100万ドルの黒字)に転落。2四半期連続の最終赤字で、従業員の15%にあたる1万5000人の人員削減と配当の停止を発表した。
生成AI(人工知能)向けの需要を取り込めるのか、生成AI向けの需要は果たしてもうかるのか、といった従来の市場の期待にも疑念が生じている。
1日は主要な米半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が7%安と急落した。
東京市場でも、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループ、TDK、信越化学工業など値がさの半導体関連銘柄が軒並み急落し、日経平均を押し下げた。
こうしたグローバル市場の流れに加わったのが、円高という日本株固有の要因だ。
政府による円買い介入や日銀の利上げを背景に、2日午前は一時1ドル=148円台後半と直近の安値から10円以上円高に進んできた。
みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリストは「円安による業績の上方修正期待で買った銘柄の手じまい売りが進んでいる」と指摘する。
日本株はこれまで「円安による上方修正期待などいろんな理由で買い上げられてきた。その前提条件が崩れてきている」(フィリップ証券の増沢氏)わけだ。
1日の日経平均も1000円近く下げたが、突き詰めれば主因は日銀の利上げという日本固有の材料だった。これに2日は米国要因まで加わり、いわば「トリプルショック」として日本株にとっては売りのエネルギーが増幅されてしまった。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「寄り付きからどんどん加速して相当投げ売りが出た印象だ。
テクニカル的な下値を突き抜けてしまい、多くの投資家が押し目買いを入れられていない」とみる。
市場では「為替も株も変動が大きすぎて長期の海外投資家は今は入れない。
買い遅れていた層は入りたいはずだが、もう少しマーケットが落ち着いてから。今のところ同業から売買の話は聞いていない」(スイスの運用会社UBPインベストメンツのズヘール・カーン シニア・ファンド・マネージャー)との声も上がり始めた。
T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔シニア・トレーダーも「今は下値が見当たらない状況だ。
好決算など数日前の好材料は忘れられて売られている」と話す。三菱UFJアセットマネジメントの徳岡祥一チーフファンドマネジャーは「一日の振れ幅としてはちょっとやりすぎな感がある」と語った。
目先の焦点は日本時間2日夜9時半に発表される7月の米雇用統計だ。失業率が市場予想以上に軟化することになれば、週明けの日本株も波乱が続く可能性がある。
(大久保希美、越智小夏)
西原里江JPモルガン証券 チーフ株式ストラテジスト
ひとこと解説
今日の株価急落は米国景気への懸念が主因だ。前場では銀行株が最も売られ、保険株も大きく下落した。
日銀会合後に市場がおり込んだ「利上げ継続」のみならば、金融株は上昇を続けた筈だ。
市場は米国の利下げ見通しを喜んでばかりいる場合ではないと判断し、米景気の減速/後退を見込んで年末までに3.5回の利下げを織り込んだ。
この米国利下げ本格化シナリオが台頭する中で、日銀の追加利上げのハードルが高まるとの思惑が出てきたと見るのは考え過ぎか。
市場は急なリスクオフの中でポジション調整をしつつ、円高ドル安と株価下落がどこまで進むのかを見極め、市場が落ち着いた後に備え円高影響を受ける株とその度合いを確かめようとしている。
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ひとこと解説
米景気の雲行きが怪しくなってきたことが、日経平均急落を引き起こしたと見ている。
円高は追加の悪材料となる。
円高は、米景気悪化で米金利が低下する結果として起こる。
根源にあるのは米景気見通しの悪化だ。
日本の景気指標弱含み、中国の景気低迷も影響、ただし、もっとも影響が大きいのが米景気だ。
ISM景況指数は、製造業も非製造業も50割れ、米景気悪化リスクが高まっている。
完全失業率が6月に4.1%まで上がったのも気になる。米国のインフレ率低下は米景気にプラスだが、消費減速により値引きが増えているならば要警戒。
インフレの累積効果で米国では生活必需品の価格が高くなり、消費に悪影響を及ぼす可能性がある。
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別の視点
日本企業は2024年4~6月期決算発表の最中。かつて「新しい資本主義」なる政策の一環として四半期決算を廃止する構想が浮上し、妥協案として決算短信への一本化に落ち着きました。
つくづく思いますが、この局面で4~6月期決算の情報がまったくなかったとしたら、市場の不透明感はさらに強いものになったでしょう。
動きの早い市場経済において四半期決算は必須だと思います。
第一四半期(4~6月期)と第三四半期(10~12月期)は会見や説明会の手薄になる傾向もあります。
こんな局面こそ、業績の見通しや経営戦略について、企業は明確で具体的な情報を発信すべき。情報を受け取るジャーナリストやアナリストの力量も問われます。
(更新)
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