米テック株、「AI相場」に陰り　成果求める市場

米株式市場を主導してきた「人工知能（AI）相場」に陰りが出始めた。

アップルなど巨大テック7銘柄の時価総額はピーク比で約1兆9000億ドル（約280兆円）目減りした。

AI普及に伴う需要爆発への期待から一握りの巨大テック銘柄にマネーが集中したが、4〜6月期決算を通じて巨額投資の収益反映を確認できない状況に投資家はしびれを切らす。

景気悪化懸念でリスク許容度も低下し、テック株は岐路を迎えている。

マイクロソフトやアップル、エヌビディアなど巨大テック銘柄7社「マグニフィセント・セブン（MAG7）」の時価総額は7月10日のピーク（約16兆9800億ドル）から3週間で約15兆1000億ドルに目減りした。

S&P500種株価指数の採用銘柄全体に占めるMAG7の比率もピーク時の36%から8月2日までに3ポイント近く切り下がった。

「テック企業によるAI関連支出の重要な初期段階はすでに過ぎた。

設備投資を現状のペースで拡大し続けられるのか疑問を投げかけるのが賢明だ」。

米運用大手ティー・ロウ・プライスのポートフォリオマネジャー、デイビッド・アイズワート氏はこうみる。

市場の見方の変化を映すのが、米IT（情報技術）大手各社の4〜6月期決算に対する株価反応だ。

1株当たり利益（EPS）が市場予想に届いても売り込まれる事例があった。

例えば、グーグル持ち株会社アルファベットはAI関連の投資加速が嫌気され、5%安。

アマゾン・ドット・コムはAI向けにデータセンターなどの投資がかさむとの見方が広がり、1日の米株式市場の時間外取引で4%安となった。

英調査会社ニュー・ストリート・リサーチの推計では「ハイパースケーラー」と呼ばれる大規模クラウド事業者のAI設備投資は2024〜27年の累計で1兆ドル弱に及ぶ。

「1兆ドルもの莫大な支出の結果が低賃金の手作業を置き換えるだけでは（効率化を進めてきた）過去の技術投資と方向が逆だ」。

米ゴールドマン・サックスのグローバル株式調査責任者、ジム・コベロ氏は警鐘を鳴らす。

もっとも、株価の決算反応はネガティブなものばかりでもない。メタはEPS実績が市場予想を上回ったのに加えて、広告事業への応用などAI投資の成果が見え始めた点が好感され、発表翌日1日の株価は5%上昇した。

「AIによる成長ストーリーを語ってほしいと市場が企業に求める局面から、投資の果実を実際に見せてほしいと求める局面へと転換していく」。

米BofAセキュリティーズの株式ストラテジスト、サビタ・スブラマニアン氏は指摘する。期待先行から実績を吟味する時期に来ている。

市場全体を包む雰囲気も変わり始めた。1日の米サプライマネジメント協会（ISM）製造業景況感指数など、市場予想より悪い経済指標の発表を受けて、ダウ工業株30種平均が500ドル近く下げ、米長期金利は約半年ぶりに4%を割り込んだ。

金融市場は米連邦準備理事会（FRB）が9月に利下げに踏み切るとほぼ確実視するが、肝心の米経済が後退局面を避けられるという「ソフトランディング（軟着陸）」シナリオ自体への疑念が出てきた。

リスク回避姿勢を強めた市場参加者が株式から安全資産の国債に逃避した構図だ。

景気動向にかかわらずAI需要に基づく持続成長が期待された巨大テック株への熱狂は薄らぎ、米景気そのものへの警戒感も募ってきた。

期待が先行した分、まだ巨大テック株の下げ余地があるとの見方もある。米株式相場のけん引役から重荷へ転じる可能性もある。

（ニューヨーク=竹内弘文）

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日経記事2024.08.02より引用

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