東京大学はマヨラナ粒子が存在する証拠を観測した=東大・芝内教授提供
東京大学や京都大学などが、幻の粒子と言われる「マヨラナ粒子」が存在する証拠を見つけたと報告した。
約90年前に存在が理論的に示されたが、まだ見つかっていない。実在すれば、計算エラーの少ない量子コンピューターの開発につながる可能性がある。
マヨラナ粒子は1937年、イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナによって理論的に提唱された。
一般的な粒子には重さなどは全く同じで、電気的に反対の性質を持つ「反粒子」がペアとして存在しうる。一方、マヨラナ粒子は粒子と反粒子が全く同じ性質を持つとされる。
マヨラナ粒子が存在した場合、応用先として量子コンピューターが有力視される。
量子コンピューターは2つの状態が同時に存在する「重ね合わせ」という不思議な現象を使って計算する。
超電導や光など様々な手法があるが、実用レベルの大規模な計算は実現していない。課題となっているのが、「エラー訂正」と呼ばれる技術だ。
計算の誤りを訂正しながら、高度な計算に対応する必要がある。マヨラナ粒子は外部からの影響を受けても状態が変化しにくく、エラーが発生しにくい可能性がある。
マヨラナ粒子の存在は確認されておらず、証拠を探す研究が進む。
東大を中心とするグループは、塩化ルテニウムという蜂の巣状の物質を使って、存在の証拠をつかんだという。塩化ルテニウムを冷やして、強い磁力をかけた後、熱を加えて温度変化を調べた。
すると磁力をかける方向によって温度の上がり方が違った。その違いはマヨラナ粒子が存在するときに予想される数値と一致したという。
2018年にも別の方法で、証拠を見つけたとしていたが、そのときはほかの研究グループが「マヨラナ粒子ではない」と主張し、決定打にはならなかった。
研究に参加した東大の芝内孝禎教授は「同じ材料を使い、別の手法でマヨラナ粒子の影響を観測できたので、決定的な証拠になった」と話す。今後、直接観測などを目指す。
芝内教授は「今回の成果をきっかけにマヨラナ粒子研究が一気に加速するのではないか」とみる。幻の粒子への期待は膨らむ。
(福井健人)
日経記事2024.04.01より引用