京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓(すいぞう)の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験(治験)を2025年にも実施する。
血糖値を下げるための注射を不要にしたり、回数を減らしたりして、患者の負担を軽減できる可能性がある。30年以降の実用化をめざす。
膵臓の細胞が正常に働かず血糖値が上昇し、様々な合併症を引き起こす重症の1型糖尿病の患者にiPS細胞から作った膵臓の細胞「膵島(すいとう)細胞」を移植する。
京大などはiPS細胞から膵島細胞を作ってシート状にする技術を開発し、この技術をもとに京大病院での治験計画を立てた。
24年の8月下旬に京大の治験審査委員会で承認され、医薬品を承認審査する医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。
1型糖尿病は、血糖値を下げる働きがあるインスリンを出す膵島細胞が壊されてしまう病気だ。
若い人がかかることが多く、生活習慣が影響する2型糖尿病とは異なる。口の渇きや体重減少のほか、腎臓の機能低下や神経障害を引き起こすこともある。
iPS細胞の医療応用の研究が進む=山中伸弥・京都大学教授提供
患者は、毎日数回にわたりインスリン製剤を自分で注射する必要があり、国内には10万〜14万人の患者が存在するとされる。
重症になるとインスリン注射でも血糖値の制御が難しくなる。治験ではこうした患者を対象として想定する。20歳以上65歳未満の患者3人を予定する。
健康な人の細胞から作ったiPS細胞から膵島細胞の塊をつくり、複数集めて数センチメートル四方のシート状にする。手術でシート複数枚を患者の腹部の皮下に移植する。
移植したシートが患者本来の膵島細胞の代わりにインスリンを放出し、血糖値を下げることで、患者の体の負担や合併症のリスクを減らせる。
シートは京大と武田薬品工業が中心となって立ち上げ、iPS細胞の事業化を手掛けるオリヅルセラピューティクス(神奈川県藤沢市)が製造する。
同社は実用化に向けて今回の治験の後、海外の研究機関や企業などと協力し、規模を拡大した国際共同治験によって有効性を確かめる方針だ。
健康な人の膵島細胞を移植する既存の治療法はドナー(提供者)が不足しており、免疫抑制剤による副作用もある。
iPS細胞から作った膵島細胞を使う治療法について、主に1型糖尿病の患者支援や治療法の開発支援に力を入れるNPO法人「日本IDDMネットワーク」の井上龍夫理事長は「新しい治療法が従来の課題を解決し、根治に向けた選択肢になると期待したい」と話す。
世界でも1型糖尿病の治療技術の開発が進む。米バイオ企業のバーテックス・ファーマシューティカルズは6月、1型糖尿病の患者12人にヒトの幹細胞からつくった膵島細胞を移植し、インスリンが作られることを確認したと発表した。
うち11人は注射などによるインスリンの投与量が減ったり、投与が不要になったりした。
国立国際医療研究センターはヒトではなくブタの膵島細胞を使う手法の研究を進めており、今後1型糖尿病患者向けに臨床試験の実施を目指す。ヒトの免疫がブタの細胞を攻撃するのを防ぐため、細胞を微小な穴の開いたカプセルに入れて投与する。
ブタの細胞がつくるインスリンはヒトのものとの違いが少なく代用できる。過去にはブタのインスリンを糖尿病の治療に活用していた時代もある。
日本発のiPS細胞を用いた治療の研究は進展している。大阪大学の研究チームはiPS細胞から作った心筋シートによる心臓病の治療法を開発し、既に臨床試験を終えた。
同大発スタートアップのクオリプスが厚生労働省への承認申請を目指している。京都大学のチームはiPS細胞から作った神経細胞でパーキンソン病を治療する臨床試験を完了し、24年にも結果を公表する見通しだ。
ひとこと解説
1型糖尿病の患者さんは、罹病期間を60年とすると支払う医療費が自己負担だけで1000万円を超えるとの試算もあります。
実用化した際の額はまだ分かりませんが、患者さんの身体的な負担はもちろんのこと、1型糖尿病にかかる医療費の削減も期待できるかもしれません。
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