民主党大統領候補の指名獲得が決まったハリス副大統領=AP
カマラ・ハリス米副大統領が2日、民主党の大統領候補指名を得ることが決まった。
バイデン大統領の選挙戦撤退から2週間足らずの急転直下の展開は、人種や性別を巡る偏見という米政治の持病を改めて浮き彫りにした。
こうした歴史の壁に加え、バイデン氏から引き継ぐ負の遺産が二重の壁となってハリス氏の前に立ちはだかる。
「私たちが知っている彼女は人気があるし、必要であれば大統領の座に就くこともある副大統領だ。不人気だという見方は人種や女性であることが理由にすぎない」
ジョージア州議会下院議員のロジャー・ブルース氏が語気を強めたのは、なぜハリス氏は不人気なのかと問うたときだった。
再選をめざすバイデン氏の選挙戦に盛り上がりを欠く民主党支持層の実情を知るため、昨年秋に南部各州の非白人の地元議員らを取材して回っていた。
ブルース氏が「予言」したように、ハリス氏が民主党大統領候補に名乗りを上げて以来、民主党支持層は活気を取り戻した。世論調査でも支持率は上昇への勢いを増す。
この2週間弱の激動の政治劇で焦点が当たったのは、ハリス氏の人種や性別を巡る共和党側からの差別的言動だった。
トランプ前大統領はハリス氏のファーストネームを繰り返し誤ったイントネーションで発音し、ジャマイカとインドのルーツを持つハリス氏を「ずっとインド人だったのに、突然、黒人になった」と言い放った。偽情報、偽映像も流布した。
副大統領候補のバンス上院議員は過去にハリス氏を「子供のいない猫好き女」と中傷していた。
2008年大統領選でオバマ氏を黒人初の米大統領に押し上げたのは、「チェンジ」への期待と「私たちにはできる」という熱狂だった。
ハリス氏は「フリーダム」を掲げ、「後戻りはしない」と訴える。ハリス氏が越えなければならないのは人種や性別といった歴史の壁だけではない。
米景気の後退懸念が広がる中でしぶとく続くインフレ、不法移民の波で混乱する国境政策。バイデン氏から引き継ぐ「遺産」には、未解決の課題が山積みになっている。
高齢で衰えの隠せなくなったバイデン氏の撤退とハリス氏の登板により、民主党は一種の「安堵感」に包まれ、それが選挙戦への熱気を生んでいる。
ただ、山積みの政策課題にハリス氏が自分の言葉で解を示していくのはこれからだ。
オバマ氏という歴史的な大統領の登場について、結果として米社会の大きな反動を招き、トランプ前政権の誕生につながったとの指摘は多い。
ハリス氏が二重の壁を越えられるか。その先に何が待ち受けるのか。米有権者の審判は11月5日に下される。
(ワシントン支局長 大越匡洋)
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社会保障や税財政、金融政策などの政策過程を霞が関、永田町で取材。経済産業省キャップを経て2012年から4年間、発足したばかりの習近平政権下の中国を北京から取材し、重慶支局長も兼務。1面連載のデスクなどを経て21年4月からワシントン駐在。
単著『北京レポート 腐食する中国経済』(2016)、共著『アフター2024 米中最後の攻防』(2023)。
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