1972年の高松家古墳の壁画発見はセンセーショナルで、国内は興奮に包まれた。極彩色の人物像などの壁画はそれは見事なものだったが、この壁画の保存は失敗に帰した、と言わねばならない。現地保存というところに無理があったのだろうか、湿気やカビが壁画を襲った。
約十年後、従来から似た年代、形式と思われる南へ一キロ少々のところにある古墳であったキトラ古墳からも壁画が見つかったのである。この古墳の壁画は、高松塚の失敗に鑑み、絵が描かれた漆喰もろとも剥がして保存、という方法が取られる。高松塚の経験があったとはいえ、これもまた困難な作業ではあったろう。
池澤夏樹の「キトラボックス」は「アトミックボックス」に続く現代小説で、登場人物も重複があるが、話はいづれも独立している。海外、ウイグルへと話は広がるが、題名の通り、キトラ古墳の被葬者の謎が絡む。
キトラ古墳の被葬者の可能性のある人物としては、天武天皇の皇子が有力とされ、高市皇子、弓削皇子、忍壁皇子の名が挙がり、他には百済王昌成、阿部御主人などとされる。「キトラボックス」は阿部御主人を被葬者として話は展開する。呪術的な力も偶然調査することになった遺物が他と繋がっていくのも小説である限り気になることではない。
しかし、実際に被葬者探しをするならば、偶発的な発見を待つより良い方法がある。それは陵墓・陵墓参考地とされている古墳の発掘調査である。小説的な封印された紙文書の発見となると期待はできないが、例えば高松塚の北方数百メートルにある野口王墓古墳、天武持統合葬陵で盗掘され、幾分かの知見は世に出ているとはいえ、現代の知識を持って複数の研究者のチームが調査がなされればかなり変わるのではないだろうか。
キトラ古墳の資料館 四神の館
キトラ古墳 天球のような墳丘
天文図
白虎図 尻尾が後ろ足に巻き付く