安倍政権が今国会での成立を目指す安全保障法制の全体像が固まった。「切れ目のない対応」という名のもと、あらゆる事態で自衛隊の活動範囲を拡大させる内容だ。公明党はその「歯止め」として国会の事前承認に最後までこだわったが、国会は本当にその役割を果たせるのか。安保法制で、自衛隊のリスクは格段に高まると見られるだけに、その責任は重い。▼1面参照

 

 「公明の主張が認められたと理解している」。公明党北側一雄副代表は21日、与党協議後の記者会見で胸を張った。

 2月に始まった与党協議で、最後まで残った課題は、地球規模で拡大する自衛隊の活動に、いかに「歯止め」をかけるか。自衛隊の海外派遣をできるだけ抑えたい公明がこだわったのが「国会の事前承認」だった。

 政府・自民は、昨年の閣議決定の中身を最大限に読み込んだ方針を次々と出して公明にのませようとした。これに対し、公明は、国民を代表する国会に、自衛隊派遣の最終的な責任を持たせる国会承認を訴えることで「歯止め」をかけたとアピールすることを狙った。

 21日の与党協議では、戦争している他国軍を後方支援する恒久法「国際平和支援法」に関し、「緊急の必要がある場合、国会閉会中の場合または衆議院が解散されている場合であっても、国会を直ちに召集するなど所要の手段を尽くす」として、公明の主張通りに「例外なき事前承認」が盛り込まれた。

 ただ、実効性が問われる部分も残した。同法に基づいて自衛隊を派遣するときは、国会に対し、「7日以内に各議院が議決するよう努めなければならない」という努力規定が付けられた。衆参で計14日以内に承認することを求めたものだ。自衛隊を海外に送るかどうかという重要な政治判断にあたって日数の制限をつけてしまうと十分な審議時間が確保できない恐れがある。

 さらに、武力攻撃事態法重要影響事態法、改正PKO協力法に関しては、原則は事前承認としながら、閉会中や衆院解散時には例外として事後承認を認めた。

 一方、国会が「歯止め」としての機能を本当に果たせるのかどうか。国会自身にも重い課題を突きつけている。

 たとえば英国では2013年、キャメロン政権が米国とともに、化学兵器使用の疑いがあったシリアへの武力行使を行う動議を下院にかけた。ところが、英国はイラク戦争やアフガン戦争で600人以上の死者を出し、国民に厭戦(えんせん)気分が高まった。動議は、世論を感じ取った与党・保守党から約30人もの造反が出て否決。キャメロン政権はシリアへの軍事介入を断念した。

 日本も、英国と同じように議院内閣制をとり、国会の多数派が首相と内閣を構成する。それでも、政府の判断に対し、国会として独立の立場で判断できるかが問われる。

 

 ■「切れ目ない対応」 危険性は高まる 

 一方で、安倍晋三首相が安保法制の必要性を説くときにいう「切れ目のない対応」のかけ声のもと、自衛隊の活動範囲は大幅に広がろうとしている。

 「日本の海の状況も、空の状況も大変厳しい。これは10年前とは比べものにならない」。首相は20日のテレビ番組で、こう強調した。そのうえで、首相は今回の安保法制で、尖閣諸島などの離島防衛から集団的自衛権の一部行使まで「切れ目のない対応を可能にする法制を行う」と語った。

 首相がいう「切れ目のない対応」とは、日本やその周辺で自衛隊ができることを増やす狙いがある。加えて、あらゆる状況で米軍を支援する態勢を整え、日米の連携を強めるのが、もう一つの狙いだ。実際、首相は20日の番組で、安保法制によって「日米の同盟関係はより効率的になる。抑止力は強化される」と語った。

 念頭に置くのは、軍事的に台頭し、海洋進出を図る中国であり、核・ミサイル開発を進める北朝鮮だ。

 これまで日本は自国が直接攻撃された場合に反撃する個別的自衛権しか認めてこなかった。しかし、安倍政権は、集団的自衛権を行使することによって、日本が武力行使できる範囲を大きく広げようとしている。

 さらに、有事になる前の段階で、日本の平和と安全に重要な影響を及ぼすと政府が判断したときに、米軍を後方支援することができるのが、重要影響事態法の整備だ。これまで事実上日本周辺に限られてきた米軍支援の範囲を地球規模に広げる考えだ。だが地理的な制限がなくなり、国連決議も必要としないことから、米軍支援が際限なく拡大する可能性がある。

 今回の安全保障法制のもう一つの特徴は、「国際平和」の名のもとに、自衛隊が世界でできることを大幅に広げようとしていることにある。2001年の米同時多発テロ以降、日本は米国などの求めに応じてその都度、活動内容を限定した特別措置法を整備し、自衛隊をインド洋やイラクに派遣してきた。しかし、恒久法の国際平和支援法ができれば、中東などで米軍が展開するテロとの戦いに対し、自衛隊を随時派遣できるようになる。

 紛争が終わった後の人道復興支援では、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正し、国連が統括しない人道復興支援であっても自衛隊の派遣が可能となる。 自衛隊がより海外に出やすくするため、その要件を緩める措置と言える。ただ、こうした措置は、自衛隊が紛争地に近づくことにつながり、戦闘行為に巻き込まれる危険性は格段に高まる。

 (今野忍、石松恒)