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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

基本的人権である生存権保障の最重要制度 生活保護基準の引き下げに反対する

2012年09月22日 | 生活保護と生存権

 

 政府・厚生労働省による生活保護基準の引き下げが年末の予算編成に向けて本格化すると見られています。

 まず政府は、2012年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定しましたが、そこでは同月10日に成立したばかりの社会保障制度改革推進法(附則2条)において、「給付水準の適正化」を含む生活保護制度の見直しが明文で定められていることを受け、社会保障分野も聖域視せず、生活保護の見直しをはじめとする合理化・効率化に最大限取り組み、極力圧縮に努めることが明記されているのです。

 さらに、厚労省が7月5日に発表した「『生活支援戦略』中間まとめ」では、「一般低所得世帯の消費実態との比較検証を行い、今年末を目途に結論を取りまとめる」ものとされています。そして、同省が公表している平成25年度の予算概算要求の主要事項には、生活保護費を抑制するための「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」と記載されています。

 このように、着々と生活保護制度に対する包囲網が狭められつつあるのです。2012年末にかけての来年度予算編成過程において、生活保護法8条に基づき生活保護基準を設定する権限を有する厚労相が、生活保護基準の引下げを行おうとすることは必至の情勢なのです。

 しかし、つい5年前、2007年11月30日にも、当時の自公政権の舛添要一厚生労働大臣が基準引下げを明言するという今回と同様の動きがありましたが、このときは、低所得世帯の消費水準と比較するという考え方に対して、国民各層からの強い反対意見が沸き起こりました。 

 そして、当時最大野党であった民主党も強く反対をしたことから、政府は引下げを断念したという経緯があるのです。

 ところが、野田民主党政権が今度は生活保護の切り下げを図っています。ちょうど、野田首相が前回の衆議院選挙の時には消費税増税に反対する演説をぶっていたのに、政治生命を賭けると称して消費税増税法を成立させてしまったのと軌を一にしています。

野田首相が消費税増税は「マニフェストに書いてないことはやらないのがルール」と熱弁←3年前の衆議院選挙


 そもそも、上のグラフのように、日本で生活保護を受けている人の割合は先進国では断然低いのです。その結果、平成22年4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2割ないし3割程度と推測されています。

 日本の生活保護制度で最大の問題は、受けるべきでない人が受けている不正受給の問題ではなく、受けるべき人が受けていない捕捉率の低さの問題なのです。

 このように、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(給付が漏れている層=制度の利用資格のある者のうち現に利用していない層)」が下のグラフのように大量に存在するのが現状なのです。したがって、低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然です。これを根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくことにつながり、合理性がないことが明らかです。

生活保護申請者に「体売れ」 窓口で断られ凍死、餓死、自殺 不正受給は0・4% これが生活保護の実態だ


 

 また、自民党も日本維新の会も、現物支給だの年数制限だの、競い合うように生活保護の切り下げを主張しています。しかし、これは人気取り以外の何物でもありません。

 なぜなら、財政赤字対策と言っても、冒頭のグラフや下のグラフのように、生活保護費3兆数千億円が社会保障費全体の中で占める割合はわずか数パーセントです。つまり、生活保護費を見直してもさしたる財政効果が上がるわけがないのに、基本的人権である生存権保障のそのまた基本である生活保護制度をやり玉に挙げ、声の出ない一番弱いところを叩いて国民の溜飲を下げさせようとする手法の繰り返しは、まさに憲法番外地でのやり方としか言いようがありません。

 彼らが本当に聖域なき社会保障改革を考えているのなら、富裕層に対する年金給付の切り下げを言うべきです。年金は社会保障なのですから、過去に高い保険料を払っていたとはいえ、今の財政状況で高額の年金をお金持ちに支払う余裕は国にはない、とはっきり言わなければなりません。

 叩きやすい弱い者いじめより、財界べったりを止めて強い相手に物申すべきなのです。

生活保護申請で妊娠・同棲・出産禁止の誓約書 生存権=「健康で文化的」な最低限度の生活を無視する行政 

生活保護申請を受理さえせず追い返す「北九州方式」また炸裂 所持金600円の母子4人を追い返した市職員

 

 

 生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準です。したがって、生活保護基準は、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準です。

 ですから、もし生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件に大きな影響が及びます。

 また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動しているのです。

 このように生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのです。

 ちょうど、公務員叩きで公務員給与を下げて溜飲を下げていると公務員給与に引きずられて民間賃金も下がるという、下がるのは溜飲だけじゃなかった、というのと同じ事態が生活保護基準にもあてはまります。

 ですから、他人事と思わないで、国民全体で、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対しなければならないのです。

河本準一さん親子問題から考えると間違える。生活保護の本質は憲法上の基本的人権である生存権の保障だ!

姉は病死 妹は凍死 生活保護申請も出来ずに逝った姉妹 生活保護に関する3つの誤解

 


切り込むべきは生活保護ではなく高所得・高資産者=富裕層の年金

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生活保護について事実に基づく冷静な議論を求める金城学院大准教授の大山小夜さん=名古屋市の同大で

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 国の財政状態が厳しい中で生活保護費が近年、急増し続け、生活保護制度の見直し論が盛んだ。次期衆院選でも論戦のテーマの一つになる可能性があ る。こうした議論の際に大事なポイントは何か。貧困問題に詳しい金城学院大人間科学部准教授(社会学)の大山小夜さん(39)に聞いた。 (白井康彦)

 -「働かずにお金をもらっている」「税金の無駄遣いだ」などと、受給者をバッシングする風潮は、いろいろな誤解が背景にあるのでは。

 窮状は本人しか分からない部分もありますが、他人が想像力で補える部分もあります。日々の暮らしにはお金がいる。でもさまざまな事情でそのお金が 工面できない人が現実にいます。ほっておいたら社会はどうなりますか。当事者の間で絶望が広がり、餓死や犯罪が増えるでしょう。

 -そうした人は特殊という声もあります。

 いいえ、ごく普通の人が多いです。年金の受給額が少なくて生活が成り立たず、生活保護でカバーする。失業してなかなか再就職できず、貯金も底をつ いたので受給するなどです。そもそも生活保護は、日本国憲法に基づいて、国民の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する最後の頼みの綱として制度化さ れたものです。誰でも一人では生きていけないし、困った時は人に頼って良い。そういう社会が望ましいと多くの人は考えるのではないでしょうか。

 -議論で大事なのは。

 事実を踏まえて冷静に進めること。きちんとした統計数字を参考にしたり、日本の現状を海外諸国と比較したりもして。

 -先進諸国と比べたときの日本の特徴は。

 総人口に対する受給者の割合が断然低いです。日弁連がまとめた資料によると、この割合は二〇一〇年時点で日本が1・6%、ドイツが9・7%、ス ウェーデンが4・5%などです。生活保護を受けられる状態の人の中で、実際にどれだけの人が受給しているかが捕捉率。これも西欧諸国に比べると日本は相当 低い。受給割合が低いことは大問題でしょう。

 -受給者急増は社会保障制度の弱さも一因では。

 例えば、国民年金は満額の年金額がそもそも少なく、無年金者も多い。非正規労働者で雇用保険から漏れている人も多いです。他の社会保障制度が弱いので、最後の頼みの綱である生活保護に“しわ寄せ”が来ているのです。

 五年前、生活保護制度の調査でスウェーデンを訪れたとき、現地の説明者から「どうして生活保護のことだけ聞くのか」と言われました。生活保護を必 要とする人の数を減らそうとして、他の社会保障制度を充実させてきたとの自負をもっておられたのです。日本でも他の社会保障制度や雇用制度などと絡めて、 生活保護を論じていかねばなりません。 =おわり

◆政府、予算圧縮へ検討も

<生活保護制度見直しの検討項目>

●生活保護基準の検証・見直し

●受給者や扶養義務者などへの指導強化

●生活保護を抜ける意欲を強める施策

●ハローワークと一体となった就労支援の抜本強化

●高齢者や障害者などに対する社会的自立の促進

        (生活支援戦略中間まとめより)

 生活保護の現状についての捉え方は政党によって大きく異なる。ただ、政党間の議論が反映されて制度が見直されるのは衆院選挙後になりそう。そのため、今は政府内の検討が焦点だ。

 厚生労働省が七月に発表した生活支援戦略中間まとめには、検討事項として(1)生活保護基準の検証(2)受給者やその家族への指導強化-などが挙げられている=表参照。

 基準引き下げで生活保護の支給額が大きく減れば、受給者の生活は一段と厳しくなる。受給者の家族に援助額を増やしてもらう姿勢を政府が強め過ぎると、受給申請をためらう人が急増する可能性がある。

 生活困窮者を支援する法律家らは懸念を強めているが、政府内では生活保護予算も何とか圧縮したいという空気が強い。


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12 コメント

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Unknown (鬼丸竜馬)
2012-09-22 00:42:37
私は、生活保護は廃止すべきだと考えます。その代わり、老齢・障害年金を、一律10万円+住居費5万円とします。
職がない人には、国が仕事を斡旋するべきです。
最低賃金は、家族4人が生活できる月収30万円とします。
Unknown (K)
2012-09-22 00:49:25
> 富裕層に対する年金給付(の切り下げ)

フルタイムで働く若年層よりよっぽど多かったりしますからね(^^;。
Unknown (アンチ社会主義者)
2012-09-22 16:04:45
>ちょうど、公務員叩きで公務員給与を下げて溜飲を下げていると公務員給与に引きずられて民間賃金も下がるという、下がるのは溜飲だけじゃなかった、

じゃあ一般勤労者は公務員の高給と特権に我慢するべき。官民格差を身分制として認めろ。ということか?民間労働者として断固拒否する。別に公務員を無給にしろとは言ってない。官民の平均を平等にしろと言ってるだけ。それすら嫌だというなら戦争だ。改革派と守旧派の内戦しかない。


また、そもそも拠出制の年金と、専ら税金による援助である生活保護を同列にして少ないというべきではないし、バラマキ社会主義的な欧州で10パーのナマポ者がいることのほうがおかしい。

平等というのは権利の平等であって結果を平等にしろ、頑張って稼いだ奴は死ねというのでは、誰も働かなくなる

わが国の憲法は世界でも画期的な勤労の義務を定め、また我が国には勤労と倹約の美徳が存在する。

これを破壊する極左に断固として反対する。
↑突っ込みどころ満載ですが (ray)
2012-09-22 20:53:46
典型的なネットウヨクの興味深いサンプルということで。

いつもこういう書きぶりでも削除しないということではありませんのでお気を付けください。
Unknown (アンチ社会主義者)
2012-09-22 21:21:11
rayさん、僕は右翼ではありません。

むしろ中道で、労働者の権利と生活を守ろうとしています。
働くことの意味と価値を取り戻したい。そうおもって活動しております。

所得税は、サラリーマンに不利な税。しかも働けば働くほど重税という、史上最悪の搾取税なのです。これを廃止して、労働者も不労者も平等に消費税を払うべきなのです。

また、結果を平等とするならば、誰も働かなくなる。共産主義は失敗しました。だからバラマキや大きな政府は間違いです。

左右の全体主義と闘って、労働者の権利と生活を守っていきましょう!(^^)
Unknown (アンチ社会主義者)
2012-09-22 22:06:46
>彼らが本当に聖域なき社会保障改革を考えているのなら、富裕層に対する年金給付の切り下げを言うべきです。年金は社会保障なのですから、過去に高い保険料を払っていたとはいえ、今の財政状況で高額の年金をお金持ちに支払う余裕は国にはない、とはっきり言わなければなりません。


あーあ、とうとう本性を現した。つまり、「国は、国民の財産を勝手気ままに没収してもよい」という財産権否定の思想。憲法違反。しかも、年金未納者や生活保護にばら撒くために、”正直にまじめに年金を払ってきたお年寄り”に、『払い終わった後にだまし討ちで』年金受給権を剥奪とな。国家と国民の信頼関係は崩壊し、訴訟が頻発。そもそも、『後から年金が募集されると分かっていて』誰が保険料を払うのでしょうか???これで損をするのはサラリーマンだけ、得をするのは未納者という犯罪者。


このブログの著者が『まじめに正直に年金保険料を払ってきた実直なお年寄りの、『既に約束された年金受給権という財産権』を、国家の一存で没収してもよい』という、改憲論者のファシストであることが分かりました。


彼の創る新憲法にはこう書かれることでしょう『財産権は、これを保障する。ただし法律の定めるところにより没収することができる』
わっはっは4 ( 浪速姫)
2012-09-23 05:17:14
ray先生へ

 うっかり突っ込みかけました。非生産的なことをするところでした、

 闘わねばならぬ相手はこんな輩ではありませんでしたわ。
非生産的ですがたった2分で書いたからまあいいか (村野瀬玲奈)
2012-09-23 12:10:35
>平等というのは権利の平等であって結果を平等にしろ、頑張って稼いだ奴は死ねというのでは、誰も働かなくなる

平等というのは権利の平等であって結果を平等にしろ、頑張って稼いだ奴は相続の時に全財産没収というのでは、誰も働かなくなる


「全財産没収」というのはHした・大阪市長が唱えた政策の一つですよ。
参ったなあ (ray)
2012-09-23 14:55:29
アンチ社会主義者さんのコメントの公開を控えていたのですが、あまりに特徴的なためか、村野瀬さんが論評されましたので、これまでのコメントも一挙大公開しました。

そこで私も一言。

健康で文化的な最低限の生活を保障するのは、結果の平等には程遠いのです。
これを憲法学では実質的平等の保障と言います。
結果の平等は絶対的平等といいまして、そこまで主張する憲法学者は日本にはいません。

また、私は富裕層の年金受給権をはく奪するのではなく、制限することしか言っていません。
それは厚労相の裁量権の範囲内である限り、憲法違反にはなりません。憲法改正など必要ないのです。
Unknown (Unknown)
2012-09-25 14:54:13
あほかこの記事書いたおっさんは。生活保護をいつまでも受け続ける連中がいるから、周りの人間の就労意欲削ぐんじゃないか。生活保護を受ける権利は国民確かにあるが、胸を張っていつまでも受けるものじゃないだろ。多少は回数券が嫌ならさっさと働けば?周りに後ろめたい気でも持ってくんなきゃ、俺らの税金で食わせてやってる身分としてふてぶてしいと思うがね。橋本さんたちが人気取りしてんのは事実だが、人気あるってことは生活保護は甘い制度だって大半の国民が思ってんだよ。

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