病室ルール

父は、判で押したように、毎日欠かさず母を見舞いに行く。
なので、『定期便』とあだ名がついたらしい。
そんな父が、憤慨する出来事があった。

母の病室には、他に3人の女性が入院している。
皆、母より年上（70後半～80歳くらい）の高齢者。
時々、見舞客が差し入れた菓子や果物を、
お裾分けでいただく事が良くある。
また、逆に、差し上げる事もある。
お礼を言ったり言われたり…まあ、それはいいのだ。

父は、わざわざ何か買って、
お返ししたりすることもあるそうな。
アタシは「何もそこまでしなくとも」と思うのだが、
「いつもお裾分けいただいてるから」と。
入院生活が長くなると、小さいけれど4人部屋にも
ひとつの社会ができあがるんだよね。
気まずくならないよう暮らす処世術とでも言おうか、
そういう気づかいも、必要なわけで。

…でもなあ。
同室の人に迷惑かけず、マナーを守って生活していれば、
そんな頻繁に菓子のやり取りなどしなくともいいのに。
たまたま貰ったからどうぞ…という感じでいきゃいいのに。
歳をとると、そこんとこ、ドライに割切れないようだ。

ある日、隣のベッドの婆さん…いや、マダ～ムAさんが
「お菓子貰ったら、旦那さんに報告しなきゃだめだよ！」
と、母に嫌みタラタラに言ったそうだ。
いや、母は、お裾分けを父に黙っていた事は、無い。
「昨日ね、お菓子いただいたよ」くらいは話してる。
その都度、必ずお礼も言っているのに。

じゃ、なにかい？
しょっちゅう行なわれる『お裾分け』のやり取りすべてを
母が逐一報告し、そのことを、
父が逐一お礼返しすればいいのかね？
たまの「いつもありがとうございます。」の一言があれば
それでいいんじゃないのかね？
いっそのこと、
『病院内でのお裾分け禁止』にしたら、なんぼ楽か！！
それに、（もしも、なんだけど）お裾分けが原因で
院内食中毒なんかあったらコワイだろが？

また、別の日。
斜め向かいの婆さん…いや、マダ～ムBさんに、
お裾分けの時に借りた皿を、
父が病室内の洗面所で洗い、お返ししようとした。
するとBさん。いきなり父に向かって叫んだ。
「おめえ！手、洗ったのか！？」
おどろいた父は、
「洗いましたよ。皿も洗ってお返しします。」
Bさんは言った。
「いらねえ！そんなことするな。オレ、男が嫌いだもの！」
（注：秋田では女性でも『オレ』と言う場合がある。）
…ハア？なんだよ、それ？…
『男が嫌い』なコトと、皿返すコトとなんの関係があるの？
父は頭にきたが、冷静に冷静に対処したそうだ。（偉い！）
「ハハハ。おたくの旦那さん、男だすべ？（男でしょう？）」
「うちの旦那だっけ、おなごだもの。（うちの夫は女ですもの。）」
またまたBさん、不可解発言。もうワケわからん。アタシ。

この同室のA婆&B婆、一癖も二癖もある人物で、
父も母もそしてアタシや弟も、ほとほとイヤになってきていた。
弟が見舞いに行くと、かのB婆に
『兄さん、あれ取れ』だの『これやれ』だのと
家族でもないのに、いいようにこき使われるらしい。
あのさ…頼み事するのはいいとしても、
他人にものを頼む場合の言い方とか礼儀って
あるんじゃないの？あの、当然のような態度って、何？

そんないや～な雰囲気の病室で、
母はずっと耐えてきたのかと思うと…不憫で不憫で。
（お向かいのベットのKさんはいい人だけどなあ。）

昨年10月に入院し、1月に退院。
直後、転んで骨折、再入院。
ま、この半年、いろいろあったけど。
今月中旬には、退院することが決まった。
（まだちゃんと歩けないので、リハビリは続くけどね。）

婆め！お先にあばよっ！
…ってな感じでございます。オ～ホホホ。