不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「あやかしの集うところ?」

2006年04月24日 23時57分39秒 | Life

 会社帰り。
 駅から出たところで、急に雨が降り出す。
 しまった、いつもは折りたたみの傘を持っているのだが、今日に限って置いてきた。

 幸い、そんなに酷い雨ではない。
 が、流石に家まで歩いていると、びっしょりになりそうだし、全力で駆けて行くにはちょっと距離もある。
 どうしようかと、思案していてふと思いつく。

 そうだ、いつもは避けて通るあの鎮守様の森。
 あの中を抜ければ、この程度の雨なら鬱蒼と茂った木が雨よけにもなるかも?
 やや遠回りになるが、多少でも濡れないなら、それに越したことはない。

 それに、たまにはそんな場所を抜けてかえるのも、良い気晴らしになるだろう。
 そう思い立つと、早速、いつもは右に向かう道を左に折れ、とりあえず鎮守の森の入り口まで駆けだした。

 森の中からはシトシトと雨だれが落ちる音がする。
 だが、生茂った枝に伝って雨が落ちる所為か、上手い具合に参道の辺りはそんなに降っていない。
 思った通りだ。

 参道の入り口まで走ってきて、弾んでいる息を整えながら、ゆっくりと参道を進む。
 住宅街の真ん中に保存林を兼ねてポツンと取り残されている森なのに、一歩踏み込むと別世界のようである。
 雨だれのマイナスイオンの所為なのか、それとも森野放つフェトンチッドの所為なのか、空気もひんやりとしていて心地よい。
 参道には、ポツポツと灯籠が灯されているので、そう暗くもない。

 我ながら、良い選択だった。
 そう思いながら、参道を進む。
 それにしても、本当に別世界のようだ。
 ほんの数十メートル森を抜ければ、イキナリ密集した住宅街の筈なのに、そんな気配はまったくしない。
 ちょっとした探検だね。
 そんな風に思って、くすりと笑ったその時。

 カサ・・・カサササ

 森の奥で音がした。
 何だ?
 何かいるのか?

 どこかの家の犬か猫が紛れ込んだのか?
 それとも、誰か潜んでいるのか?

 そう思ってじっと耳を澄ましてみたが、その後はなにも起こらない。
 声をかけてみようかとも思うが、そう言えば、この周りは住宅街。
 へんに大きな声を出して、聞こえても恥ずかしい。

 まあ、気にせず行くか。
 鬱蒼とした森、といっても、あと数百メートルも歩けば抜けてしまう道である。
 あまりのんびりしていて、雨脚が強くなっても敵わない。
 さっさと行こう。

 そう思って、再び歩き出す。
 だが、さっきのようなのんびりした気分には成れない。
 どうしても、辺りを気にしてしまう。
 
 パラパラパラ ペタペタペタ

 雨だれの音と、自分の足音だけが響いている。
 余計なことを考えると、ますます怖くなりそうな気がして、とにかく早くここを抜けようと小走りに走る。

 パラパラパラ ペタペタペタ ハッハッハッ
 
 日頃の運動不足が祟ったのか、ちょっと早足になっただけで息も切れる。
 それにしても、まだ道の終わりが見えない。
 さっき、立ち止まった辺りからすぐの所で、奥の神社に続く道と、参道の反対に行く道の分かれ道があったので、もうすぐ参道を抜けるはずだ。

 なのに、まだ、参道は続いている。

 パラパラパラ ペタペタペタ ハッハッハッ ドクッドクッドクッ

 何だか、心臓の音まで高鳴っている気がする。
 おかしい。
 どうして、着かない?
 小さな森の筈。
 1キロに満たない参道の筈。
 住宅街の真ん中の筈。

 パラパラパラ タッタッタッ ハッハッハッ ドクッドクッドクッ

 気付けば、かなり真剣に走っている。
 なのに、まだ参道の出口は見えない。
 同じような石畳、同じような灯籠が延々と続くだけ。
 何故だ?何故なんだ?
 間違えるような道はない。
 いや、あるとすれば神社に続く道。
 それにしても、すぐ神社に到着するはずだ。
 なのに、なんだ?
 この参道は?

 パラパラパラ タッタッタッ ゼイゼイゼイ ドッドッドッ!

 息が切れる。
 心臓が激しく波打つ。
 何故だ!何故!
 だ、だれか!だれか、助けて!

 そう叫びそうになったとき。

「どうしました?」
 その声と共に、まぶしいひかりが私を照らす。
 思わず、私は立ち止まり、まぶしいひかりから顔を覆う。
「なにか、ありましたか?事件ですか?」
 ザッザッと靴音がして、ひかりが近づいてくる。
 顔を照らしていたひかりが、横に逸れて、私はやっとひかりの方を見ることが出来る。
 人影?そう、間違いない、人だ!

「い、いや・・・その・・・」
 ここから出られなくなって・・・そう言いかけて、思わず口ごもる。
 それは、恥ずかしいだろう。
「ま・・・迷ったんです。あ、あまり、通り慣れない道なので・・・。」

 それを聞いて、近づいていた足音が止まる。
 顔ははっきりと見えないが、あの格好は・・・制服?
「あ、そうでしたか。
 確かに、短いですが似たような景色ですからねぇ。この道は。」
「あ、あの、おまわりさん・・・?」
 制服姿から連想して、そう聞いてみる。

「はい、この先の交番の者です。
 ちょうど巡回に来たんですよ。
 この辺は、あまり事件はないですが、今時、どこで何が起こるのか判りませんからねぇ。」
「あ・・・あ、そうなんですか。ご苦労様です。」
 そう言いながら、安堵している自分がいる。
 それと一緒に、さっきまで何をあんなに焦っていたのか、判らなくなる。

「じゃ、いっしょに出口に行きましょう、なに、すぐ先ですよ。」
「よろしいですか?すみません。」
「いえいえ、これも職務ですから。」
 その人、お巡りさんは軽く敬礼してからいう。
「じゃ、着いてきてください。」
 そう言って、くるりと反対を向き、歩き始める。
 大人しく、その後を追うわたし。
 もう、気持ちはすっかり落ち着いている。

 そうなると、尚更、さっきまでの自分の態度が恥ずかしくなる。
 それと同時に、このお巡りさんにも、見透かされているのではと心配になる。
 それで、おそるおそる聞いてみる。
「やっぱり、この辺でも、事件が起こる可能性があるんですかねえ?」
 お巡りさんは、あははははと笑って答える。
「いやぁ、この辺は、造成地と言っても街並ももう古くて顔見知りも多いですからねぇ。
 そう言う町では、よそ者が来ない限り、そんなに事件は無いですねぇ。」
 やっぱり、そうなのだ。
 ガサガサと音がしたとき、人がいるのかと疑った自分が恥ずかしい。
 そう思ったとき、お巡りさんがこう続けた。

「ですがね・・・。」
「え?」
「この簡単な道を、迷う人は多いんですよ。」
 意外な展開に、また、背筋がゾクリとして、もう忘れていたさっきの感覚が戻ってくる。
「迷う・・・人ですか?」
 思わず、聞き返す。
 振り返らず、お巡りさんが答える。
「そうです。
 あなたも・・・そう仰いましたよねぇ?」
「いやっ・・・その・・・。」
 なぜだか、また、心臓がドキドキし始める。
 思わず、ごくりと鍔を飲む。
 返事を返さずにいると、お巡りさんは勝手に先を続ける。

「不思議ですよねぇ?
 ホンの数百メートル、1キロに満たない道なのですけどねぇ。
 途中、分かれ道があるとは言え、そんなに複雑な道ではないのですけどねぇ?」

 お巡りさんの声が、いつの間にか平板な調子になっている。
 何の感情も感じられない声。 
「どうしてだと・・・思います?」

 雨はいつの間にか止んでるが、雨だれの音は続いている。
 辺りには、お巡りさんの話し声以外は、その雨だれと、二人の足音くらいしか聞こえない。
 そして、再び、私の心臓が高鳴っている。
「ど、どうしてなんでしょうね?」
 その心臓の高鳴りを気取られぬよう、懸命に返事をする。

「きっとね・・・化かされるんですよ。」
「ばっ・・・化かされる?」
 お巡りさんの突然の答えに、思わず変な声を上げる。

「おかしいと思うでしょ?
 でもね・・・そう、おかしな事ではないのですよ。」
 私の答えを咎めるでもなく、肯定するでもなく、淡々とお巡りさんが続ける。

「意外とね・・・そういう不思議は、すぐ側にあるのですよ。
 異界はね・・・どこにでも現れる物なのですよ。
 なかなか、今の人間は気付きませんけどね。」

 懐中電灯で地面を照らしながら前を歩くお巡りさんは、歩きながら淡々と話す。 ザッザッザッ
 二人の靴音が、石畳に響く。
 ドクッドクッドクッ
 再び心臓の鼓動が高まる。
 出来ることなら、お巡りさんを押しのけて駆け出したい気分である。
 だが・・・もう、二人で歩き出して何分もたつのに・・・・参道の出口は見えない。
 どんどんと心に広がる恐怖を打ち消すために、むりやり、私は冗談でごまかそうとする。
「はっ・・・はははははっ。そ、そんな。
 お、お巡りさん、まるで・・・自分が・・・人ではないみたいな・・・。」

 その言葉が終るか終らないかの時、ぴたっとお巡りさんの足が止まる。
「ど・・・どうしたんですか?」
 だが、その問いにはお巡りさんは答えない。
 心臓の鼓動が早くなる。
 自分の息づかいがはっきり聞こえる。
 もう、何もかも投げ捨てて逃げ出したくなる。
 そう思ったその時。

「だめですよ。逃げ出しちゃ。
 また、迷うと・・・。」
 お巡りさんが、そこまで言って、イキナリくるっと振り向いた。

「こんな奴に出会っちゃいますよ。」
 そう言うお巡りさんには、目も口も鼻も無かった!!

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 いや、調子こいて駄文を長々と綴ってしまったが、でも、まあ、希に、そんな事って無いだろうか?
 流石にのっぺらぼうには会わないだろうが、何となくぞくっとする場所や、何かの気配を感じる場所。
 都会の真ん中とは言え、そうゆう場所と機会は有ると思うのだ。

 そして、多分、その中のいくつかには、実際にまだ、妖怪が住んでいるのだろう。
 と、言うことで、その妖怪のいそうな場所、妖怪に見える物を推薦するコンテストが、この夏、水木しげる先生の故郷、鳥取県境港市で開催される。

 メインは、「妖怪のそっくりさん」コンテストなのだが、番外編として「自然界編」もあるようなのだ。
 もちろん、妖怪似に自信のある人は、どんどん、「そっくりさん」に応募して、出来れば8月に境港まで行って、水木先生ご本人と会われるのが良いのだが、残念ながら妖怪似には、縁のない人でも、近所に妖怪のいそうな場所、妖怪に見える場所があれば、どんどん参加できると言うわけである。

 と、言うわけで、とっておきの場所を知っている人、どんどん応募してみては如何でしょう?
 そうすれば、更に妖怪と仲良くなれる事、請け合いである。(仮)
 

来たれ!妖怪そっくりさん 水木記念館がコンテスト (共同通信) - goo ニュース

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