桐野夏生「東京島」

          

 先日、いつものようにパブでギネスを飲みながら夕刊を眺めていると、公開直前の映画「東京島」の紹介が載っていました。興味を持ったのは、朝日、日経ともに「原作の持つ毒気・面白さを篠崎誠監督がスポイルしてしまい明らかに失敗作」だということが控えめながらストレートに書いてあったことです。新聞でまともな評論・批評が日本映画にされるのは珍しいことです(読売は優等生的に「ユーモラスなファンタジー」とまとめていた)。
 そもそも46歳の主人公を29歳の木村多江が演じるところからふざけていて、(観ていませんが)こんなの劇場に行く方が悪いです。

 アメリカでは映画「シャイニング」を原作者スティーブン・キングが「キューブリック監督は恐怖が何たるか全く分かっていない」とこき下ろしたと以前読みました。桐野夏生がこの映画のことをメッタ切りにしてくれれば映画界に適度の緊張感を与えることができると思うのですが、日本では映画は関係者総動員の興行なのでそういうことにはならないでしょう。

 この映画評で興味が湧いて、原作「東京島」を手に取りました。もともとは大好きな桐野夏生ですが最近も「IN」、「メタボラ」と読み始めたものの早々に関心が持続しなくなることが続いていて、「東京島」のことは知ってはいましたがパスしていました。無人島に漂着した女1人と男30人なんて展開が読めるようで・・・。

 それが面白いです。著者得意の多様な人物のエグイ描写。女一人46才。むき出しの感情、むき出しの欲望、微妙な倦怠、現代風の気味の悪い奴らも沢山いて面白いです。グイグイ読ませます。
 「OUT」のような複数視点からの描写、展開もメリハリがあって読み手を惹きつけます。特に日記の食べ物の描写は秀逸。ラストのまとめ方はどうかなあと不満は残りますが、360ページ中の300ページまで一気に読ませれば個人的には満足です。

 桐野作品の登場人物の激しさは滅茶苦茶面白いと感じるか、ついていけないと引いてしまうか諸刃の剣です。アマゾンの書評を眺めると「東京島」はかなり酷評されているようですが・・・私は「OUT」、「柔らかな頬」、「ダーク」、「魂萌え!」などからは落ちるかもしれませんが、最近ではとても楽しめた一冊でした。


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