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気候危機対策のキーワード「気候正義」

2022年05月20日 | 集会報告

5月14日(土)午後、文京区民センターで「あなたはこの地球どうしますか? 気候危機! 世界・日本・地域」という講演会が行われた(主催:みんなで未来を選ぶ@文京台東中央港  通称ぶたちゅう

気候危機はたんなる環境問題ではない。人種差別、性差別、先住民族の権利剥奪など公平・平等の問題に密接に関係する。先進国と途上国の格差を拡大させている。したがって社会のあり方を変えるシステムチェンジや気候正義(クライメイト・ジャスティス)がキーワードだということを深く納得できる講演会になった。またこの日のお話は(わたくしからみれば)若い女性2人によるものだった。力強さとエネルギーを感じ、日本の将来それほど暗くないかもしれないと、少し希望が見えたような講演会だった。

気候危機と世界・日本・地域――Climate Justiceの実現に向けて
         高橋英恵(はなえ)さん (FoE Japan 気候変動・エネルギー担当)

1 FoE Japanとは
FoEは、Friends of the Earth International(地球の友)という1970年から活動する国際環境団体で、FoEジャパンは10年後の1980年に設立された。スタッフは現在14人、活動分野は、1 気候変動・エネルギー、2 脱原発と福島支援、3 開発金融と環境、4 森林保全の4分野だ。開発金融とは日本が関わる国際協力での問題、たとえばインドネシアやフィリピンへの国際協力で、人権侵害や環境破壊が発生している。そこで現地の人が望む開発を調査し外務省に伝える活動をしている。
日本の市民の「変えたい!」という声を集め大きな力にし、社会を変えていくという活動アプローチをとっている。目指すのは、地球上の人びとと生物が共生する平和で持続可能な社会だ。
自分自身は2018年にFoE Japanのスタッフとなり「気候変動・エネルギー」分野を担当し、勉強会の世話や執筆、国際会議への参加などをしている。個人としては小学4年の夏休みの自由研究で科学館で「地球温暖化」のブースを見学して環境問題に出会い、中学以降、南北格差を減らすこと、だれかの犠牲のうえに成り立つ社会の仕組みを変えたい、との思いが強くなった。

2 気候危機の現状
 (1分半の動画を上映。アフリカやアメリカの山火事、ドイツの大洪水、アメリカのハリケーン被害、中国の洪水など、気候変動による大きな自然災害の動画が映し出された)
世界で2020年に土地を離れざるを得なかった人(避難民)の人数は、紛争による難民980万人に対し、自然災害による避難民はその3倍の3070万人に上る。 
科学者の国際機構IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は定期的にレポートを発行している。昨年8月から今年4月に発行された3冊のレポートで、気候変動の原因が人間活動の影響であることは明らかであり、生態系や人間に対し複数のリスクがあること、急速な温室効果ガスの削減を要すること、すでにパリ協定の目標1.5度は不可能で2.0度に抑制するのも難しい状態にあり、今後10年がカギとなり、社会の仕組みの類をみない変容が求められていること、が指摘された。
気候変動と他の問題との関係をSDGsで説明する。気候変動で生態系が崩れると食糧問題に直結する。農業飢餓は紛争の原因となる。たとえばアフガニスタンの農業はヒマラヤの雪解け水に大きく依存するが、気候変動で水不足になると作物より換金率がよいタバコやアヘン栽培にシフトしたり、子どもの人身売買が増え、自分がタリバンなどの兵士になるようになる。台風で都市インフラが壊れると、病気のリスクが高まり、修復のためカネが教育に回らなくなるし、学校が避難所として使われ学習できなくなる。

3 気候危機に向き合うキーワード:Climate Justice
気候変動によるリスクの高い国、たとえばアフリカの国などが影響を受けやすい。一方、温室効果ガスの排出量の多いのは先進国で、少ない国はアフリカなどに多い。まさに不平等だ。
経済的にみると、世界人口80億人のうち貧困層は35億人、約半分だが温室効果ガスを7%しか出していない。一方最も裕福な1%が温室効果ガス15%を出し、裕福な10%を合わせるとじつに温室効果ガス52%を排出している。また1990年と2015年の排出量を比較すると、貧困層はこの25年であまり変わらないが、もっとも富裕な層が大幅に増やしている

COP(気候変動枠組条約締約国会議)で、途上国の人びとは「先進国は、途上国から何十年にもわたり、石油や作物などの資源を搾取して発展し、その結果気候変動を引き起こし、その被害を途上国が受けている。先進国は資源の返済や被害への賠償という借りを負っているはずだ」と主張し、気候変動の負債(Climate debt)、カーボン植民地主義(Carbon colonization)と名付けた。
2018年ポーランドでのCOP24で、イギリスのメンバーから下記の意見が表明された。
環境問題は、人種差別、性差別、先住民族の権利の剥奪などの問題と深い関わりがある。たとえば廃棄物処理場は、弱い人が住む地域に設置されることが多い。2005年のアメリカのハリケーンで一番被害を受けたのは貧しい黒人女性層だった。気候変動は、たんなる環境問題ではない。社会的、政治的な解決手段こそ、気候変動問題を解決する鍵になる。
クライメイト・ジャスティス(気候正義)のポイントは2つだ。まず気候変動を引き起こしてきた自然や人間の搾取に基づく社会の仕組みを、社会の公平性を実現するかたちで変えていこうという考え方であること。もうひとつは、すべての人が人種・性別・文化的背景・経済的状況にかかわらず、環境汚染や気候変動の影響から平等に守られる社会を目指すことだ。クライメイト・ジャスティスを実現するには社会の変革、システムチェンジが必要だ。
FoE Japanはシステムチェンジを起こすため、「限りある地球および地域の資源でまかなえる経済にする(ローカル性)」「貧困・格差・差別の解消を」「市民が主体で行うべき」など5つの原則を打ち出している。

4 Climate Justiceから日本のエネルギー政策を考える
温室効果ガス排出国の1位は中国、2位アメリカ、3位インド、4位ロシアで、日本は世界で5番目だ。日本の部門別排出量内訳は、電気をつくるエネルギー転換部門40%、工場など産業部門24%、自動車など運輸部門17%で合計81%となっている。
昨年、3年に1度の日本のエネルギー基本計画・見直しがあった。2019年度実績では石炭32%、天然ガス37%、再生エネルギー18%、原子力6%だったが、新たな30年度政府目標は電力総需要こそ1割ほど減らすものの、内訳は石炭19%、天然ガス20%、再生エネルギー36-38%、原子力20-22%だった。環境団体は石炭0、原子力0をを訴えたが、その声は伝わらなかった。菅前首相は2020年に「カーボンニュートラル」宣言を唱えた。それを基に基本計画ができた。これは温室効果ガス排出量―(森林などの)吸収量=ゼロにしようという考え方だ。FoEの立場からは問題視している。パリ協定では、今世紀中にバランスを取るといっているだけで、ゼロとはいっていない。
●石炭火力
日本では現在まだ石炭火力発電所160基が稼働している。設備容量で、事業者1位はJERA(東電と中電の火力部門を統合した会社)、2位が電源開発、3位以降東北電力など大手電力会社が並ぶ。なぜ石炭火力がよくないかというと、温室効果ガスを一番排出する電源だからだ。天然ガスの2倍の排出量なので、世界では脱石炭といわれている。ちなみに石炭は喘息の原因、環境汚染の原因ともなる。
●水素、アンモニアの問題点
最近、水素、アンモニアが注目されている。燃やしても炭素を出さず、ゼロエミッション火力といわれる。ただしいまの技術ではアンモニアは最大20%、水素は30%しか石炭やガスに混焼できない。水素、アンモニア100%への技術的な道のりは遠い
また、日本政府は水素、アンモニアを化石燃料からつくることにしている。しかし化石燃料の採掘でも、水素、アンモニアの製造工程でも二酸化炭素が発生する。
二酸化炭素を分離回収するにも莫大なエネルギーが必要となる。たとえば100万kWhの石炭火力をCO2フリーにしようとするとき、その30倍3050万kWhの太陽光発電が必要になるといわれる。それならその太陽光発電を生活に使えばよい
発生する二酸化炭素を大気中に排出せず地中に埋めようというのがブルー水素だ。日本政府は、国内だけでは限界がありオーストラリアへ運んで埋めようという。そこには他国に押し付けてよいのかという問題がある。
●横須賀の石炭火力発電所建設
JERA横須賀で石炭火力発電所をつくろうとしている。場所は1960年代から火力発電所があった場所だ。一般に火力発電所は40年で老朽化し運転停止する。この事業は2016年に「建替え」としてスタートした。1基35万kWで2基の計画だ。2019年建設開始し1号機は23年4月完成予定、2号機は24年4月完成予定、もし2基が稼働すると年間726万t/年温室効果ガスが新規に発生する。これは世界の温室効果ガスの1/5000に相当する。この火力発電はいつゼロエミッションになるか質問しているが、いまだに回答はない。
●原発は気候変動対策にならない
また原発は、放射性廃棄物処理問題だけでなく、ウラン採掘から廃棄までの労働者の被ばく問題、過疎地で発電し都市で消費する恩恵と損害の非対称性など問題が多く、気候変動対策にはならない。
●再生可能エネルギーと気候正義
では再生可能エネルギーなら何でもよいか、というとそうは考えていない。昨年6月徳島の風力発電所建設現場を見学した。山の尾根に建設していたが、部品を運ぶため山を大きく切り拓いていた地元住民への説明が不足していた。
また旅行会社のHISが宮城で、パームオイルによる発電所を建設しようとしていた。パームオイルは日本では採れず、マレーシア、インドネシアなどから輸入することになる。熱帯雨林を伐採し栽培するが、それがエコかとわたしたちは批判した。
望ましい再生可能エネルギーのあり方として、燃料等が地産地消であること、地域住民が主体的に計画・経営に参加できることなど4つのポイントを考えている。コミュニティで電力をつくることが原則になるとよいと思う。

5 立ち向かう市民たち:世界と日本の気候正義運動
昨年グラスゴーで開催されたCOP26はコロナ禍のため1年延期で開催された。登録者数は4万人弱と過去最高だったが、途上国にまでワクチンが行き渡らなかったので参加者が非常に少なく、その代わりだれが来ていたかというと、化石燃料産業従事者だった。
わたしたちは、来れなかった人たちのメッセージを会場内外で流した。また気候変動と貧困問題、労働者と気候正義の問題など、市民が路上で活発にアピールしていた。また会場の対岸で、新たな天然ガス開発をやめてほしいとの運動を大々的にやっていた。会期終了後、シェルが事業撤退を表明した。2週間の会期の毎週末に「市民は団結して負けないぞ」と声を上げ、替え歌を歌いながら大きな気候マーチ(行進)を行った。
日本でも、たとえば横須賀で石炭火力発電中止を求める市民アクションがある。環境アセスの取消を求める裁判を提訴し6月6日結審だ。また横浜で気候マーチを行っている。次回は6月4日に開催する。前回は小中学生、地元高校生も含め180人集まった。
アクション以外にも、2005年設立のC40都市気候リーダーシップグループの活動には世界97都市が加盟し、日本では東京都と横浜市が入っている。
2019年に始まった気候市民会議は、日本では札幌、川崎で行われ、今年7月武蔵野市で開催予定だ。2021年に川崎で開催したが、そのときは市民団体が主導した。
●まとめ
気候変動問題は他の社会問題と関連しているので、社会の仕組みそのものを変える必要がある。第一に化石燃料依存からの脱却脱石炭への公正な移行であり、第二に日本に求められるのは徹底したエネルギー需要削減と省エネ再生可能エネルギー100%の社会だ。

FFFとゼロエミッションを実現する会での活動を通して
         阪田留菜さん (ゼロミッションを実現する会、Fridays For Future)
わたしはいま大学2年だが、環境問題に関心をもったのは、台風で高校のグランドが水没し部活や体育祭が中止になり、気候変動のこわさを実感したことがきっかけだった。
Fridays For Future(FFF 未来のための金曜日)は、グレタ・トゥーンベリさんが2018年に学校ストライキをして一人でスウェーデンの国会議事堂前で座り込み、始まった運動だ。日本でも2020年東京で立ち上がった。英文翻訳なのでやや硬いが「科学者に耳を傾け、政策立案者に道徳的圧力をかけ、世界経済を急速に脱炭素化する行動をとる」ことを目指している。

全国38地域で若者中心に活動し、科学をベースに気候正義を重視している。昨年3月には渋谷でアクションを行い、グラスゴーのCOPに5人を派遣すると同時に新宿南口の石炭火力発電廃止のスピーチには100人が集まった。

気候変動の活動を地元でもやりたいと考え、ゼロエミッションを実現する会に入会した。昨年5月、文京チームで区議会に「1 2050年までに排出量ゼロにするゼロカーボンシティ宣言を区長に出してほしい 2 2030年、2050年それぞれの目標達成に向けた対策の検討・実行を区に求める」という請願を提出した。オンラインを使い、4日で522筆集まった。当時のメンバーは5人、若者だけでなく働いている人、定年退職後の人など幅広い年代だ。
6月区議会で不採択になったが、今年1月区長が2050年に「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明した。
こうした活動を行い、区議会の仕組みや風習の変革、気候変動対策は国だけでなく区政もしっかりやらないといけないこと、選挙の重要性に気づいた。
なお国際環境シンクタンクNGO・クライメート・アクション・トラッカーの日本の目標値は62%削減だ。自民・立民・共産の2030年の温室効果ガス削減目標は、自民46%、立民55%、共産62%だ。機会があれば、立民党員に55%の根拠を聞いてもらいたい。

その後、30分ほど質疑応答があった。わたくしが注目した2つの質疑を紹介する。
Q1 若い世代の投票率が低い。どうしたらよいか。
A  投票しても社会が変わる実感がわかないからではないか。また「選挙に行こう」というキャッチフレーズをよく聞く。「上から目線」を感じてしまう。
Q2 再生可能エネルギーのベストミックスをどう考えるか。
A  比率まではわからないが、太陽光と風力がメインになるだろう。また徳島や岐阜でやっている小水力発電にも可能性がある。バイオマスは効率が悪いので、熱利用との併用など小規模になるのではないか。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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