いきがかり上いたしかたなく・ぶろぐ

寄る年波には勝てないし難しいことは出来ないし、行き掛かり上致し方なくブログに頼ります。

ネクロフィリア

2005-12-31 01:01:11 | 超短編
 ブルーマウンテンが嫌いなわけではない。ただスーパーの棚の前に立つと、その値段の差が気になって、ついモカやオリジナルブレンドの方に手が伸びてしまう。そのオリジナルブレンドで私が丁寧に入れたコーヒーのカップを手に、恭子が立っている。
「それで祐ちゃんはさ、ホントはどんな人が好きだったの?」
 
 恭子はこういう話が好きだ。
「ホントはどんなものが欲しかったの?」
「ホントは何が食べたかったの?」
「ホントはどこへ行きたかったの?」
 ホントは、ホントは、ホントは。すべてもうすんでしまったこと。

 私に質問しているように聞こえるが、そうではない。この後、私の答えを待たずに彼女は続ける。
「私、ホントはね」
 いつも彼女は言う。
「白雪姫の王子様みたいな人がよかった」

 私がソファーに座らせておいた熊のぬいぐるみ。それを無造作に床に放り投げ、恭子は私のお気に入りのアンティークソファーに腰を下ろす。熊のぬいぐるみは本棚の前で、複雑な姿勢のままじっとしている。私の五歳の誕生日に母が買ってくれたものだ。

 恭子が白雪姫の王子様の話をするたびに、「あれはネクロフィリアだろうよ」と、私は心の中でつぶやく。シンデレラの王子様の方がまだましだ。

 恭子はまだ「ホントは」の話を続けている。ひらひらと開いたり閉じたりを繰り返すピンク色の唇。私は立ち上がりその口の中にキャラメルを放り込む。恭子は少し驚いたような表情を浮かべ、やがてちょっと微笑み、そして倒れた。

 私は白雪姫の王子様ではないから、死体には何の興味もない。さっきまで恭子だったものは今度のゴミの日に捨てるつもりだ。それにしてもまったく、私はホントはどんな人が好きだったのだろう。


*超短編というには長いけど、12月の「続・ぽえ茶」で朗読した宿題です。詩でも歌でも何でもいいのですが、とにかく「マウンテン」と「キャラメル」と「白雪姫」をおりこまなければいけません。という宿題。出したのは自分なんですが、あがいてます、かなり。











ジャンル:
小説
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