日本酒ピンバッジ倶楽部の活動を始めてはや二年となりましたが、関西は酒どころで、灘の男酒、伏見の女酒、伊丹諸白、奈良菩提酛と言われ、名高い有名酒造がたくさんあり、私達のようなささやかな応援は、特に広告・宣伝の長けた灘・伏見の酒造では相手にされないだろうという先入観があり、伏見の酒造さんへご提案する機会もなかったのでしたが、思いがけず大阪梅田のあるお店で、伏見の北川本家の社長さんと遭遇し、日本酒ピンバッジの説明を致しました。
それから数日後にお返事を頂き、「営業部で検討したところ、ぜひやりたいとの意見が多かったので、進めたいと考えています。」との事、さっそく具体的な手順を北川本家さんの営業担当窓口の方と打合せし、この様な歴史ある北川本家さんのレトロラベルで、ピンバッジとなったのでした。
2017年(平成29年)に創業360周年を迎え、「富翁」のブランドアイデンティティを「歴史を感じる京の定番酒(さけ)」と新たに決められ、これまでの歴史を再認識し、大切にしてきたものを守りながら、変えるべきものは勇気をもって変えていくという北川社長さんのお考えが、レトロラベルでピンバッジを作る事にもうかがえると私は感じました。
北川本家さんは、江戸時代初期1657年 (明暦三年)以前、宇治川豊後橋付近で船宿を営んでいた初代鮒屋四郎兵衛が造り始めた酒が「鮒屋の酒」と評判を呼んだのが、その始まりとされています。 以来、豊かな水に恵まれた環境のなかで360年以上にわたり京都・伏見の代表的な清酒として酒造りを続けられています。
酒造りは「心」であり「技術」であり、日本の特に京都の食文化とともに歩んでこられました。酒造りの伝統・人の技をを後世まで継承していくために、時には最新技術を採り入れるしなやかさを持ちながら、伝承の技にさらに磨きをかけていくことを大事にすることで、令和3酒造年度 全国新酒鑑評会でも、20回目の金賞を受賞することができたそうです。
代表的銘柄「富翁」とは「心の豊かな人は、晩年になって幸せになる」という意味で、十代目 北川三右衛門が、中国の四書五経に「富此翁」の表現をみつけ命銘しました。飲む人の心まで豊かになるような酒をつくりたい思いが込められているそうです。
「四書五経」とは、四書は『論語』『大学』『中庸』『孟子』、五経は『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』をいい、お隣の中国では、六世紀の随の時代から科挙試験の中軸となり、これらを学び登用された優秀な官吏たちが皇帝を補佐しました。
日本でも江戸時代、武士の教養の基礎として漢学があり、「四書五経」は寺子屋を通じ庶民にまで教育され、人格の根幹を形成する上での大きな影響を及ぼしました。
北川三右衛門さんの、「富此翁」を見つけ酒の銘とするその心根と教養に、私は驚きとともに感心しました。
歴史を学んでいると、時折とんでもない人物がいて、その来歴に唸る事があります。
最近では、江戸幕府の官僚群の中に高潔な人物を発見する事が多く、現代に続く維新後の明治時代に疑問を感じるくらいです。今の政治家や忖度する官僚を見ていると、「四書五経」を教育副読本で使ってもいいのではと思う今日この頃です。
それにしても、北川三右衛門さん、会って酒を酌み交わしたい気分になりますね。