続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

本能と理性と子孫

2010-10-03 | 人文科学講座
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 「子どものある女性と同居していた男性が、女性と共謀して、女性の幼い子どもを虐待し、殺害した」

 暗澹たる気持ちになるニュースですが、同種の事件は、近年、数多く発生しています。
 ニュース番組では、キャスター氏が、「いたいけな子どもを責め殺すなんて・・・まして母親がそれを止めるどころか加担するとは、鬼畜の仕業」と、訳知り顔で断じています。

 はたして、本当にそれだけでしょうか?

 人間には理性があって、それが人間を人間たらしめていることは言うまでもありませんが、その一方で、人間には動物としての本能もあり、いざというときには、理性より本能が勝った行動をとるものです。
 この場合の本能とは、子孫を残すことです。そして理性的にも、子どもを守り育てるのは正しいことです。
 したがって通常であれば、親は子どもの命を、自分の命より大事に考えます。ですからこの限りでは、キャスター氏の言葉は、間違いではありません。

 しかし状況が違えば、別な本能が、上記の「通常な状態での本能」を上回ってしまうこともあります。

 「ライオンの子殺し」というのをご存じでしょうか。

 ライオンは、1頭のオスを中心に、数頭のメスと子どもたちで群をつくっています。
 しかしオスの座は安泰ではなく、若くて強いオスに勝負を挑まれ、負ければ、主人の座を明け渡さなくてはなりません。
 そのとき、座を奪った若いオスは、これから自分の遺伝子を受け継いだ子どもを作り、育てていくためには邪魔になる、自分の遺伝子を受け継いでいない前のオスの子どもたちを殺してしまいます。
 そしてメスライオンも、それを止めようとはしません。
 メスにとっても、弱いオスの遺伝子より、より強いオスの遺伝子を受け継いだ子どものほうが、効率よくメス自身の遺伝子を残せるからです。

 人間の感覚ではおぞましいことですが、自分の遺伝子を伝えていくためには必要なことで、自然な成り行きです。

 ライオンの子殺しを、人間の例に当てはめてみると、冒頭の事例では、男性にとってその子は自分の遺伝子を受け継いでいない邪魔者に過ぎません。
 女性にとっては実子ですが、より強い「オス」が現れた以上、より優れた遺伝子を残すためには、劣ったほうの遺伝子を犠牲にするほうが、効率的です。

 そういう、人間に残っている獣の本能が起こした事件だと考えれば、何も矛盾する点はありません。

 しかし人間には理性があります。
 獣の本能が命ずる非理性的な行動を、理性が正しい方向へ修正してこそ、人間らしい行動となるわけです。
 ですから、理性ある男性と女性は、新しい配偶者が連れてきた子供でも、きちんと育て上げていきます。

 ごく普通の人間は、本能と理性をうまくバランスさせて生きていますが、中には、本能のほうへ大きく傾いた行動をとる人間もいます。
 よい配偶者を選び子孫を残すのは動物の本能ですが、上手に子どもを育てていくのは、人間の理性です。
 事件の加害者に、本能が理性に勝った行動をとりがちな比較的若い男性・女性が多いのも、頷けます。
 また、若い母親が多いのも、本能で生殖の対象となる配偶者を選んでしまい、理性的に子育てや生活を営めるかどうかを見極めなかった結果とも言えます。

 冒頭述べたような事件は跡を断ちません。
 原因として、地域社会の無関心や、公的機関の限界といったことが挙げられ、その強化が急務であると言われ、もちろん、それはそれで重要なことです。

 理性ある人間としては、獣の本能が自分の中にも存在するなど、認め難いことでしょう。
 しかし、それを無視しては問題の本質に迫ることはできず、まして対策を講じることなどできません。
 本気で取り組むつもりがあるのなら、周辺で綺麗事を言っている場合ではなく、人間の、いや、動物の本能という、「本丸」に斬りこんでいくしかありません。

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1 コメント

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参考になります (リカ)
2010-10-22 10:37:26
初めてコメントさせて頂きます。
『オンナノコぶろぐ』運営者のリカです。
(先日はご訪問ありがとうございました。)

利己的遺伝子という面からの「子殺し」解釈、とても興味深く拝見させていただきました!

少し疑問に思った箇所がありましたのでコメントさせて頂きます。

>弱いオスの遺伝子より、より強いオスの遺伝子を受け継いだ子どものほうが、効率よくメス自身の遺伝子を残せる

ここは納得がいったのですが、これは直「子殺し」につながるものなのでしょうか?
前のオスの子供も残しておいた方が、確率的によりメス自身の遺伝子を残せるような気がします。
子供は多いほど、遺伝子存続の面では有利なのでは…と思います。

特に人間の場合は(日本では)食料確保などの問題も概ねクリアされており、口減らしの意味としても子殺しが遺伝子存続に有効とはとても思えません。

進化学等の知識は皆無なのでおかしなことを言っているかもしれませんが、ご容赦ください。

これからも面白い記事を期待しています。がんばってください☆
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