フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

結婚前夜

2006年03月23日 20時08分42秒 | 最終章 エターナル
「全ての人生劇というものは結婚をもって終わるって、バイロンのヤローは言ってたけど、オレは待ち遠しいなぁ……」
カズトは、婚姻届の「夫になる人」の欄に名前を書き込みながら嬉しそうに微笑んだ。

私達は、婚姻届を挙式したその足で提出しようと決めた。
カズトは市役所で手に入れた婚姻届を、家に帰るなり書き始めていた。

そして、「夫の職業」の欄で手を止めると、「げっ!オレ、もしかして無職?カッコわりぃ。学生じゃダメなのかよ!?」と、紙に向かって1人突っ込みを入れては、私を笑わせた。

一通り書き終わると、テーブルの向かい側に座って見ていた私の方に紙の方向を変え、「ん!」と顎をしゃくりあげながらボールペンごと渡した。

緊張に震える私の手を見ながら、カズトの方が息を飲み緊張しているようだった。
何とか「妻になる人」の欄に自分の名前を書き終え、私が「ほぉ~」とおでこの汗を拭っていた時、カズトが「あ゛ーーーーーーーー!!!」と叫び、私の頭をペンッ!と叩いた。

「このバカタレ!ここは『片岡』じゃなくて、今の名前の『園田』だろぉ!」
「あ、そ……っなの?」
「あ、そ……っなの?じゃねぇよ!お前、全っ然、説明聞いてなかったな!!」

カズトは、がっくりと肩を落とすと、書き損じた婚姻届をビリビリと破り始めた。
そして、もう一度、新しい婚姻届をべしっとテーブルに置くと自分の欄を書き始めた。
「ったく。手の掛かるヤツ!さっきの方が、字がマシに書けてたのに……」

カズトが書き終わり、再度私が書く番になった。
2回目は失敗しないように、更に緊張しながらペンを滑らせていたけど、「本籍地」に「東京」と書いて手が止まった。
「カズト……。ごめんね。……間違えちゃった……かも」
カズトは、目を皿のようにして、「またかよ……」と怒りに声を震わせた。

「そう言えば、うちは本籍地って長崎だったような気がする」
「おいっ!今頃言うか?!」
カズトは私のおでこをグリグリすると、「家に電話して確認しろよ!」とむくれた。

私が急いで家に電話するとママが出た。
「そうよ。良く覚えてたわね~。パパの実家があった、長崎のまんまよ」
「やっぱり……。詳しい本籍地の住所とか筆頭者の氏名とか分かるかな?」
「パパに聞いてみないと……」
はぁ~と私が溜息を吐くと同時に、背後でカズトがやけくそ気味に婚姻届を細かく千切り、ふーふーと息を吹きかけながら紙吹雪を散らしていた。

もう!後で掃除をするのは私なのに……

「分かった。じゃ、明日、挙式の前に、パパのサインを貰う時に一緒に書くから教えてね」
そう言って、切ろうとした時、「あ!ハルナ、そう言えば、『フジエダトオル』君って言う男の子から、電話を貰ったわよ」とママが急に彼の名前を口にした。

突然のことに、心臓が動揺しざわざわと騒ぎ出す。
「……いつ?」
「いつだったかしら??」
「……なんて、言って……たの?」

ママが答えようとした時、カズトが「オレにも代わって!」と受話器を持つジェスチャーをしたから聞けなかった。

「ごめん。カズトが代わりたいって」
私はカズトに受話器を渡すと、思いも掛けず彼の名前を耳にし、高鳴る胸を抑えてベランダに出た。

遠く瞬く一番星を見上げて、ふっと笑った。
「名前を聞いただけで動揺しちゃうなんて……。
ママはダメダメだよね」
お腹の赤ちゃんに話し掛けながら、ひんやりとする手摺に手を添えて、顔を埋めた。
目を瞑ると、不意に彼の面影が浮かび、慌てて手の甲で涙を拭った。

冷気に体を震わせ室内に入る前に、もう一度、一番星を見上げた……

トオル君……
明日、私は『片岡春名』になります。



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零れ落ちる涙

2006年03月23日 00時25分16秒 | 最終章 エターナル
退院の日、私達はそれぞれの親にたっぷり怒られた。
「二人して入院なんて!親としての自覚に欠けている!」
特にカズトは、おばさんから紅葉色の立派な手形を両頬に貰っていて、痛々しかった。

マンションに帰って、私がその手形を見る度にクスクス笑うと、カズトはむっとした。
「ひっでぇ……。笑ってるし……」
彼はそう言いながら、私の首に腕を回し体を引き寄せると、拳で私の頭をグリグリし、「お前にもお裾分けだーー!」と笑った。
嫌がって逃げ回る私を見るカズトの目は、以前のように穏やかで、私をほっとさせた。

カズトは笑った私に一通り復讐すると、ソファにふんぞり返りながら、
「ったく。いい年した息子を捕まえて、『愛のムチだ!』つって往復ビンタはねぇよな」
と、ブツブツ文句を言って、鏡にその頬を代わる代わる映しては何度も「痛ぇ~」と擦った。

私がタオルを冷して彼に渡そうと、笑いに涙を拭きながら水道の蛇口を捻った時、電話が鳴った。

電話に出たカズトの声と顔が一瞬、冷たくなった。

「ハルナ……。トモちゃんからだ」

カズトの顔からは笑みが消え、受話器を持ち上げながら、私の顔をじっと見つめた。

息を飲み、震えそうな指先に力をいれて受話器を受け取った。

「もしもし……」
「あ!ハルナ!電話しても出ないから心配してたよぉ~」
テンションの高いトモの電話を受けながら、私の鼓動はその動きを速めて行く。
「……ごめんね、トモ。今、私、ちょっと手が離せないから……」

「話せばいいだろう!!」

カズトの怒声が電話を通して聞こえたようで、トモは一瞬言葉を失っていた。
「……まさか、ばれたの?」
トモの問いに、私は沈黙で答えた。

「ごめん!ハルナ!!本当にごめんね……。あたし余計な事、しちゃって……」
「ううん。じゃ、また」
「ハルナ!あたし、急いでハルナに伝えたい事があって……」
「ごめん……。切るね」

私は、カズトの目線を逸らしながら、急いで電話を切った。

トモを責めるつもりなんてない。
私は、あの京都で本当に幸せだったから……
トオル君とほんの一瞬でも心を通わせる事が出来て、一緒に過ごせて幸せだったから。

そう思いながらも動揺し、タオルを絞る手が震えた。
カズトはじっと私を見つめたまま、私の側に歩み寄るとキスをした。

「カズト、ダメ……。すぐに頬を冷さないと……」

タオルを彼の頬に当てようとした瞬間、彼は私の手を取り、ツカツカと早足で彼の部屋へと連れて行った。

そして、彼はベッドに私を押し倒すと、再び唇を重ね、胸元を弄り始めた。
「カズト……。あ……」
「今日はどんな言い逃れも聞かねぇからな……」
目を瞑り、震える息を堪える私の上半身を露わにし、その胸の頂きを口に含みながら、カズトは言った。

「ハルナ……。ハルナ……。オレの方がずっとお前の事を愛してる……」

シーツを掴み、カズトを受け入れながら、今日、アメリカに帰るトオル君を想い、私は零れ落ちる涙を枕に隠していた。



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天使の腕の中で

2006年03月22日 10時18分22秒 | 最終章 エターナル
舞う雪を見上げながら、私はいつの間にか、あの日トオル君に教わったワルツのステップをゆっくりと踏みながら、歩いていた。
「ここは……」
気付くとトオル君と初めて出会ったフラワーガーデンに足を踏み入れていた。
突然、ぐにゃりとした感覚が全身を覆い、堪らず座り込んでいた。
「や……だ。気持ち悪い……」
造血剤は昨日飲んだはずなのに……
私はその場にうずくまり、グルグルと回る世界の中でトオル君の思い出と出会った。


トオル君は謎ばかりで、いつも愁いのある横顔が気になった。
ちょっと恥かしそうに柔らかく笑いながら、髪を掻き揚げるしぐさが好きだった。

ヒンヤリとした地面の冷たさを頬に感じながら、力が抜けた。
「このまま死ねたら、楽になれるかなぁ……」
だけど、その時、お腹の赤ちゃんがトントンと私のお腹を優しくノックした。

「お前1人の問題じゃない!アカンボはオレの子でもあるんだぞ!!!」
真剣に怒ったカズトの顔が思い出され、私一人の体じゃなかったんだと、生きなくちゃと意識を必死に保った。

「誰か!すみません!!誰か……」

人気のない病院の裏庭で、私は叫んだ。
花のように舞っていた雪が、今は鋭い槍となって批難するように私の体を突き刺していく……

「寒い……」
赤ちゃんだけでも温めようと、体を丸めた。


遠のきそうな意識の中で、トオル君にそっくりな天使様が膝を折って私の顔を覗き込んでいた。
私をふわりと抱き上げると、ふわふわと雲の上を歩いてくれた。

「私、天国に行くの?」
「行けないよ。君は嘘をつくからね。……しかも、かなり下手くそだ」
天使のトオル君もやっぱりイジワルだ。

「天国なんてやめて、僕のところに来なよ」
天使様は柔らかく笑うと私にキスをした。
「この唇からは『YES』以外は受け付けないよ……」
「だめ……」
「『YES』だ」
「強引過ぎるよ。でも……」
「でも?」
「……誰よりも愛してる」
天使様ははにかむようににっこり笑うと、「僕もだよ」とキスをした。




サラサラと粉雪が音を立てて、梢から落ちる音に目を覚ますと、私は病室にいた。
強い日差しに目を細め、ヒトの気配のする方を見ると、カズトがいた。

「ここは?」
「病院」
「私、気持ち悪くなって……」
「貧血だってさ。ちゃんとメシ食え!」

カズトは私の手を握ると「ばっかやろぉ……」と唇を噛んだ。
「誰かが、助けてくれなかったら、お前、凍死してたぞ!」
『誰か』と言う言葉にぎくっとなった。
「誰が私を助けてくれたの?」
「知らねぇ……」

カズトは私をその胸に強く抱き締めると、「もうどこにも行くなよ」と体を震わせていた。




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風花

2006年03月21日 23時09分46秒 | 最終章 エターナル
キレるのかと、思った。
この間のように……


でも、カズトは私に背を向けると「出て行け……」と、声を振り絞るように言った。
布団を被り、肩を小刻みに震わせて……泣いていた。


私は、何も持たずに、そのまま外に駆け出した。

謝罪も、弁解も、しない……
それが私に科せられた罰なんだと分かってても、ただ、つらくて、泣いた。


いつの間に降ったのか、強い北風に煽られて、なごり雪が、花のように舞って、儚く消えていく。



私も消えたい
この雪のように儚くなってしまいたい


幸せにしたくて
幸せになりたくて
でもなれなくて
思いだけが空回って行く……

トオル君を、カズトをいっぱい傷付けてしまった。




トオル君……

あなたは私に「幸せになれ」と言ってくれたけど


幸せのなり方なんて、もう、私には分からない





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動揺

2006年03月21日 15時40分38秒 | 最終章 エターナル
カズトは大学病院に入院していた。

私が病室に入った時、丁度おばさんが来ていた。
「全くもぉ、栄養失調の次は過労だなんて……」

普段、カズトのことを放任主義だと公言して憚らないおばさんも、この時ばかりは優しい母の顔で彼の心配をしていた。

「ごめんなさい……」
謝る私に、「ハルナちゃんのせいじゃないわよ」と笑った。

もう帰るというおばさんの後を引き受け、病室に残り、パイプ椅子に座るとカズトの顔をじっと見た。
「顔色、悪いね……」
ベッドで眠るカズトの胸に頬を寄せ、いつのまにかウトウトしてしまっていた。

どれ位、眠ってしまったのか……
頭を優しく撫でるカズトの手に、目を覚ました。
「お帰り……」
「ただいま……」
「って、あれ?!お前、明日までって、トモちゃんから聞いてたけど」
「帰ってきた」
カズトは「え?!」と飛び起き、目眩がしたのか再びベッドに体を沈めた。
「オレのせいか……。わりぃ……」
「そんなことないよ」
「ホント、わりぃ。アカンボが生まれたら、お前、大変になるのに……。
……楽しかったか?」

カズトの優しい言葉に胸がえぐられるようだ……。
彼に表情を見られまいと、椅子から立ち上がり、花瓶の花を整え努めて明るく答えた。

「うん。とても楽しかったよ」
「そか」
「あ。そだ。お土産も、買ってきた」
バッグから、ガサゴソお土産袋を出すと、カズトに小さなコンペイ糖の入った瓶を差し出した。
「オレには可愛すぎ……」
そう言いながらも、「サンキュ!」とカズトは嬉しそうに笑った。
「トモと、ママと一緒で色違いだよ」
「え?!なんで、トモちゃん?一緒に行ったのに?」
カズトはきょとんとして笑った。
「……あ!そーか」
そう答えながら私の心臓は、バクンバクンと動揺し、不規則にリズムを打った。

カズトは私のバッグにぶら下っていた『安産祈願』の赤い巾着のお守り袋を手に取り、
「ついにこーゆーのにすがるようになったか」
と、笑った。

私は、後ろめたさに堪えきれず、「うん。……りんご、剥くね」とナイフで剥き始めた。

暫く剥いていると、背後からカズトが不意に尋ねた。
「ハルナ……、ペンダントさ……。この間、トオルに会った時、返したって言ったよな……」
「うん……。返したよ」
なぜ、突然そんなことを聞くの?
りんごを剥く手が、震えた。


「へぇ……。じゃ、これは?」
カズトの手には星のペンダントが揺れていた。



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