”伊佐沼で”
智光山公園から伊佐沼に来た。湖岸の桜にレンズを向けていたらこの老夫婦が目に入った。
桜をバックに交互に写真を撮りあっている。
湖岸を回って歩いていたら、さっきの御夫婦が少し先の桜の木の下でまだ撮っている。
ポーズをとらせたり、アングルを変えたり良い写真を撮ろうとしていることが傍で見ていても分かる。
「お二人一緒にシャッター押しましょうか」。追い抜きかけて私は声をかけた。
「お願いできますか、二人一緒に撮りたかったんです」。
私は桜の枝がひときわ湖面に張り出した場所を指定して二人を並ばせた。
「まあ専門家に撮ってもらえるなんて」。私のいでたちを見てのことだろう。
腰に来る重さに耐えて私は2台のカメラをかついでいた。
私が受け取ったカメラは写ルンですだった。カメラの予想外の軽さに一瞬からだのバランスを崩す錯覚を覚えた。
さっきからこのカメラでずっと粘って撮っていたんだ。カメラじゃない、今を残したいという気持が大切なんだ。
うまく写りますように。私は祈るようにシャッターを押した。