沈黙の春

本ブログの避難用ブログです。

2700億円の巨大防潮堤は誰のため?

2012-06-28 09:26:22 | 既得権益
 

 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2004?page=2

WEDGE7月号フリー記事

 

「千年に一度」と言われる巨大津波に襲われた三陸沿岸。
まちを守るはずの防潮堤は、全く歯が立たず、多くの住民と建物が流された。
住まいや雇用の復旧が進まないなか、
巨大防潮堤の建設ばかり優先されることに住民のあいだから不満が噴出する。
震災以来、住民の流出に歯止めがかからない。
巨大なコンクリートの塊だけが三陸の海岸に残ることにならないか。

 「完成までに何年もかかるような防潮堤を建設するぐらいなら、もっと優先すべきことがあるだろうに」 東日本大震災による津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町で、被災者の支援活動をする女性は防潮堤の建設計画をこう批判する。

 昨年3月11日に大槌町を襲った津波は、国土地理院によると、最大で22メートルの高さの場所まで押し寄せた。中心集落の町方地区では、津波によって建物のほとんどが流され、町の全住民の13人に1人にあたる1256人が死亡、あるいは行方不明のままだ。

東日本大震災の津波で倒壊した岩手県大槌町の防潮堤 (撮影:編集部)

 記者が取材に訪れたのは、震災から1年2カ月が経った今年5月下旬。防潮堤は当時のまま倒壊した無残な姿をさらしていた(写真)。

 新たな防潮堤は町内の海岸線に沿って延長4.8キロにわたって建設しようというもの。町内で最も高い町方地区の防潮堤は14.5メートルにも達し、5階建てのビルに相当する。

 こうした巨大防潮堤の建設はなにも大槌町だけではない。岩手県の三陸地方の各市町村でも建設が決まっており、県内に建設される防潮堤の建設費は合計2700億円に上る。

 ところが、この巨額事業に対する受け止めは冒頭の女性だけでなく、取材した住民は一様に冷ややかだ。震災による津波では以前からあった防潮堤が十分に機能せず、多くの被害を出したにもかかわらず、こうした反応は意外に思えた。

14.5メートルに納得していない住民

 そもそもなぜこれほどの巨大な防潮堤を建設することになったのか。

昨年7月8日に国が都道府県などに示した新たな通知がその根拠だ。このなかで国は、これまで想定される津波の高さを計算する際には、過去の津波の痕跡や歴史文献などをもとに行っていたことを見直し、十分なデータが得られない場合には、シミュレーションによってデータを得るよう指示している。

岩手県沿岸で進む「万里の堤防」計画
拡大画像表示

 この通知を受けて岩手県が昨年10月に県内24の海岸ごとに設定した防潮堤の高さは、平均12メートル(図)。これほどの高さになったことについて県の担当者は、「国の通知と同時期に示されたシミュレーションの手引きどおりに、過去百数十年に起きた地震のうち最大の東日本大震災に次ぐ明治29年の明治三陸地震のときの津波を再現したら、この高さの防潮堤が必要だということになったのです。国の基準に従ったまでで、誰が設定しても同じ結果になります」と、当然のことのように話す。

 日をおかずに大槌町は、県がまとめた設定をもとに防潮堤建設計画の住民向け説明会を始めた。住民からは、「なぜ防潮堤がこの高さになったのか。これでは海がまったく見えない町になってしまう」、「防潮堤建設より先に住むところを確保してほしい」などと不満が続出したにもかかわらず、町は昨年末に高さ14.5メートルの防潮堤を建設すると決定した。

 大槌町の担当者は、「県が設定した津波の高さを説明しただけ」とするが、防潮堤の建設に疑問を投げかける東梅守町議は、「町は『防潮堤の高さが決まらなければ、今後の津波による浸水区域を確定できず、都市計画の策定が遅れる』といいますが、住民の意見が十分に反映されないまま決定したのは問題です」と憤る。

防潮堤が先か住民流出が先か

 延長4.8キロにわたる大槌町の防潮堤のうち中心部沿岸に建設される長さ1100メートルの部分だけでも、県が見込む建設費は約260億円。その全額が国の災害復旧事業予算から拠出される。大槌町の担当者は、「いくら建設コストが膨らんでも、国の予算だから大丈夫」というが、国の財政は破産寸前だ。

巨大防潮堤の建設ははたして妥当なものなのか。専門家の評価は厳しい。東京大学先端科学技術研究センターの岩崎敬客員研究員は、「防潮堤の耐用年数は60年程度です。老朽化を防ぐには膨大な補修費がかかる上に、防潮堤の構造や形状もまだ決まっていない。これでは費用対効果を検証しようもない。

 しかも、東日本大震災クラスの津波が来れば、この高さでは不十分。巨大防潮堤の建設よりも高いところへの避難路を確保し、地震が来たらとにかく逃げるという教育を徹底するなど、ソフト・ハード両面で安全を担保すべきです」と指摘する。

 大槌町では震災以来、住民の流出に歯止めがかからない。今年1月に町が実施した調査では、「被災前に住んでいた土地で住宅を再建したい」と答えた住民はわずか19%。取材した住民の一人は、「知り合いが盛岡へ出て行った。住宅も雇用も確保されないから、町を出たいという人ばかりだ」と嘆く。巨額の予算を投じて防潮堤を建設しても、住む人がいなくなっては身も蓋もない

 

 

 

 



最新の画像もっと見る