薄煕来前重慶市党委書記の妻で殺人罪に問われた谷開来被告に対する執行猶予付き死刑の判決は、事件を担当した裁判官ではなく、北京の共産党指導部が政治的判断として下した可能性が高い。
事件の早期決着を図るため、共産党当局は薄家側と事前に「死刑回避の代わりに起訴内容を認める」といった裏取引をしていたとの見方も浮上している。
中国国営中央テレビ(CCTV)で公開された20日の裁判の様子では、谷被告はスーツ姿で被告席に立ち、手錠もかけられていなかった。北京の人権派弁護士は「殺人罪に問われた凶悪犯に手錠もかけないのはあり得ないこと。やはり彼女は特別扱いを受けている」と指摘した。
今回の裁判で谷被告は罪を全面的に認め、起訴内容について争わず、上訴しない考えも示した。しかし、多くの関係者が絡んだ複雑な事件であるにもかかわらず、裁判所は1回だけの審理で結審し、ヘイウッド氏から脅迫されていたという谷被告の長男の証人調べもなかった。「こんなずさんな裁判はみたことがない」(弁護士)と指摘する声もある。
谷被告の“協力”によって、今回の裁判は当局の描いた筋書き通り、党内の権力闘争とは無関係の単純な刑事事件となった。
猶予付きの死刑は中国独特の量刑で、2年後に問題がなければ無期懲役に減刑される。
かつて反革命罪などを問われた中国建国の父、毛沢東の妻、江青女史も1981年に
執行猶予付きの死刑判決を受けている。
自身も権力者だった江女史と党実力者の妻の谷被告を単純には比較できないものの、当時、江女史に対する判決は裁判官ではなく、共産党政治局の会議で決められたことが複数の資料によって明らかになっている。
同会議で多くの幹部は死刑を主張したが、党重鎮の陳雲氏は「党内の権力闘争に死刑を適用したという前例を作ってはいけない」と強く反対し、その意見が採用されたとの記録が残っている。江女史は数年後に病気療養を理由に“出獄”した。谷被告も病気などを理由に刑を短い期間で終える可能性がある。
今後は薄氏本人の処遇が注目される。北京の消息筋の間では「薄氏無罪説」と「別の経済犯罪で起訴される」との2つの説があるが、共産党指導部はまだ最終決定をしていないもようだ。(矢板明夫)
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