沈黙の春

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財務省の天皇②

2012-07-08 11:18:57 | 金融、経済

IMF(国際通貨基金)は5月に出した対日審査報告書で、消費税増税の必要性を強調し、来年度から10年かけて15%にする案を軸に、22%まで上げる超増税を選択肢として示した。IMFは国際機関だが、財務省が理事や幹部職員を多数派遣しており、「対日審査報告書」は財務省による「腹話術」、つまり財務省が言いにくいことをIMFの口を借りて発言する、という構造である。

 10%程度の増税では日本の財政再建はできない。これも財務省内の常識だ。主税局などでは「将来、どのような税制が望ましいのか」が検討されてきた。消費税だけで賄えないなら、所得税の累進税率の引き上げや相続税の増税など、高額所得者への課税を検討すべきだ、という意見は根強い。

強者に有利な消費税

 消費税が抱える「欠陥」になにも手が打たれないまま、税率引き上げだけが決まってしまったことへの違和感も残っている。

 輸出企業が恩恵を受ける「輸出戻し税」。輸出製品には消費税がかからないので製品を輸出する企業が、下請けが払ってきた消費税を「戻し税」として受け取れる。トヨタ自動車は2200億円(2010年)もの戻し税を受け取った。

 下請けは「企業努力」で消費税分のコストダウンを求められ、メーカーは戻し税で潤う、という仕組みは「強者に有利な消費税」を印象付ける。

 弱者に厳しい逆進的とされる消費税の欠陥を埋める策として、生活必需品に軽減税率を設けることや、低所得者に所得に応じて還付金を支払うことなどが検討されたが結論がでないまま、増税だけが決まった。雇用不安や所得格差が問題になっている現状で、税率10%への引き上げが実施されれば、重税感は増すことは避けがたい。

 消費税は、消費者が負担する税金だが、納入義務者は消費税を含む代金で売った業者だ。この不況で、消費税の滞納が増えている。小さな商店や下請け業者が、消費税を価格に転嫁できず、納税できないことが問題になっている。

 

10%に引き上げれば、滞納はさらに増え、消費税倒産も広がりかねない。「景気好転」が実施の条件として議論されたのも、消費税が企業業績や消費動向と密接につながるからだ。

残される世代の思いは複雑

 税制だけでなく、日本をどのような社会にするのか。小さい政府で行くのか、北欧のような福祉国家か。税金を上げるなら、どんな社会を目指すか。突っ込んだ問いかけを政党や有権者にすべきではないか、という意見も省内にある。

「どんな社会にするかは政治家が考えるこどだが、選択肢を示すのは役人の仕事だ。それやらずに国会の仕事である法案の通過に全精力を傾けるのはおかしい」

 そう語る若手もいる。勝次官はしばらく留まって法案の成立と政権の行く末を見届けることになる。「あとは君たちが頑張れ」ということなのか。残される世代の思いは複雑だ。

 増税で財政再建を目指すなら、IMFが云うように20%を超える消費税率が必要だろう。そんなことができるのだろうか。

 20%になったらどんな福祉や行政サービスが国民に提供されるのか。そうしたビジョンを語らず「このままではギリシャみたいなことになる」と半ば脅し、「消費増税に政治生命を賭ける」と首相は、問答無用で突っ走った。

 消費税は「全額福祉目的」とされるが、増税で浮いた資金は何に使われるのか。最近、震災対策、景気対策で公共事業が膨らんできた。「コンクリートからヒトへ」と宣言した民主党のマニフェストの旗は降ろされ、新幹線や道路、ダムへの要望が再び増している。

「主計局は予算を付ける組織。事業予算は彼らの権限だから、増税でその枠を広げたいという思いは分からないでもない。しかし政治家と組んで目先の予算を確保するような中途半端な増税は、歳出の膨張を招くことになる。なおさら社会保障削減に圧力がかかる」、と分析する人もいる。

「政権交代すれば予算の無駄を徹底的に削る。10兆円くらいは簡単だ」と言っていたのは、増税大御所の藤井・民主党最高顧問だ。その民主党は、約束したマニフェストをすべて棚上げし増税だけを決めて、分裂した。

完勝がもたらす結末

 財務省が次に連立を組むのはどこの政党になるのだろう。その連立が実際には、消費税増税を実施する。

 前回の増税は、社会党党首だった村山政権で増税が決まり、自民党の橋本政権が実施した。不人気政策を社会党にやらせ、そのあと権力に就いた橋本首相は、増税後の経済悪化に直面した。財務省に騙された、と悔やんだという。

 財務省内でささやかれる「勝ち過ぎ論」の底流には、細川政権での教訓がある。

「10年に一人の豪腕次官」と言われた斎藤次郎次官が細川政権を動かし「国民福祉税」を画策した。政権瓦解で財務省は政治的報復を受け、金融部門を分離させられたうえ、「大蔵省」という名前も剥奪された。政治への介入は慎むべし、という教訓が生まれたが、再び起こった政権交代で、財務省は政治のど真ん中に立ってしまった。

「ポスト勝」の財務官僚たちが心配するのは、今回の完勝がもたらす結末である。

 財務省が担ぐ野田政権という神輿は壊れかけている。自民党の谷垣体制も危うい。自在にできたこのコンビが退場し、反野田、反谷垣の勢力が天下を取れば、財務省への風当たりは厳しくなる。

 政局の風向きによっては、「財政再建に向けた第二歩」どころか「一歩目」を踏み出すことさえ危なくなるかもしれない。

 誰の目にも財務省主導の増税である。しかし事務次官は政策に責任を持てない。野田首相以上に「命がけ」で取り組んでいる勝英二郎次官の採る道は一つ。そこまで信念を持って政治に関わっているなら、「財政再建党」を作って政界に打って出ることをお勧めする。

http://diamond.jp/articles/-/21105?page=6

 



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