沈黙の春

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シャープ報道 新聞を読み比べるとこんなに面白い

2012-09-04 13:36:48 | 金融、経済
は経済ジャーナリストにとって受難の季節だ。お盆休みが近づくにつれ企業や行政の動きは停滞し、ニュースが急激に少なくなる「夏枯れ」の時期にあたるからだ。
新聞社やテレビ局のデスク、ディレクターは普段以上に頭をつかって経済ニュースをひねり出す、あるいは仕立てる工夫が求められる。ところが、今年は例年と比べて少し様子が違っていた。

電機大手シャープの経営をめぐる報道が7月から8月にかけて熱を帯び、本社のある大阪を中心に盛り上がったからだ。

 経済報道のなかでも企業の経営危機に関する報道は、記者にとって最大の腕の見せ所である。当然、企業側は情報を出したがらない。
各社の記者はさまざまなソースにあたって情報を組み立てていく。
それまで積み上げてきた人脈など経験値も問われることになる。

シャープほどの大企業の危機ともなれば、デスクやキャップからの要求も激しさを増す。担当記者には「他社に抜かれるな」と相当のプレッシャーがかかっているはずだ。

 その結果、報道内容はメディアによって微妙に異なることが多い。

最近は複数の新聞を読み比べている人も多くないだろうが、
私のように長く経済報道に携わってきた人間は、どうしても各紙の「違い」に着目してしまう。

各社の報道姿勢や現場の状況がそこに表れていると考えるからだ。

読売と日経 売却対象に違い 

 業績が悪化したシャープは台湾の電子機器の受託生産で世界最大手の鴻海(
ホンハイ)精密工業から出資をうけ、経営再建を目指しているが、
その資本・業務提携の効果が見られず、業績が回復していない。

8月初めに2013年3月期の連結決算の業績予想を2500億円の最終赤字と予想し、5000人規模のリストラを発表したあたりから株価が急落した。

 この頃からシャープ報道は過熱する。大きく事態が動いたのは8月中旬だ。
まず16日に読売新聞が「シャープ、主力工場売却へ 太陽電池拠点、市ヶ谷 幕張のビルも」と朝刊一面に報じる。朝日新聞などその日の夕刊段階から追いかけたメディアもあった。

日本経済新聞は音無しの構えか、とみていたところ、翌日17日に朝刊で「シャープ、主要事業売却、複写機や空調機器、亀山工場分離も検討」と報じた。一面に大きく見出しが踊る派手な報道で、NHKは早朝からほぼ同内容で追いかけていた。


次のページ >> 社長インタビュー 媒体によって実施日に差


売却対象が赤字の太陽電池や間接部門の入居する自社ビルに留まるのと、黒字事業である複写機や空調機器、主力の亀山工場にまで波及するのではインパクトがまったく異なる。

当然、シャープ側もセンシティブになる。シャープはこの日、「日本経済新聞における当社の事業売却に関する報道は事実ではない」とコメントを発表した。

企業が具体的な媒体名をあげて報道を否定するのはきわめて異例だ。

 8月17日の日経報道にシャープはかなり頭にきていたのかもしれない。
その雰囲気を醸し出していたのが、27日の奥田隆司社長のインタビューだ。

新聞では読売、雑誌ではこの日発売の週刊ダイヤモンドのみに載った。

読売の記事には、「亀山工場については、『シャープの生命線だ』と述べ、別会社化や他社からの出資受け入れは否定した」とある。日経報道の否定のダメ押しと言える内容だ。

その後9月2日になって日経、朝日にも社長インタビューが載ったが、シャープが媒体によって社長インタビューの実施日に差を付けたことは、何らかの会社側の意図があると見るべきだろう。

 読売と日経の報道でなぜ売却候補事業がずれたのか。あくまでこれは想像でしかないが、読売が16日に報道したことで、日経は読売に「抜かれた」形になった。

経済専門紙で、取材記者の陣容も一般紙より多いはずの日経が一般紙に産業ネタを抜かれることは、存在意義にかかわる。

そのため、翌日の朝刊で読売を上回る内容で勝負し、かつ独自色を出したいとの思いから、これまでの報道で言及されていなかったシャープの黒字事業や世界的に有名な亀山工場に着目して書いたのではないか。

当然すべての記事に根拠はあるはずだから、シャープ内部に黒字事業や亀山工場など聖域にとらわれずリストラすべきとの考えをもっている役員らがいたのかもしれない。

 企業をめぐる取材は通常、社長や役員などの当事者のほか、取引金融機関などにも取材した情報を総合判断するが、当然ながら関係者の口は固い。

一方で取材は加熱し、記者にもプレッシャーがかかってくる。

そうした状況が続くと、報道はいきおい乱戦様相を呈し、願望や予想に近い報道が飛び出してくることもある。

とはいえシャープの状況はいまだ流動的であり、危機がさらに深刻化すれば、売却対象が拡大することは当然あり得る。読売と日経の報道のどちらがより真実に近かったかは、最終的な再建策の発表時点で確定することになる。


追加融資額についても異なる報道

 取引銀行の追加融資額についての報道も、メディアによって時期や金額が微妙に異なった

。読売は23日の朝刊で「8月末と9月末に計2300億円程度の追加融資を検討」と報じたが、朝日は同じ日に「計2000億円規模」、日経は24日、「月内に1500億円の追加融資枠を設定する検討」と報道した。いずれの報道も近いと見れば近いが、全く違うと見ることもできる。

あるいはどれも正しいのかもしれない。

 金融機関への取材でも確証がなかなか得にくかったのか、限られた情報で勝負する苦心が伝わってくるようだ。このような違いが発生したのは異なる金融機関に取材した結果、それらの言いぶりに違いが出たからではないか。

報道各社はそれぞれ得意とする取材先の銀行や分野やキーパーソンをもっているはずだが、そうしたところに対する取材の温度差が細かな違いとして出たのだろう。

 「世界の亀山工場」で作った液晶テレビ「アクオス」を世に送り出し、女優の吉永小百合さんをCMに起用してきたシャープ。

日本を代表する企業が経営難に陥っているという現実を知った多くの読者や視聴者は驚いたことだろう。8月末の鴻海との出資比率の見直しをめぐる交渉はうまくゆかず、持ち越しになった。9月末にかけて、さらにいろいろな真相が見えてくるのかもしれない。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2189?page=1より








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